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最初の挨拶
パンダとジョン

BBC制作、現代版シャーロック・ホームズのドラマ「SHERLOCK」ファンのブログです。
正典/聖典(原作)と比較しながらドラマを観て、元ネタ探しをしております。
ネタバレ満載ですのでお気をつけください!
★原作の文章を引用する際、主に新潮文庫版(延原謙・訳)を参考にさせていただいております。
★全ての記事は、推測やこじつけを基にしており、たまに妄想も入っております。ご了承の上ご利用ください。
★このサイト及び記事へのリンクは、どうぞご自由になさってください。
「あの場面の元ネタは?」という時はこちらへ
ブリキの文書箱

ユーラスは姉か妹か

お久しぶりです。本業のほうがだいぶ正念場に入ってしまい、正月も山のように宿題を抱えている身でございます……資料を読んでも読んでも、ゾンビのように新しいのが追っかけてくるよ!

そんな日々ですが年末年始、不義理を続けていた方々とちょっぴりお話できたり、、(再放映の恩恵で)アクセスいただいたり、新たにコメントもいただいたりして、生きることに必死過ぎて見失ってた承認欲求がちょっぴり回復してきましたよありがとうございます!!今のうちにちょっくら新しい記事でも書いてみようかと思います!あ、S4の元ネタを求めていらっしゃった方は、大御所がやってらっしゃるんでそちらへどうぞ!!



……さて。ちゃんとした元ネタを求めていらっしゃった方は既にハヤカワ書房に行かれたと思うので、もう友人知人しか読んでないと信じてぶっちゃけますが、S4は大ネタが過ぎますよね!

ただでさえどったんばったん大騒ぎな第4シリーズで存在感が大きいのは、やはり「ホームズ家のもう一人のきょうだい」ユーラス・ホームズ。ていうか、あり過ぎるわ存在感。 7年間一応ミステリーという体裁を保ってきたシリーズを、たった1.5話かそこらでサイコ・スリラーに塗り替えた実力の持ち主です!もうアンタが優勝!ちゃんぴよん!!次点は数世紀にまたがって友情+ほのかなブロマンスを貫いてきたホームズとワトスンの仲をドロドロにした、メアリ・モースタン!おめでとう!おめでとう!ありがとう!【新世紀エヴァンゲリオン:終】

……そんな無意味なランキングはいいんですよ。(ごめんなさい、更新久しぶり過ぎてだいぶとっちらかってます)
グールド説を下地に「もう一人兄弟がいるのか」と思わせておいて女性だった、というのは、第1シリーズ1話でシャーロックがジョンのきょうだいの性別を間違えたことの裏返し。こういうのがすごく巧いですよね、このドラマは。
第4シリーズには、これまでにシャーロックとジョンの二人がしたこと、されたことが「返ってくる」描写がいっぱいある。少しずつ追っていきたいと思います。

ところで、英語で書かれたものを読む時たまに立ちはだかるのが「兄か弟か/姉か妹か」問題。
brotherにもsisterにも、年上か年下かという意味は含まれてませんからね。「姉・妹・兄・弟」の漢字一文字で年齢差まで表現するのは、何につけても年上を重んじる文化だからこそ、なんでしょうね。

このブログの初期の記事でも、ジョンのきょうだい・ハリエットを「姉」ということにしちゃってますし、たしかNHK版でもそうなってた。
のちにSHERLOCK CONでジョンのプロフィールが発表され、妹だと判明したと聞きました。あの時はびっくりしました。
私も含め多くの人がハリエットを「姉」だと思ってしまったのは、彼女の元ネタのせいなんです、たぶん。

“Quite so. The W. suggests your own name. The date of the watch is nearly fifty years back, and the initials are as old as the watch: so it was made for the last generation. Jewellery usually descends to the eldest son, and he is most likely to have the same name as the father. Your father has, if I remember right, been dead many years. It has, therefore, been in the hands of your eldest brother.”

「そうさ。Wは君の姓だ。制作日付は五十年ばかりまえで、彫りこんだ頭文字もおなじくらい古くなっている。つまりこれは、われわれの親の代の代物なんだ。貴重品というものは親から長男にゆずられるのが普通で、その長男は父親とおなじ名をあたえられることが多い。君のお父さんはたしか、だいぶ前に亡くなったとか聞いている。だからこの時計は、君のいちばん上の兄さんが持っていたのだ」(『四つの署名』)



ね?原作ではもうはっきり「長兄」ということになってる。原作読んでる人はこれを踏まえるから、「ハリエットはジョンより年少」というはっきりとした根拠がない限りは「姉」と訳すと思うんですよ。
ユーラスも、NHK版ではシャーロックの「妹」ということになってます(スクリプトをきちんと読み込んでいないので、もし作中にシャーロックとユーラスの年齢差に言及があったら、お教えいただければありがたいです)。
幼少時の二人の描写を見ると、シャーロックが弟のように見えなくもないのですが、ユーラスが妹なのだとしたら、こちらがその元ネタかもしれません。

“But you would not advise me to refuse?”
“I confess that it is not the situation which I should like to see a sister of mine apply for.”

