最初の挨拶
パンダとジョン

BBC制作、現代版シャーロック・ホームズのドラマ「SHERLOCK」ファンのブログです。
①正典/聖典(原作)と比較しながらドラマを観て、元ネタ探し
②ドラマでまだ出てこない原作の事件は、SHERLOCKだとどんな話になるのかな?と妄想する

…を一人で(主にトイレとかお風呂で)楽しんでいたのですが、
さまざまな方にご意見をいただけたら楽しいだろうなあ、と思って始めました。
ネタバレ満載ですのでお気をつけください!
★原作の文章を引用する際、主に新潮文庫版(延原謙・訳)を参考にさせていただいております。
★全ての記事は、推測やこじつけを基にしており、たまに妄想も入っております。ご了承の上ご利用ください。
★このサイト及び記事へのリンクは、どうぞご自由になさってください。
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タイトルについて(2)

第2話のタイトルは"The Blind Banker"。
NHK・BSプレミアムで放映された際は「死を呼ぶ暗号」という訳がつけられました。

原題は、おそらくセバスチャンに見せられた、目の上にペンキで線を引かれた銀行創立者の肖像画を指しているのだと思います。
前の記事で「正確な訳が良い訳とは限らない」という私見を述べましたが、日本語版タイトルを「目隠しされた銀行家」としなかった翻訳者さんのお気持ち、わかるような気がします。

この肖像画は一応シャーロックとジョンがこの事件に関わるきっかけであるものの、あまりにも印象が薄いというか、たぶん大半の視聴者は、見終わる頃にはこの肖像画のこと忘れてると思うんですよね。例えば銀行内部で捜査が進行していくとか、密輸組織と創立者の因縁話が関わってくるとか、とにかく内容とタイトルがうまくリンクしていないと、推理ものとして「フェアじゃない」気がします。

その点、「死を呼ぶ暗号」はこの作品の鍵となる部分をしっかり押さえている、非常にフェアな題です。
ただ、公明正大過ぎて、あのペンキで描かれた落書きが殺人予告の暗号である、とはっきり明かされるまでの描写がちょっともったいないような気がします。(まあ、漢字文化圏の視聴者にとってはもともとこの『暗号』がすこし弱いので、別にいいといえばいいのかもしれません。招き猫屋さんの辺りまでは『早く気づけよお前ら!』と上から目線で鑑賞できるのが私たちの特権というか、損してるところというか)

原作ばかりひいきするようですが、そういう風に考えると「踊る人形」(The Adventure of The Dancing Men)というタイトルはすばらしく「巧い」のだなぁと、あらためて舌を巻くばかりです。鍵となる要素をきっちり掬い上げているのに、「ネタばれ」もしていない。むしろ作品に不可思議な雰囲気を与え、読者の興味を惹きつけます。

さて、「そんな偉そうなこと言うならお前、2話にいい題つけてみろよ!」と皆さんお思いでしょうが、私も全然思いつきません…
(だいたい、ドイル先生がどういうシステムで入稿してたか知らないけど、現代人は大変なんだよ!時間をろくに与えられなかったり、内容決める前にタイトルだけ先に提出させられたりとか、皆さんの職場でもないですかっ!?)
と、個人的な愚痴を吐露してもしかたないので、「ドイル(またはワトスン)の題のつけ方のポイント」だけでもまとめてみようかなと思います。

1、「筋を通す」
その作品の軸になる謎の鍵や、中心となる登場人物の名前や役割、舞台となる土地や建物の名前や形状を用いる。
この段階で、いいタイトルになるかどうか大体決まっちゃう気がします。というより、ドイル先生の場合はタイトルになり得るような面白いモチーフを思いついて、そこから話を書いていくのではないでしょうか。
既にストーリーが与えられているワトスンや翻訳者は、ここで苦心させられることになります。
グラナダ版の「あるお話」のラストシーンでは、タイトル付けに悩むワトスンに代わって意外な人(って一人しかいないけど)が文学的才能を発揮します。

2、「謎をちりばめる」
タイトルが鍵であり、トリックを悟られるおそれのある場合は、別の視点で名付け直す。
「踊る人形」「まだらの紐」「ライオンのたてがみ」なんかはこのパターンですね。
地名や人名の場合は、「ボスコム渓谷の『惨劇』」「『黒』ピーター」のように、衝撃的な言葉を組み合わせる例もあります。

意外と多いのが「数字との組み合わせ」。
「三人ガリデブ」「三人の学生」「四つの署名」「オレンジの種五つ」「六つのナポレオン」、序数になりますが「第二の汚点」。
民話や童話にも「三匹の熊」みたいに数が入った題はたくさんあります。「何かが複数存在する」ということは、それだけで私たちに物語を予感させるのかもしれません。

