最初の挨拶
パンダとジョン

BBC制作、現代版シャーロック・ホームズのドラマ「SHERLOCK」ファンのブログです。
①正典/聖典(原作)と比較しながらドラマを観て、元ネタ探し
②ドラマでまだ出てこない原作の事件は、SHERLOCKだとどんな話になるのかな?と妄想する

…を一人で(主にトイレとかお風呂で)楽しんでいたのですが、
さまざまな方にご意見をいただけたら楽しいだろうなあ、と思って始めました。
ネタバレ満載ですのでお気をつけください!
★原作の文章を引用する際、主に新潮文庫版(延原謙・訳)を参考にさせていただいております。
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キティ・ライリー

"The Reichenbach Fall"でシャーロックを偽物扱いする記者、キティ・ライリーの元ネタって誰でしょう。
シャーロックをして「君には吐き気がする」と言わせるほどのキャラクター。脚本の方が個人的に、この手の「話を作っちゃう」ゴシップ記者にうんざりしてるんじゃないか、と想像してしまうくらい、インパクトありました。

原作でキティといえば、『高名な依頼人』のキティ・ウィンター。

It seems that he had dived down into what was peculiarly his kingdom, and beside him on the settee was a brand which he had brought up in the shape of a slim, flame-like young woman with a pale, intense face, youthful, and yet so worn with sin and sorrow that one read the terrible years which had left their leprous mark upon her.

得意の世界に潜りこんできたらしく、そのしるしをそばのソファに控えさせていた。きゃしゃな、燃えるような若い女である。青じろい情熱的な若い顔はしているが、罪悪と悲嘆の生活に疲れはて、ライ病めいた痕跡さえのこして、永く荒んだ生活をしてきたことが見てとれる女であった。



There was an intensity of hatred in her white, set face and her blazing eyes such as woman seldom and man never can attain.
彼女の白い、決意にみちた顔や、ぎらぎら光る眼つきには、はげしい憎悪があった。男には決して見られない顔つきである。



激しい性格が似ているといえば似てる。
キティの部屋の窓からジムが逃走する場面(原作ではホームズが逃走)や、ジムがジョンに縋り付く描写は、グルーナー男爵の部屋での出来事を思わせます。ジムの容姿や女性を簡単に騙しちゃうとこは、グルーナーっぽくもあるんだよな……(←この間ジョン・クレーって言ったくせに)。

れすとら様は「花婿失踪事件」からの元ネタ引用をご指摘の上で、"A Case of Identity"という原題と"The Reichenbach Fall"のテーマの類似性にも言及なさっています。なるほど~!!

GET SHERLOCK 「SHERLOCK S2E3 ライヘンバッハヒーローと”A case of identity”」

れすとらさんの鋭いご指摘にはもちろん大賛成なのですが、ひとさまの引用で終わるのも何なので、私なりに屁理屈を付け足してみたいと思います。
"The Reichenbach Fall"というお話の元ネタは『最後の事件』に間違いないのですが、私には、『赤髪組合』の影もあるように思えるんです。
ロンドン塔、イングランド銀行、ペントンヴィル刑務所に「侵入」したジムが、『赤髪組合』の犯人ジョン・クレーに似ている、と感じたことは前にも書きました(過去記事;『ジム・モリアーティーとジョン・クレー』)。
それを前提に、「ジョン・クレーが目をつけて利用したジェイベス・ウィルスン」=「キティ・ライリー」という説を立ててみる(という暴挙)。
ちなみにれすとらさんご指摘の「机仕事による圧迫痕」は、ジェイベス・ウィルスンにもあります。

『最後の事件』と『赤髪組合』のつながりといえば、グラナダ版。
『赤髪組合(グラナダ版和訳は「赤髪連盟)』は黒幕が実はモリアーティだった、という原作にないエピソードでお話が終わり、そのまま『最後の事件』につながっていく、という構成になっています。
『赤髪組合』の大掛かりなトリックには、犯罪王モリアーティがバックについていたという「裏設定」がいかにも相応しく、すごい説得力だ!と感じ入ったものです。
グラナダ版『赤髪組合』の印象的な改変はこれだけではなくて、相場の半額でクレーを雇ったウィルスンを、「ホームズからの伝言」と言ってワトスンが批判する場面もありました。その時の台詞と、「モリアーティの正体はシャーロックが雇った俳優リチャード・ブルック」と主張するキティ・ライリーが「もっと彼に給料を払っておけばよかった(裏切られずに済んだ)のに」と吐き捨てる台詞も呼応してる、かもしれない。立場は逆ですけど。


