最初の挨拶
パンダとジョン

BBC制作、現代版シャーロック・ホームズのドラマ「SHERLOCK」ファンのブログです。
①正典/聖典(原作)と比較しながらドラマを観て、元ネタ探し
②ドラマでまだ出てこない原作の事件は、SHERLOCKだとどんな話になるのかな?と妄想する

…を一人で(主にトイレとかお風呂で)楽しんでいたのですが、
さまざまな方にご意見をいただけたら楽しいだろうなあ、と思って始めました。
ネタバレ満載ですのでお気をつけください!
★原作の文章を引用する際、主に新潮文庫版(延原謙・訳)を参考にさせていただいております。
★全ての記事は、推測やこじつけを基にしており、たまに妄想も入っております。ご了承の上ご利用ください。
★このサイト及び記事へのリンクは、どうぞご自由になさってください。
【お願い】 ★記事における間違いは、できる限り修正したいと考えております。お気づきの点がありましたら、ご教示いただけるとありがたいです。
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シャーロックとジョンのディオゲネス・クラブ

さあ、みんな大好きディオゲネス・クラブのお時間ですよ!
もちろん私も大好きです!が、現代版の方(第2シリーズ3話)で出てきた時、マイクロフトの言っていることがよくわからなくて、そこがわからない限りは原作と現代版の比較も無理だろう……と、長い間アンタッチャブル案件でした(※わからないのもアンタッチャブルなのも私だけです)。
しかしそこに『シャーロックの脳内19世紀版』まで登場したとなるとですよ、もう恥をしのんで、一回記事にしとかないと!放置したらいよいよ闇に葬られていくじゃないですか!私の中だけで!

まず、ディオゲネス・クラブの所在地ですが、マイクロフトの自宅があるペルメル街(Pall mall street)を「セント・ジェームズ寺院の方から歩いていった」とあります。

「シャーロック・ホームズはカールトン(The Carlton)からちょっと離れたとある家の戸口に立って、口をきいてはいけないよと私に注意をしてからホールへはいっていった。硝子の羽目板ごしに、ひろい贅沢な部屋がちらりと見えた。そこにはかなりの頭数にのぼる人たちが、おのおの好きなところに陣どって、新聞など読んでいる。ホームズはペルメル街に面した小部屋へ私をつれこんでおいて、ひとりでどっかへ行ってしまったが、すぐに、一見して兄弟と思われる人をつれて帰ってきた。」


Google mapのThe London of Sherlock Holmesによると、ここらへんみたいです。



「ここらへん」って、マークが密集してて分かりづらい!真ん中より少し左下辺りに見つかりましたか?はい見つかりましたね!(←つい最近行ってきたので、いつになく強気ですよ!)
ペルメル街(ポールモールって言ったほうが通じそうなんですが)を東に歩いて行くと、クリミア戦争の記念碑があるウォータールー・プレイス。
ディオゲネス・クラブの所在を探るには"The Carlton"の位置が決め手になるはずなのですが、現代版でのディオゲネス・クラブの場面は、ウォータールー・プレイスからペルメル街を挟んで南のCarlton House Terraceで撮影されたそうです。元々セントジェームズ宮殿の一部で、今も王室所有だとか。その偉大な歴史を語ってたらきりがないので割愛しますが、もうここ、貴族やら政治家やら、V.I.P.ばっかり住んでたんですね。ホームズの登場人物では、『プライオリ学校』のホールダーネス公爵がここの住人でした。

そして、さまざまな公的機関も入ってる。Wikiによると、MI6の一部もここにあったんですね。だから、ビリー・ワイルダーの映画"The Private Life of Sherlock Holmes"の「ディオゲネスクラブ=シークレットサービスの施設」という設定を"SHERLOCK"も踏襲している(参考:Wiki "Diogenes Club")と、建物が語っているということになるのでしょうか。

私がずっとひっかかってたマイクロフトの台詞はこのへんです。(第2シリーズ3話より)

”Tradition, John, our traditions define us.”
”So total silence is traditional, is it?You can't even say pass the sugar?”
"Three-quarters of the diplomatic service and half the government front bench all sharing one tea trolley, i
t's for the best, believe me. They don't want a repeat of... 1972."
「伝統だよ ジョン。ここでは伝統が何にも勝る」
「完全な沈黙が伝統ってことですか?『砂糖をとって』も言えないの?」
「外交官の4分の3と政府の幹部の半分がひとつのワゴンからお茶を飲む。それが一番だ。 そうだろう?皆繰り返したくないんだ…1972年を」(拙訳)