ただし、1のモチーフそれ自体が特徴的だったり、ミステリアスな雰囲気があったり、十分な文字数がある場合は2の作業は省かれるようです。

3、「題名自体に謎を」
これはオプション。"The Adventure of the Speckled Band"や"The Adventure of the Solitary Cyclist"のようにダブルミーニングになっていたり、ミスディレクションが含まれていたら最高(翻訳家は泣きそうですが)。

ドイルがこういう過程を意識して題名をつけていたかどうかはわかりません。そっけない題もたくさんあります。でも、一度でも「ホームズもの」を読んだ人なら、内容を覚えているかどうかは別として、必ず一つ、二つはタイトルを言えるのではないでしょうか。
印象的な題名の数々は、ホームズシリーズの人気を支える大きな要因のひとつだと考えています。
そして、(ホームズに限りませんが)そういう優れたもの、すばらしいものから何か学び取れたら、いつか私のような凡人でも人生で一回くらいはそれを超えることができたりなんかしちゃったりして、と妄想している次第です(弱気すぎて文末が広川太一郎みたいになってますけど)。

私の一番好きな訳題は、延原謙氏が訳した「犯人は二人」です。
原題は"The Adventure of Charles Augustus Milverton"。
この題は、前述した全ての条件にかなう上、原題よりも的確に「物語の最も印象深い要素」を掴めているような気がします。
翻訳が原作を超えられることを証明してくれる、好例だと思います。

【追記:2014.5.1】ゆいさんに、「The Blind Bankerは肖像画だけでなく、真実が見えていなかったヴァン・クーンあるいはセバスチャンのことも指しているのでは」とご指摘をいただきました。なるほど、それなら納得です!
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この記事へのコメント

わはは - RM - 2011年10月09日 11:56:36

>グラナダ版の「あるお話」のラストシーンでは、ワトスンに代わって意外な人(って一人しかいないけど)が文学的才能を発揮します。

「気持ちよくくすくすっと笑う」と先日コメント欄で書きましたが、こちらももう、くすくす、うふふ、あはは、と笑いました!

"The Adventure of the Solitary Cyclist"について、質問です。NHK版では「美しき自転車乗り」になっていますね。ドイルはこのタイトルをどういう意図でつけたのでしょう。「ダブルミーニング」ということは、どちらにもとれるように、でしょうか。

「美しき自転車乗り」 - ナツミ - 2011年10月09日 23:52:37

グラナダ版の「あのお話」、大好きなんです。ラストシーンもいいですが、冒頭でホームズが床屋にきた理由をワトスンが推理してみせるところも好き!(あ、書いてみて気がつきましたが、お互いのお株を奪ってみせることで『あいこ』になってるんですね!)

"The Adventure of the Solitary Cyclist"の二重の意味ですが、おそらくRMさんのおっしゃる「どちらともとれるように」じゃないかと思います。
未読、または未鑑賞の方が読んでくださっているかもしれないので、少し下げますね。



(以下、「美しき自転車乗り」のネタばれです)



グラナダ版の訳題は延原謙訳と同じ「美しき自転車乗り」ですが、原題は"The Adventure of the Solitary Cyclist"。
直訳すると、「孤独な」、「ひとりぼっちの」、または「さびしい」自転車乗り、という感じですよね。

この作品に出てくる「自転車乗り」は二人います。
一人は「田舎道を一人で自転車で走っているとき、同じように自転車に乗って後をつけてくる人物がいる」とホームズに訴えてきた依頼人の美女、ヴァイオレット・スミス嬢。もう一人は、彼女をつけてきたほうの「自転車乗り」です。

タイトルの「自転車乗り」とは、寂しい田舎道でひとり自転車を漕ぐスミス嬢である、と解釈するなら、「美しき自転車乗り」という邦題は成り立ちますし、はじめのうちは読者もそうだと思っています。

ところが、読み進めると、「追っている方の自転車乗り」は男やもめで、餌食にしようとしていた(共犯者と結婚させて、彼女が相続する遺産を山分けしようとしていた)はずのスミス嬢に恋してしまい、乱暴な共犯者の手から守るために、陰ながら彼女を見守っていたということがわかります。
このタイトルは、スミス嬢へのかなわぬ想いを胸に秘めたまま、ひとりぼっちで彼女を守ろうとしている男のことを言っている、という見方もできるわけです。

ここから先は単なるワトスンファンのたわごと、と軽く流していただきたいのですが、この男に対して
「あなたは愛と呼んでいるが、それは自分勝手というものです」
と言い放つワトスンに、きゅん、としてしまう私です。
彼が事件の関係者に感情的な言葉を投げつけるなんて、めったにないことです。