悪党たちにいいように使われてしょんぼりするウィルスンは、愛すべきキャラクターと言えないこともないのですが、ホームズとワトスンに爆笑されてしまいます。グラナダ版でも、鈍い人物として描かれている。
れすとらさんもご指摘なさっていますが、キティ・ライリーはジムに騙されているので、彼女もある意味被害者です(NHK版では省略されていましたが、ジムにダーリンと呼ばれているので、多分モリーと同じような騙され方をしてます。キティ・ウィンターも男に弄ばれたクチ)。
シャーロックの疑惑が晴れ、The SUN紙に謝罪文を寄せた(ジョンのブログ参照)キティ・ライリーのその後は描かれませんでした。

従業員に正当な報酬を払っていないのに、降って沸いた儲け話に夢中になるウィルスン。
「ジョン・ワトスンとはプラトニックなのか」などと、端から扇情的な記事を書く気満々で、ジムの持ってきた話の裏をとることもなく(←ここ重要ですよ、ジャーナリストなのに!)乗ってしまうキティ・ライリー。
二人共「悪い人」ではないものの、悪気なく人を食い物にしてしまうタイプ。愚かであることが、罪というべきか。

ちなみにキティ・ウィンターは硫酸浴びせという、ものすごく「悪いこと」をやってのけるのですが、復讐100%でなく、自分と同じように騙される女を救いたい、という義侠心めいたものも見て取れる。後日、裁判で情状酌量されるところまでが描かれています。
ホームズはキティ・ウィンターのような、何ていうんでしょう、同情の余地ある?気骨ある?犯罪には寛容(たとえそれが殺人であっても!)な一方で、「法の上では罪にならない、小狡い悪党」には厳しい。ミルヴァートン然り、"A Case of Identity"のウィンディバンク然り。庶民の代弁者というか、いかにも娯楽小説の主人公らしい感覚ですが、それは独りよがりの正義と言えないこともない。

キティ・ライリーは名誉欲にまみれた愚かな記者として描かれていますが、少なくともこの場での彼女は、自分こそ正義の代弁者だと自負していたんだと思います。「あなたには吐き気がする」とシャーロックに言われた言葉を突き返す彼女には、人の顔に硫酸を浴びせるくらいの迫力がある。
いや、まさに浴びせたんでしょう。本物の硫酸を浴びせるよりも、強烈な何かを。「高名になりたい」という欲望を持った彼女にとって、「評判を地に堕とす」行為は殺人以上の攻撃のはずです。
「誰が正しいのか」が一瞬揺らぐからこそ、この場面は怖い。"You repel me"(君には/ あなたには吐き気がする)という台詞の応酬が力関係の崩れを象徴していますが、ひょっとしたらこの「揺らぎ」の予兆は、ウィルスンやウィンターなどの「愚かな」キャラクターと、シャーロックの行動を巧みに入れ替えることで、演出され続けていたのかもしれません。

ウィルスンやキティ・ウィンターに潜む「悪気のない悪」。それを、キティ・ライリーも受け継いでいます。
自分が絶対的な正義の側にいるという確信は、「愚かさ」がないと生まれない。そこにこそ、本物の狂気があるような気がします。そういう意味では、シャーロックもジムも、狂い損ねてしまった人たちなのかなあ、と思いました。


……と、色々屁理屈こねたんですけど、まあ「ウィルスン=キティ・ライリー説」の一番の理由は、キティ・ライリーの髪色が赤っぽいっていうことですよね……(そんなことかい)。
キティ・ウィンターはどうだったんでしょう。先の引用には髪色の描写がないのですが、顔の青白さといい、気性といい、この記事にある「赤毛の人の(ステレオタイプな)印象」には合致してる気もします。