「でもそれでは、断ったほうがよいとおっしゃるのでもございませんのね?」
「正直に申しますと、これが自分の妹か何かだったら、こういう質問はいやだと思いますね」



And yet he would always wind up by muttering that no sister of his should ever have accepted such a situation.

そのくせそのあとではかならず、自分の妹ならけっしてあんな家へやりはしないとつぶやくのがきまりだった。



上記2つの引用は、『椈屋敷』から。
家庭教師の職に就くヴァイオレット・ハンター嬢が、雇い主の提示した奇妙な条件について、ホームズに相談に来る場面。日頃女性に関心のないホームズが見せた保護者的な態度に、ワトスンも驚いています。事件の解決とともにホームズはハンター嬢に関心を示さなくなるので、「自分の妹なら就職には賛成しない」というのは「根拠が足りないので探偵として引き止めることはできないが、なんだか嫌な予感がする」くらいの意味でしょうが、ヴァイオレット・ハンターの描写には、確かに「ホームズの妹」的な賢さと勇敢さがあります。
ハンター嬢の年齢ははっきりと書かれているわけではありませんが、the young ladyとなっていますし、家庭教師としての職歴も5年ほどのようですから、ホームズやワトスンより若いはず。「妹」と訳されるのは自然な感じがします。

ユーラスの名は『最後の挨拶』の「東の風」から来ていますが、シャーロックの姉妹、という設定は『椈屋敷』も意識されているかもしれません。
『椈屋敷』は郊外の一家庭という閉鎖的な環境で、若い女性が監禁される話です。
それが現代版の(郊外にある)ホームズ家や、「長男の名」から転じて特殊な監禁施設となった「シェリンフォード」を想起させるような気もします。

「君はこういうことに気がついているかい。僕のような傾向をもつ男には、何を見ても自分の専門にむすびつけて考えないじゃいられないという精神的苦痛のあることを?君はこうした農家の点々としている景色を見て、美しいと感嘆している。だが僕にとっては、こういう景色を見ておこる感じは、家のちりぢりにはなれていることと、したがって人知れず罪悪が行われるだろうということだけなんだ」
「驚いたな。このふるい農家が点在するのを見て犯罪を連想するやつがあるもんか!」
「ところが僕にはいつでも一種の恐怖なんだ。僕は自分の経験に照らして信じているが、美しく平和そうな田園というやつは、ロンドンのどんなに卑しい裏町にもまして、怖るべき悪の秘密をひめているものだよ」
「嚇かしちゃいけない」
「嚇かしなもんか。それにはちゃんとした理由があるんだ。都会では法律の手が届かぬところにも、世論の力というものがあって、代りをつとめてくれる。どんなにひどい裏町へはいっても、子供の苛められる泣き声とか、酔っぱらいのなぐりあいの物音とかは、必ず隣近所の同情をひき、憤慨をかもすものだ。そして司法機関はいたるところ手近に備わっているのだから、ひと言それと訴えさえすれば、たちまちその出動をみるので、犯罪から断罪まではほんの一歩に過ぎない。
けれどもあの寂しい家々を見たまえ。みんなはなればなれにひろい地所にそれぞれ独立していて、多くは法律のほの字も知らないような無知な人たちが住んでいるのだ。こういうところでひそかに悪事が行われたとしてみたまえ。おそらく何年でもその秘密は埋もれたままで、世に知れることはないのにちがいない。(後略)」



『椈屋敷』で郊外に向かう列車の中での、ホームズとワトスンの会話です。
『海軍条約文書事件』でのホームズは、逆にロンドンに入っていく列車の中で、高架から町並みを見下ろすのは心楽しいことだと語り、レンガ作りの公立学校を未来を照らす灯台だと、そこからより賢くて素晴らしいイングランドの未来が生まれてくると表現します。
(後年田舎で暮らすことを選択しますが)この頃のホームズは、都会化していくこと、無知で閉鎖的な人々が啓蒙され均質化されていくことで世界がより良くなっていくのだと、信じていたのかもしれません。
対して現代版のシャーロックは、インターネットを駆使してホームズよりもずっと多くのデータを手に入れられる時代に生きながら、自身の家族の記憶に大きな穴を抱えていた。この対比も面白いと思います。