「1972年」が「血の日曜日事件」を意味しているのだ、ということは(調べたし人にも聞きまくったので)わかりますし、負の歴史を繰り返さないために、横のつながりを持つのもわかる。ただ、それと「沈黙の伝統」がどう繋がるのか、ずっとわからなかったのです。
原作でははこう説明されていましたよね。

「どうもそんなクラブは聞き覚えがないね」
「それもそのはずだよ。内気とか人間ぎらいとかが原因で、人なかへ出たがらない連中が、ロンドンにはずいぶんいるからね。それかといって、坐り心地のいいいすや、新刊の雑誌類がまんざらきらいなわけではない。こういう人たちの便宜のためディオゲネス・クラブができたわけだが、いまではロンドン中の社交ぎらいの男たちを大半網羅している。クラブ員はおたがいにほかのクラブ員に絶対関心をもってはいけないし、外来者室以外では、どんな事情があっても談話することを許されない。もしこの禁を犯し、委員会の注意をうけること三回におよべば、話をした男は除名処分になる。兄はこのクラブの創立者の一人だが、実見して知っているけれど、なかなか感じのよいところだよ」



まあようするに、「社交嫌いの人のための社交しないクラブ」だから「沈黙する伝統」があるってことですよね。
この時点でのホームズは、マイクロフトの仕事を「数字に対する特殊な才能があるので、政府のある商の会計簿の検査を引き受けている」と説明していますが、後年の『ブルース・パティントン設計書』ではこう変わります。

「あのころは君というものをよく知らなかったからね。国家の大事を語るには慎重を要する。兄が政府のもとで働いていると考えるのは当っている。だがある意味では、兄は政府そのものなんだといっても、まちがいではない」
「政府そのものだって?」
「驚くだろうと思った。マイクロフトは年俸四百五十ポンドの下級官吏に甘んじ、どんな意味でも野心なんかもたず、名誉も肩書も望みはしないが、それでいて国家に欠くことのできない人物なのだ」
「ほう、どんなふうに?」
「そうさね、まずその地位が特殊なものだ。自分で作りあげたものだが、前例もなければ、おそらく今後も踏襲する人は現われないだろう。頭がじつに整然としていて、事実を記憶する力にいたっては当代その右に出るものはいない。同じ大きな能力を僕は犯罪の捜査に向けているが、兄はこの特殊な仕事に注いでいるのだ。
各省で決定したことは、すべて兄のところに回付されてくる。中央交換局というか手形交換所というか、均衡を保つところになっているのだね。ほかのものもすべて専門家ばかりだが、兄の専門は全知というところにある。たとえばいま、ある大臣が海軍、インド、カナダ、あるいは金銀両貨複本位制の問題に関する知識を必要とするとしよう。もちろんこの大臣は各省から個々の問題についての報告なり助言なりは得られるが、そいつを集中的に報告し、即座におのおのの関連を指摘し得るのはマイクロフトあるのみなんだ。
そこでみなは、手っ取早くもあるし便利なので兄を利用するようになった。いまではなくてはならない人物になっている。兄の偉大なる頭脳のなかには、あらゆる問題が整理分類されていて、すぐに取り出せるようになっている。マイクロフトの一言が国家の政策を決定したことが幾度だか知れない。兄はそこに生命をうちこんでいるのだ。決してほかのことは考えない。ただどうかして僕がつまらない事件の相談でも持ち込んだときだけは、知力の鍛錬という意味で、その節を曲げるくらいのものだね。
そのジュピターがきょうは下界に降りてくるというのだ。いったい何を意味するのだろうね?カドガン・ウェストって何者だろう?マイクロフトとどう関係があるのだろう?」



