最初の挨拶
パンダとジョン

BBC制作、現代版シャーロック・ホームズのドラマ「SHERLOCK」ファンのブログです。
①正典/聖典(原作)と比較しながらドラマを観て、元ネタ探し
②ドラマでまだ出てこない原作の事件は、SHERLOCKだとどんな話になるのかな?と妄想する

…を一人で(主にトイレとかお風呂で)楽しんでいたのですが、
さまざまな方にご意見をいただけたら楽しいだろうなあ、と思って始めました。
ネタバレ満載ですのでお気をつけください!
★原作の文章を引用する際、主に新潮文庫版(延原謙・訳)を参考にさせていただいております。
★全ての記事は、推測やこじつけを基にしており、たまに妄想も入っております。ご了承の上ご利用ください。
★このサイト及び記事へのリンクは、どうぞご自由になさってください。
【お願い】 ★記事における間違いは、できる限り修正したいと考えております。お気づきの点がありましたら、ご教示いただけるとありがたいです。
★コメントを歓迎しております。初めてコメントくださる方は、こちらの記事をご一読いただければ幸いです。
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メイドとワトスン

ちょっと(?)生意気なメイドとワトスンのやりとりが可愛らしい……

ベルを鳴らしてもなかなかやってこないメイドにしびれを切らして、懐中時計を取り出して時間をチェックするワトスン。
この懐中時計は、『四つの署名』に出てきた、ワトスンのお父さん→お兄さん→ワトスン、と譲られてきた品ではないでしょうか。

「ちがったら訂正してもらうとして、この時計は君のお父さんから兄さんに伝わっていたものだと思う」
「裏にH.Wと彫ってあるからだろう?」
「そうさ。Wは君の姓だ。制作日付は五十年ばかりまえで、彫り込んだ頭文字もおなじくらい古くなっている。つまりこれは、われわれの親の代の代物なんだ。貴重品というものは親から長男にゆずられるのが普通で、その長男は父親とおなじ名をあたえられていることが多い。君のお父さんはたしか、だいぶ前に亡くなったとか聞いている。だからこの時計は、君のいちばん上の兄さんが持っていたのだ」



『ピンク色の研究』では、妹※・ハリエットからジョンがもらったスマートフォンになっていました。(※上記のような経緯があったので私は『姉』と思い込んでいましたが、SHERLOCK CONでハリーは妹と判明したようです)

さて、ワトスンに叱られてしまうメイドさん。

"The fires are rarely lit, there is dust everywhere and you almost destroyed my boots scraping the mud off them. If it wasn't my wife's business to deal with the staff, I would talk to you myself."
「暖炉にはめったに火を入れてないし、そこら中ほこりだらけ。靴の泥を掻き落とそうとして傷だらけにした。
もしこれが妻の領分じゃなければ、僕が直接言ってやりたいくらいだ」(拙訳)


このメイドさん、ちゃんと原作に出てきます。

"(前略)As to Mary Jane, she is incorrigible, and my wife has given her notice; but there, again, I fail to see how you work it out.”
「女中のメアリー・ジェーンなら、こいつは何とも始末に終えない女でね、たまりかねて家内が、お払い箱の予告を申し渡したが、それにしてもどうしてそんなことまでわかるんだろう?」


ホームズがワトスンの靴にキズがついているのを見て、「靴底の縁にこびりついたどろをかきおとそうとして、そそっかしい者がつけた疵」と推理したわけです。
家事一切を取り仕切るのは女主人の仕事で、いかにメイドが生意気でも、ワトスンはクビを言い渡す立場にはないのですね。
原作を読んだ時は「ワトスン同様、メアリも彼女に手を焼いている」と思い込んでいましたが、本当に、この後すぐクビになったのかしら。
このお話を観て、実はこのメイドさん、意外にメアリと仲良しだったのかもしれないなあ、なんて想像してしまいました。
家庭教師時代にフォレスタ夫人に可愛がられていたメアリのことですもの、たとえ家事の腕前に問題があっても、彼女(メアリー・ジェーン)が賢い子で話が面白かったりしたら……
もっとも家庭教師と雑役女中では違いますから、原作ではその可能性は低いですけれど、このドラマなら、ひょっとしたらそういうこともあるような気がします。

また、ワトスンに"Are you incapable of boiling an egg?!(君は卵をゆでることもできないのか)"と言われてしまったり、電報を渡し忘れた言い訳として「本を読んでいた」と返すくだりもありますが、本に夢中で仕事を疎かにしてしまうのは、実は221Bのコックさんです。