(原作からの引用はすべて延原謙訳)
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この記事へのコメント

田舎は怖い、か? - 篠田真由美 - 2018年01月04日 08:34:27

明けましておめでとうございます。三が日も過ぎまして、私も今日から平常運転、仕事再開です。

引用の『ブナ屋敷』、ホームズとワトソンの「田舎」に対するイメージの相違は、前からちょっと気になっていました。田園の風景を称えるワトソンの、わりと平均的な観念に対して、田舎の閉鎖性を嫌悪するホームズ。彼の「経験」は、探偵として犯罪を解決してきた経験という風に一応は解釈できるけれど、なんとなくもっと深刻な、探偵以前の彼が晒されていた状況の記憶ではないか、と深読みしたくなります。ましてホームズは、兄を除いて自分の家族や生家について、ほぼなにも語っていないのですから。
アメリカのモダン・ホラーを読むと、「田舎はすてき」モチーフもあるけれど、「田舎は怖い」モチーフも非常に強固で、トマス・トライオンの『悪魔の収穫祭』とか、キングの諸作とか、「閉鎖的な土地固有の習慣や価値観に、無知な都会人が幻惑され、田舎賛美から田舎恐怖へ転がり落ちていく物語」が、ひとつの定型化しています。日本でもたとえば都会派の江戸川乱歩に対して、横溝正史はこの田舎の閉鎖性とよそ者には理解できない価値観が犯罪に繋がるミステリをたくさん書いています。
ホームズ物語は基本都会派ですね。ドイルは死んだ父親との経緯や、母のことを考えると、やはり都会にこそ自由があると感じ、ロンドンの悪徳に対する田園の美や素朴な人情を、無責任に褒めそやすワトソン的都会人に反発したのではないか、つまりここにはホームズの本心と同時にドイルの本音も覗いているように感ずるのでした。

記事のご主旨からとっぱずれたことを、つらつら書いてしまってすみません。本年もよろしくお願いします。

Re: 田舎は怖い、か? - ナツミ - 2018年01月04日 11:21:46

篠田真由美様

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします!

記事中のリンク先にも少し書いたのですが、「椈屋敷」のホームズのセリフをホームズの個人的な体験と結びつけて考える研究者やパスティーシュ作家は少なくないようです。(ホームズもワトスンも、本人たちの個人的な歴史への言及が少ないので、飛びつかざるを得ないという面もありますが……
SHERLOCKはその不穏なイメージを利用して、視聴者を踊らせようとしたわけですね。S3で意外と平和じゃん!と思わせといて、実はいわゆる「ラスボス」がそこにいた、と。

ドイルについてですが、「この頃の」彼は陰の存在をなくして日のもとに晒すこと、つまり「わからないことを自分たちの理屈で説明できるようにする」という風潮の一翼を担っていた。
ホームズの「進んだ(科学的で明晰な)」考え方を「遅れた(感情的で因習に基づいた)」環境に持ち込むことで事件を解決する、というパターンが非常に多いのですが、その逆のパターン(感情的なアプローチで解決する)もありますね。このへんのバランスが大衆の支持に直結するのは、今も昔も変わらないのかな、と思います。

子供たちの年齢 - nao - 2018年01月08日 16:41:47

ナツミさん、こんにちは!twitterでいつもお世話になっています^^
わたしも日本語版で観るまでは完全にユーラスがお姉さんだと思っていました。。。日本語版を見た時に「妹だった!!」とびっくりしたシーンをメモしてありましたのでナツミさんにご報告します。
S4E3の冒頭マイクロフト屋敷のホラーシーンからの、221Bへ移動して3人で話をする場面で、ジョンがマイクロフトにホームズ家の兄妹たちの年齢をたずねていました。そこでマイクロフトが、自分とシャーロックは7歳違い、シャーロックとユーロスは1歳違いだと述べていました。その後に、ジョンがシャーロックに向かって「真ん中の子なんだ!」って笑ったので、え!?一番下じゃないんだ!?ってびっくりしました笑 (UK版DVDで見た時は、完全に姉だと思い込んでいたので、ユーロスがシャーロックの1歳上だと勘違いして、回りくどいことを言うマイクロフトだな!と思ってましたごめんなさい!)(あと、記憶でメモしているので日本語版の実際の台詞とちがってたらごめんなさい)
なかなかあやふやな記憶なので、詳細はご自身で確認していただけると嬉しいです^^; では~!