『ギリシャ語通訳』と『ブルース・パティントン~』を読み比べると、「マイクロフトの設定、ずいぶん『盛った』な……」と思っちゃいます。「優秀なのに怠惰な変わり者」という印象だったのが、「影の英国政府」にまでなってますもんね。
マイクロフトはディオゲネス・クラブの創立者の一人でもあります。ホームズのこの台詞は、マイクロフト本人のみだけでなく、クラブの役割をも説明しているのかもしれません。
マイクロフトを中心として、政府幹部や外交官が機密事項を持ち込みつつ、交流を図る。それがディオゲネス・クラブの目的だとすれば、「決して口を開かない」「互いに関心を持ってはいけない」伝統には重い意味があり、「社交嫌いのためのクラブ」は表向きの姿ということになります。裁判所で働いてたというメラスさんも、『たまたまご近所に住んでるスーパー通訳さん』ではなくて、クラブに出入りすべくマイクロフトの保護下に置かれてたと考えるほうが自然ですね。
まあ、そうは言ってもマイクロフトも弟も立派に社交嫌いだろうし、プレッシャーの大きい仕事をしている人たちにとっては「フツーに居心地がいい」側面もありますよね。ディオゲネス・クラブを漫画喫茶やネットカフェに例える人がよくいますが、賛成です。

そんなマイクロフトとディオゲネス・クラブですが、現代版ではジョンの目を通して描かれ、『忌まわしき~』では19世紀の描写全体がシャーロックの頭の中の出来事ですから、当然シャーロックの視点で描かれるのが面白いと思います。
つまり、二人が考える「マイクロフトその人」≒「英国政府そのもの」の本質が、そこにあらわれているのではないでしょうか。

ジョンは、ATMからお金を下ろそうとして、おなじみの車に拉致されてディオゲネス・クラブに連れて行かれます(もはや抵抗なし)。
ジョンはこの時が初めての来訪だったのでしょう。「伝統」を知らないので、わけがわからず大声で質問をしてしまい、スタッフらしき人に捕まってしまいます。【追記:2016.10.22】「シャーロック・ホームズ完全解析読本」(宝島社)によると、ジョンの大声もちゃんと「3回目」までは見逃されているそうです。すごい!ドラマも気付かれた方も、素晴らしいこまやかさ!
当然クラブの「伝統」には批判的な態度。その印象は、弟・シャーロックの危機だというのに本人に接触せず、まわりくどい手順を踏もうとするマイクロフトへの非難につながります。
ただ、マイクロフトを心の底から疎んじているようには見えないですよね。
"SHERLOCK"では、原作では描かれなかった「ジョンとマイクロフトがシャーロック抜きで会う場面」が何度も繰り返されるのですが、それによって、マイクロフトの兄としての心配や苦悩を、視聴者とジョンは感じ取ることができる。マイクロフトは傲岸不遜ですが、決してそれだけの人のようには描かれていません。だから、ジョンがマイクロフトに向ける目には批判や非難だけではなく、同情というか共感というか、ある種の親愛の情が感じられます。

知識も実体験も乏しいので曖昧な言い方になってしまうのですが、時々「愛国心」や「紳士たるもの」なんて表現が持ちだされた原作に比べ、現代の若者、言ってしまえば「庶民」の、「祖国」に対する思いに通じるものがあるのかも、って言ったら斜め上に考えすぎでしょうか。ジョンがマイクロフトに対する時の、苛立ってるような諦めてるような、信じてるような信じてないような、頼ってるような頼られてるような、ビビッドさのない淡い表情が、私にとってはとても興味深かったりします。

シャーロックが見た19世紀のディオゲネス・クラブは、大変優雅な空間ではありますが、手話(という、使わない人にとっては非日常的な手段)でコミュニケーションをとり、それがわからなければコミュニケーションが成り立たない世界。
「談話室以外では声を出せない」という状況から考えていくとそうなるのかもしれませんが、ワトスンが手話で滑稽なことを言ってしまう場面では、クラブの排他性が強調されていると言ってよいと思います。
その中心であるマイクロフトは、動くのが困難なほどに肥え太っていて、自ら死へのカウントダウンをしながら、なおも貪欲に食べ物に手を伸ばします。月並みな解釈ではありますが、マイクロフトの体型は「大英帝国」を表しているのでしょう。ここでのワトスンは、当時の男たちの代表として、頑迷さや偏見の多さが強調されます。