「君を煩わすほどのこともないが、まあ新しいコックがわれわれのために作ってくれた二個の固ゆで卵を君が平げたら、ディスカッションをやってもいい。どうもこのゆで加減ときたら、きのうホールのテーブルで見た”家庭雑誌”と関係がないでもないらしい。卵をゆでるというだけのささいなことでも、時間の経過に気をくばるという注意力を必要とするんだね。あの結構な雑誌の恋愛小説を読みふけっていては成立しないわけだ」(『ソア橋』)



ちなみに、原文にあたると「結構な家庭雑誌」とは"The Family Herald"。 よくこの頃の小説の脚注に出てくる。大衆的な週刊誌って感じなんだと思います。The Strand Magazine との違いはどんな感じなんでしょう。メイドさんがストランド誌を読んでるのって意外なのかな?文藝春秋をギャルが読んでるみたいな……?わ、私でもわかるようなご教示、お待ちしております!

『緋色の研究』の頃は、ハドスンさんともう一人のメイドさんの描写しかないので、ペイジのビリー少年やコックさんは後年雇い入れられたのでしょう。ホームズの家賃払いが良くなったのと、ハドスンさんがお歳を召していったのと、両方の理由からなのでしょうね。

メイドさん側の事情も考慮すると、この頃は大変な人手不足だったようなんです。
この頃、使用人を雇うのはステイタスシンボルのひとつでした。上流階級はもちろんですが、中産階級の家庭に「一人でも使用人を置いていれば、我が家もひとかどの家である」という意識があって、メイドの需要は大変大きかったようです。
ドラマ『ダウントン・アビー』や篠田真由美先生の『レディ・ヴィクトリア』を鑑賞するとよくわかるのですが、大きなお屋敷ではメイドの仕事は細分化されているのに対して、それほどでもない家庭では、膨大な家事をすべて一人のメイドがやらなくてはなりません。
最近の表現で言えば「ブラック」もいいところ。産業革命が進んだことによって、工場などでも働き手の需要はある。
要するに、売り手市場だったのですね。こうした背景を考え合わせれば、彼女のワトスンへの態度にも納得がいきます。

……まあ、マーティンワトスンにもちょっと隙があるというか、単に「上司として言いやすそう」なのも、2世紀後とはいえ同じ労働者として、共感できるんですけどね。

ホームズからワトスンへの電報は、『ピンク色の研究』でのメールと同じ。おなじみのアレ、ですね。

DR. JOHN WATSON 
COME AT ONCE IF CONVENIENT.
IF INCONVENIENT, COME ALL THE SAME.
HOLMES

「都合ヨケレバコイ、ワルクテモコイ(『這う男』)」


原作では差出人がS.H.となってます。

(原作からの引用はすべて延原謙訳)
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この記事へのコメント

メイドのメアリと奥様のメアリ - 篠田真由美 - 2016年08月22日 10:05:40

>このお話を観て、実はこのメイドさん、意外にメアリと仲良しだったのかもしれないなあ、なんて想像してしまいました。

 メイドがひとりだけのミドルクラスの家では、奥さんもメイドと一緒にキッチンで働くということもあったみたいです。メアリは「身分が違う」とお高くとまるタイプではないと思うので、ふたりで一緒に働きながらおしゃべりしても不思議はないのでは。メアリがジョンの愚痴をこぼしたり。でも「後を頼むわね、適当でいいのよ。どうせ旦那様も留守なんだし」なんていって出かけちゃったり。

>メイドさんがストランド誌を読んでるのって意外なのかな?文藝春秋をギャルが読んでるみたいな……?

 ウィキによるとストランドマガジンは月刊で6ペンス。基本は家庭で読める健全雑誌で、メイドさんが自分で買うのにはちょいと高かったかも。ガールズ・オウン・ペーパーなんかは週刊ですが1ペニーでした。でも旦那様が執筆されているのだから、当然お宅には置かれていて、それをメイドさんが拝借して読みふけっていた、というのが篠田の推理です(推理って、それほどのものかいな)。

 それから、19世紀のうちは工場労働よりまだまだ家事労働の方が、女性の働き口としては主流だったんじゃないかなと思います。社会的偏見というか、工場働きはあんまり聞こえが良くない、みたいな感じ。ただ「ろくな使用人が見つからない」という雇用主側からの嘆きは、雇用主が求める仕事の質と使用人が要求する待遇との乖離が根本にあってのことでしょう。メイドは働き者であって欲しい、でも給料は安くて満足してもらいたい。無理だって。

メアリの参政権運動もそうですが、19世紀末から存在し始めた変化が、20世紀になってからより大きくなってきて、第一次大戦で決定的に変わった、というのが歴史的には正しい気がするのですが、そのあたりはみっちょん先生のご教示を待ちたく思います。

ちょっと似てるかな - midori - 2016年08月23日 10:24:39

みなさんこんにちは。
このかわいいメイドさん、第一印象はジェレミー主演「犯人は二人」のレディ・エヴァに似てると思いました。メイドがくすねた他愛もない内容のラブレターをネタにミルバートンに恐喝されるお嬢様系依頼人。意識しての配役かな?