Re: 子供たちの年齢 - ナツミ - 2018年01月08日 18:13:40

naoさん、こんにちは!
いつもツイート楽しく拝読しております。
naoさんの充実した生活に襟を正……さなくてはと思いつつ、相変わらずダメダメな私です。

さて、こんな放映から1年も経った話題に、お付き合いいただけて嬉しいです!ありがとうございます。

> S4E3の冒頭マイクロフト屋敷のホラーシーンからの、221Bへ移動して3人で話をする場面で、ジョンがマイクロフトにホームズ家の兄妹たちの年齢をたずねていました。そこでマイクロフトが、自分とシャーロックは7歳違い、シャーロックとユーロスは1歳違いだと述べていました。その後に、ジョンがシャーロックに向かって「真ん中の子なんだ!」って笑ったので、え!?一番下じゃないんだ!?ってびっくりしました笑 

ご指摘の場面で、私も一旦はシャーロックが「真ん中の子」で、ジョンはそのことをからかっているのだな、と解釈したのですが、Twitter上で他の方とお話させていただいていて、ジョンの台詞( " Middle child. Explains a lot.")だけでは特定に至らないのではないか、というご指摘を受け、「なるほど、そうか!」と思いました。

ジョンの意味するところは、いわゆるMiddle Child Syndrome(中間子症候群)ですよね。
一番上の子は親にとって初めての子だし、きょうだいでは一番大きいので、特権的な地位にある。一番下の子は皆に可愛がられ甘やかされる。そんな中で「真ん中の子」は排除されたように感じ、性格の形成に悪影響を受けやすい。
(この文言はWikiから引っ張ってきただけなので、中間子の皆様怒らないで!少なくとも私が出会ってきた中間子の方々は、人の気持ちを汲むことに長けた素敵な方ばかりです。)

ここでジョンがシャーロックの方をちらっと見るのは「だから君は性格に問題があるんだな」というからかいの意だと思うのですが、二通りの受け取り方ができると思います。素直に受け取れば、「シャーロックはMiddle Child Syndromeを負った当人だから性格が悪い」。
しかし、「シャーロックが末っ子として甘やかされまくったから、中間子のユーラスがMiddle Child Syndromeをこじらせた」という解釈もできるかも。(中間子の皆様以下略)
思えば、これまでのシャーロックの振る舞いは常にジョンにとって「子供っぽい」もの(シャーロックは自分のことを末子だと思っていたわけですし、たぶんひょっとしたら脚本を書いている方もユーラスの登場は念頭においてなかったかも)でしたから、お話の流れ的にも、ユーラス=中間子説はそう不自然ではないと思えるのです。

一方、『最後の問題』のラスト近く、きょうだいのお母さんがシャーロックに"You were always the grown-up.What do we do now?"と涙ながらに「解決を依頼する」場面があります。この時、もっとも頼りになるはずの長男・マイクロフトは、彼女にとってむしろ「加害者」的立ち位置にいます。シャーロックはちょっと戸惑ったように視線を動かします。
私はこの場面を、冒頭でマイクロフトが「幼少時に兄弟揃って検査を受けさせられ、自分は優秀だったがユーラスはそれ以上だった」と語った場面の対比だと思っていました。シャーロックは母親にとって「一番知能の低い子」ではなく、「一番精神年齢が高い子」だった、と。
しかしシャーロックが年齢的にも「末っ子」だったら、お母さんの台詞が際立つ気がします。

そんなこんなで、「ユーラスはシャーロックにとって姉か妹か」、自分の中ではっきりしないまま記事を書いてしまいました。
検索してみると、英語圏のファンの間でも議論があったようでした。(その後公式またはファンから信頼できる解説があったかどうかは、不勉強にして存じ上げません……スミマセン!)

いずれにしてもシャーロックとユーラスはたったの一歳差で、七歳差のマイクロフトと比べたら、本人たちの感覚としてはほとんど双子のようなものではないかと思います。
個人的にS4を飲み込むのに長い時間がかかってしまい、こんなに時間が経ってからブログを書いているわけですが、つまるところSHERLOCKとは、シャーロックが「シャーロック・ホームズ」として、彼なりのヒーロー像を確立するまでの話だったのではないか、そのために自分の半身と向き合う必要があり、その半身がジムであり、ユーラスだったのかもしれない、と考えています。そういう存在として設定されているなら、ユーラスが姉か妹かは、そんなに大きな問題ではないのかもしれませんね。(こんな記事を書いといて今更なんですが……)

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Author:ナツミ
シャーロック・ホームズが好きです。どちらかというとワトスン君がより好きです。

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