カリカチュアライズされてもそこはマイクロフトなので、シャーロックの考えることを逐一理解し、さらに導く役割を担ってもいる。シャーロックにとってのジョンの導き方とマイクロフトの導き方の違いが比べられるのも、この作品の面白いところじゃないかと思います。
(関係ないんですけど、マイクロフトの余命『2年11ヵ月4日」って何の数字からきてるんだろう。 『緋色の研究』のワトスンの一日あたりの収入『11シリング6ペンス』でしょうか。11しか合ってないから違うかな)

ところで、ご存知かとは思いますが、ディオゲネス・クラブの名は古代ギリシャの哲学者から取られています。
Wikipedia 「ディオゲネス(犬儒学派)」
私には哲学の難しそうな用語は全然わかんないので、ついヘンタ……変人エピソードばっかり拾っちゃうんですが、『ギリシャ語通訳』を一読した限りでは、ディオゲネス・クラブの命名はディオゲネスの社会性のなさというか、世俗を超越してるというか、人を食ったところに関連するような気がしていました。そもそもクラブって社交のためにあるのだろうに、社交しないクラブっていうのがもう、ディオゲネスのシニシズムそのものですよね。
ただ、『ブルース~』での再登場に際して、ドイルはマイクロフトの設定を「盛った」と書きましたけれど、ディオゲネスとアレクサンダー大王のエピソードや、海賊に奴隷として売られた時の台詞なんかを読むと、初めから「影の為政者」にふさわしい名前を与えられていたのかもしれない、と思えてきます。

そんなこんなで、整理すると

・ディオゲネス・クラブには二つの顔がある。『ギリシャ語通訳』で語られた『社交嫌いのためのクラブ』としての顔と、『ブルース・パティントン計画書』で説明されたマイクロフトの特殊な業務に関わる顔。
・ディオゲネス・クラブは、「変わり者」マイクロフトその人のカリカチュアであり、それは「英国政府」のカリカチュアでもある。

という感じでしょうか。目新しい結論でもなくて恐縮ですが……

おまけとして、この場面で気づいた原作ネタをすこし。

・この場面には『ギリシャ語通訳』でのディオゲネス・クラブの場面からそのまま引用されている台詞がいくつかありますが、マイクロフト登場時のi>"To anyone who wishes to study mankind, this is the spot."という台詞もそのひとつです。原作ではホームズ兄弟が張り出し窓からペルメル街を見下ろしながら、通りかかった男について推理合戦を繰り広げます。
そこで男の子どもの数が云々されるのですが、『忌まわしき~』ではそれが「マイクロフトの寿命の年数」のやりとりに変換されているのが、皮肉な感じで面白い。

「初めてお目にかかります」とマイクロフトはアザラシのひれのように平たくて幅の広い手を出して、「あなたがシャーロックの記録を発表されるようになってから、私はあちこちでシャーロックの評判を聞かされますよ。(後略)」
このマイクロフトの「アザラシのひれのような手」、よくできていますよね。特殊メイクすごい!

・『ブルース・パティントン計画書』で、ホームズは自宅と職場とクラブ以外の場所に行かないマイクロフトを「決して軌道をはずれない(なんと、221Bを訪れたのも『ギリシャ語通訳』以来。みっちょん様おすすめのフォルソム年表によれば、7年ぶり!)惑星」に例えています。ホームズが「カドガン・ウェストって誰?」状態なのに対し、新聞を読んでいたワトスンはすぐ反応しましたから、珍しく「ホームズのみが事情に疎い」状態です。マイクロフトの登場にホームズが苦手とする天体の話題が絡んでいたことは、これらの原作エピソードにも第1シリーズ3話”The Great Game"にも、違和感なくつながっています。(参考記事『ホームズと宇宙』)

(原作からの引用はすべて延原謙訳)
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この記事へのコメント

- みっちょん - 2016年09月19日 20:58:09

ディオゲネス・クラブとは違う話題なのですが、、

三省堂のTwitterに

…………………………
「大図鑑」シリーズの新刊、『シャーロック・ホームズ大図鑑』は、11月上旬発売。翻訳は、シャーロッキアン翻訳家、日暮雅通さん。今週末の東京国際ブックフェアで、見本をお見せできると思います。お楽しみに!
…………………………


と、ありました。

秋の空 お財布だけが ダイエット

三省堂からも! - ナツミ - 2016年09月19日 21:38:10

みっちょん様

国書刊行会といい、ちょっとお堅めな印象のある会社からの刊行が続きますね。
欲しいけど保管場所とお財布が……!

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