- みっちょん - 2016年08月24日 19:08:13

篠田真由美様

10年以上も前ですが、ストランド・マガジンはどういう読者層をターゲットにして刊行を始めたのだろう、、、と思ったので初期のストランド・マガジン(創刊号は見つからなかったので)1891年2月号(No.2)の広告を調べたことがあります。

当時も現在と同じように広告代理店があったので、ストランド・マガジン側が代理店にどういう読者層をターゲットにした編集方針の雑誌を刊行するか、を説明したと思ったのです。

調べた結果を2005年のホームズ大会で「ストランド・マガジンの表紙と広告」という題で発表したのですが、その時の発表原稿が古いソフトで作っていたので開く事ができず、印刷したものも見つかりませんでした。

ただ、1891年2月の広告のスキャン画像はPC内にあったので、サイトに
「ストランド・マガジンに掲載された広告--目次 1891年2月号(No.2) 」  

と題してアップしました。

(ナツミ様、言葉で説明は難しいので下記のアドレスを記しましたが、ご都合が悪ければカットをお願いします)
http://shworld.fan.coocan.jp/14_advertisement/index.html

この64余りの広告の中で一番興味を持ったのが「サウゾール・バークレー社の生理用ナプキン」です。1891年の雑誌に生理用ナプキンの広告が載るなんて考えられなかったので、かなり調べたのですが、どう調べても生理用ナプキンの広告でした。

つまり男性だけではなく「大人の女性」を読者層のターゲットとしてストランド・マガジンの編集者は考えていたのでした。

それと、この号には載っていませんが、トーストラックやナイフそして女性の服の値段がわりと低価格なので、アッパー労働者階級〜ロー中産階級を意識しているのでは、と思っています。

ストランド・マガジンの正式な名前は
The Strand Magazine: An Illustrated Monthly というように2ページに1枚以上のイラスト(写真)が載っています。
イラストを見る限り高尚な内容の作品が多いとは思えませんので、メイドが借りて(又はこっそりと)読んでいた可能性はあると思います。

女性をターゲットにした編集方針だったから、コナン・ドイルが考えていた醜男なホームズが、シドニー・パジェット描くホームズはハンサムだったのでは、と思ってます。

キッチンでの会話を聞いてみたい - ナツミ - 2016年08月29日 00:42:11

篠田真由美先生


この記事は旅行に行く前に書いたのですが、出発直後に『レディ・ヴィクトリア~新米メイドローズの秘密』が発売され、完全にタイミングを誤ったと思いました!読んでから書けばよかった!

>  メイドがひとりだけのミドルクラスの家では、奥さんもメイドと一緒にキッチンで働くということもあったみたいです。メアリは「身分が違う」とお高くとまるタイプではないと思うので、ふたりで一緒に働きながらおしゃべりしても不思議はないのでは。メアリがジョンの愚痴をこぼしたり。でも「後を頼むわね、適当でいいのよ。どうせ旦那様も留守なんだし」なんていって出かけちゃったり。

楽しそうですね~!
お話の上では、ジェインはメアリの知らない所で暗躍してたことになりますけど、ワトスンに対するあの強気は、裏で奥様の愚痴を聞いたりしてるように見えますよね。


>  ウィキによるとストランドマガジンは月刊で6ペンス。基本は家庭で読める健全雑誌で、メイドさんが自分で買うのにはちょいと高かったかも。ガールズ・オウン・ペーパーなんかは週刊ですが1ペニーでした。でも旦那様が執筆されているのだから、当然お宅には置かれていて、それをメイドさんが拝借して読みふけっていた、というのが篠田の推理です(推理って、それほどのものかいな)。


おお、6倍のお値段!厚さもだいぶ違うとはいえ、特別興味がなかったら買わないかしら。
「拝借して読みふけっていた」説に、私も賛成です!