「四つの署名」でのちに妻になるメアリに恋してしまったものの、事件の渦中にいる彼女を気遣って自分の気持ちを隠し通し、莫大な資産の持ち主になるメアリに自分はふさわしくない、と悩みまくっていたワトスンは、きっと男にかつての自分を重ね合わせたのでしょう(『美しき自転車乗り』の事件は、彼がメアリと『悲しい別れ』~おそらく死別~をし、ホームズと再び同居を始めた翌年に起こっています)。
私としては、"the Solitary Cyclist"のSolitaryという言葉には、ワトスンの男への共感や同情が込められているような気がするのです。
だから、延原チルドレン(←※そんな言葉はありません)の私には珍しく、この作品の訳題は「一人ぼっちの自転車乗り」や「さびしい自転車乗り」の方がいいんじゃないかと思っています。

これだからやめられません! - RM - 2011年10月10日 13:52:32

いやあ、これだからナツミさんへの質問はやめられないんです。グラナダ版チルドレン(←※そんな言葉はありません)の私は、原作ではワトスンがメアリに恋をした時にそんなふうに悩みまくっていたことも、また「美しき自転車乗り」の事件は、ワトスンがメアリを失ってからの事件ということも知りませんでした。(あ、それからグラナダ版の訳題「美しき自転車乗り」は延原謙訳と同じということも。)

もちろんグラナダ版をみる時に、「美しき自転車乗り」のワトスンを、メアリを失ってからのワトスンとしてみる必要はないですし、制作者たちもそのような意図ではないはずですが、でも原作についてうかがってからあらためて思い出すと、「あなたは愛と呼んでいるが、それは自分勝手というものです」 のところ、デイビッド・バークのワトスンは、とても複雑な感情を見事にあらわしていますね。ただの非難ではありませんね。

ここは、男性が一途に恋する気持ちも知っているし、女性の感情も大切に思っているワトスンの、ワトスンらしい一言、としてデイビッドがこのセリフを口にしたように感じました。

そしてグラナダ版の「あのお話」で「お互いのお株を奪ってみせる」!私も気がつきませんでした。さあ、今日はこれから「あのお話」をみます。

あ、BBCの「シャーロック」の第二シーズンのタイトルについての情報もありがとうございました。

「友情の研究」 - ナツミ - 2011年10月10日 22:08:31

今日はうららかなお散歩日和で、「あのお話」を観るにはぴったりでしたね!
私も「美しき自転車乗り」のデイビッド・バークを観たくなってしまったので、グラナダ版DVDを観て連休をしめくくろうと思います。
そういえば、グラナダ版のメアリはワトスンとは結ばれなかったけど、とっても綺麗な方でしたね~。

作品内の時系列を気にしながら読むようになったのは、実は最近のことなんです。

ジューン・トムスンの研究書「ホームズとワトスン~友情の研究」によると、最初の短編集「シャーロック・ホームズの冒険」「シャーロック・ホームズの思い出」が相次いで発表されたのは、ホームズがライヘンバッハの滝で「死に」、ワトスンとメアリの「悲しい別離」があった後のことなんですね。

ワトスンがケンジントンという一等地で開業医の仕事をこなしながら、これだけ精力的な執筆活動をしたというのは、他の時期のペースに比べるとちょっと異常なくらいなのだそうです。
ジョンがブログでシャーロックの冒険を綴るように、ワトスンも「リアルタイム」でホームズの記録を発表していたと私たちは考えてしまいがちですが、実はこの一番有名な作品群は、親友と妻を相次いで失ったワトスンが、忙しい仕事の合間に心の隙間を埋めるようにして書き続けたものだ、ということをトムスン氏は指摘しています。

この説で、私のホームズシリーズを見る目は変わりました。(かなり影響を受けてるので、ひょっとしたら『美しき自転車乗り』の件も自説のつもりでトムスン説かもしれません…長いこと人に貸しているので今は確認できないのですが、もしそうだったらごめんなさい!)

きっと、この2冊の本を書く間、ワトスンはそこにいない親友や妻ともう一度同じ時間を過ごしたのでしょう。そしてそれは彼にとって、生きてそこにいる人と分け合うのと同じくらいかけがえのない時間だったに違いありません。大きなものを喪ったあとで、そういう行動を選択したワトスンのことを、やはり好きだなあと思います。(ってこれもトムスン氏が書いていたりして。彼女もかなりのワトソニアンとお見受けしてるので。もしそうなら本当にすみません…)




もっともっと好きになりました - RM - 2011年10月10日 22:58:32

>きっと、この2冊の本を書く間、ワトスンはそこにいない親友や妻ともう一度同じ時間を過ごしたのでしょう。

ああ、ありがとうございます。私の中でワトスンのイメージがとてもゆたかになり、ワトスンのことをとても好きになり、そして、ワトスンがそれほど大切におもっていたホームズのことを、今までにもまして好きになりました。

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Author:ナツミ
シャーロック・ホームズが好きです。どちらかというとワトスン君がより好きです。

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