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この記事へのコメント

- れすとら - 2017年06月21日 00:42:38

ナツミ様
どうもお久しぶりです。拙ブログにごリンクいただきありがとうございます。

さて、キティ・ライリーとキティ・ウィンター及び「高名な依頼人」のご考察なるほどと思いました。「高名な依頼人」には情報屋のラングデール・パイクが登場していました。グラナダ版では、この人はマグヌッセンのモデルの恐喝屋ミルヴァートンと違ってマスコミに売るタイプの情報屋だったので、三流ゴシップ記者のキティにつながるような気がしました。

私はキティ役の女優さんを他でも見たせいもありすごく悪い人と思わなくなりました。同情心をわかせるキャスティングなのかもしれません。このへんの感じ方は人それぞれなのだと思います。恵まれたシャーロックと「定期的にネイルサロンにも行けない」と看破されるキティ。彼女がどういう働き方をしているのかわかりませんが、固定給の記者じゃなくて出来高制で安く使い捨てられるフリーランスの記者かもしれず(イギリスの状況はわかりませんが)、真実を書く記者に憧れていたのにいいところに就職ができなかったのかもしれないなどと勝手な想像をしてしまいます。リチャード・ブルックから聞いたマイクロフトのことも含むであろうシャーロックの話、金にモノをいわせて俳優を雇った自作自演〜みたいなことで火がついちゃったんだろうなあなんて。

でも
>「ジョン・ワトスンとはプラトニックなのか」などと、端から扇情的な記事を書く気満々

これはいただけませんが「受ける記事」に記者として欲を感じるのも当然だろうなあと。もう前の話ですがベネさんのポッシュ騒動も少し思い出しました。勝手なゴシップ記事を肯定するわけではありませんが、キティサイドもシャーロックサイドも両方わかるなあと思います。

キティ・ウィンターほどの凄みは感じませんが、キティ・ライリーはシャーロックやモリアーティにたちうちできない一般人でそれ相応の代償を払わされる結末になり、そこは「ウィルスン=キティ・ライリー説」=一般人枠かも。

「ジム・モリアーティー=ジョン・クレー」説もとてもおもしろいです。
スコットランド、コーンウオールとあちこちに出没するのも「大いなるゲーム」の時のジムのようなので、制作陣もそう思っているかもです。

ゴシップ記者にも事情がある - ナツミ - 2017年06月21日 06:01:28

れすとら様

こちらこそリンクのご許可ありがとうございました。
考察というほどのものでもないですが、こちらの記事もお読みいただいて光栄です。

> 「高名な依頼人」には情報屋のラングデール・パイクが登場していました。グラナダ版では、この人はマグヌッセンのモデルの恐喝屋ミルヴァートンと違ってマスコミに売るタイプの情報屋だったので、三流ゴシップ記者のキティにつながるような気がしました。

「情報屋さん」原作には何人か登場しますね。ホームズは、ちょうどシャーロックの「ホームレスのネットワーク」のように上手に使っていましたが、敵に回ることだってもちろんありますよね。


> 私はキティ役の女優さんを他でも見たせいもありすごく悪い人と思わなくなりました。同情心をわかせるキャスティングなのかもしれません。

なるほど!「キティにはいいとこない」というのはあまりに一面的な見方でしたね。
「キャスティングでいい人だとわかる」というのは、この女優さんのことを知らなかったので私にはわかりませんでしたが、それもまた、無知ゆえの傲慢ですね。たとえばマーティンがものすごくヘラヘラした役をやっていたとしたら、自然「深読み」をしてしまうだろうと思います。

> キティサイドもシャーロックサイドも両方わかるなあと思います。

そういう読み方をすると、ウィルスンだって共感できるキャラクターですよね。私も赤髪連盟に入れたら絶対行きますし(行くのかよ)。

百科事典を写す簡単なお仕事 - ナツミ - 2017年06月25日 16:32:37

れすとら様

ケリー・ライリーさん、確かに名前が似てますね。

>裏と表で接している立地が皮肉な感じがしますね。

本当に。ワトスンも(辺り一帯を指して)「著しい対照」「いま出てきたあのむさくるしい町がこの裏に背中合わせになっていようとは」と言っていてそれが伏線だったのですが、業種が質屋さんだったのはやはり皮肉なんでしょうね。

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プロフィール

Author:ナツミ
シャーロック・ホームズが好きです。どちらかというとワトスン君がより好きです。

『高名の依頼人』のこと書きましたが、6月24日までグラナダ版がGYAOで無料で観られるそうです。
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