>  それから、19世紀のうちは工場労働よりまだまだ家事労働の方が、女性の働き口としては主流だったんじゃないかなと思います。社会的偏見というか、工場働きはあんまり聞こえが良くない、みたいな感じ。

なるほど、まだまだ過渡期の初めの方で、実質的な選択肢はなかった、という感じでしょうか。

>メイドは働き者であって欲しい、でも給料は安くて満足してもらいたい。無理だって。

『忌まわしき花嫁』で扱われている「虐げられた女性」の問題と、根本は同じですよね。
相手の視点に立って考えることができない、想像力の欠如。
そして悲しいことに、21世紀の日本でもブラック企業なんてものが存在して、苦しんでいる人が本当にたくさんいる。「あなたアフガニスタンにいましたね?」→「アフガン?イラク?」の台詞の変遷に象徴される、「時を経てなお解決されない問題」のひとつですね。

カーマイケル夫妻の場面に辿り着いたらあらためて取り上げたいのですが、「聖典」には「夫が食事の終わるたびに義歯をはずして、妻のほうへ放りだす」なんて問題に起因した事件もあります。この件をホームズがどう見抜き解決したのかははっきりわかりませんが、ホームズには(限界はあっても)男女や身分に囚われずさまざまな人の心情を想像し、真実を見抜く力があります。これも、ホームズの持つ普遍的な魅力のひとつかもしれません。

似てますかね? - ナツミ - 2016年08月29日 01:02:18

midori様

> このかわいいメイドさん、第一印象はジェレミー主演「犯人は二人」のレディ・エヴァに似てると思いました。メイドがくすねた他愛もない内容のラブレターをネタにミルバートンに恐喝されるお嬢様系依頼人。意識しての配役かな?

どんな方だったっけ、と検索してみたら、Serena Gordonさんという女優さん。007にも出ていらっしゃったんですね!繊細な目鼻立ちが、なんとなく似ているかな?
メイドのジェインを演じるのはStephanie Hyamさん。大きな目が印象的!Dr.Whoとか、Jekyll & Hydeとか、キャリアがなんか「こっち側」って感じだ……
私は俳優さんにすごく疎いのですが、SHERLOCKで知った役者さんに他の作品で「再会」するとすごく嬉しくなります。Jekyll & Hydeも観てみたいなあ。

これがシャーロッキアンか……! - ナツミ - 2016年08月29日 01:46:32

みっちょん様

さ……さすが私の車先生(←さりげなく愛里ちゃんのつもりでいるのが図々しいですがスルーして下さい)・みっちょんさんや……!

読者層を把握するために広告に着目する!その時点でもう拍手です!!


そして、貴重な資料ページヘのリンクをありがとうございました。(あ、私がリンクについて煩いのはあくまで先方へのご迷惑を考えてのことなので、先方さえ構わなければこちらは大丈夫ですよ~!)

> この64余りの広告の中で一番興味を持ったのが「サウゾール・バークレー社の生理用ナプキン」です。1891年の雑誌に生理用ナプキンの広告が載るなんて考えられなかったので、かなり調べたのですが、どう調べても生理用ナプキンの広告でした。
>
> つまり男性だけではなく「大人の女性」を読者層のターゲットとしてストランド・マガジンの編集者は考えていたのでした。

本当ですね!わざわざ「女性が担当している」と書くからには、購入に男性が関わるはずもないですしね。
まずは体験してもらうために、サンプルを配ったりもしてるんですね。面白い。
それにしても「海でも使用できる」って、現代のものよりすごくないですか……

> それと、この号には載っていませんが、トーストラックやナイフそして女性の服の値段がわりと低価格なので、アッパー労働者階級〜ロー中産階級を意識しているのでは、と思っています。

なるほど~!
>
> ストランド・マガジンの正式な名前は
> The Strand Magazine: An Illustrated Monthly というように2ページに1枚以上のイラスト(写真)が載っています。
> イラストを見る限り高尚な内容の作品が多いとは思えませんので、メイドが借りて(又はこっそりと)読んでいた可能性はあると思います。

「絵入り雑誌」なんて訳されていたりもしますね。
絵があれば、身分や学識に関わらず、さまざまな人の注意をひいたことでしょうね。

> 女性をターゲットにした編集方針だったから、コナン・ドイルが考えていた醜男なホームズが、シドニー・パジェット描くホームズはハンサムだったのでは、と思ってます。

これ、大事なポイントなのかも。思えば、SHERLOCKも女性ファンがすごく多いですものね。
あれ?でも私は自分が女性ということもあり、周りに女性ファンが多いような気がしているのですが、それって思い込みかな?
シャーロッキアン(ホームジアン)の男女比率ってどうなってるんでしょう。もちろん目に見える数が全てではないでしょうが……
ちなみにJSHCの男女比率ってどうでしょうか?お時間のある時に教えていただけたら嬉しいです!

- みっちょん - 2016年08月29日 16:55:29

ナツミさま、皆さま

労働者階級の女性の読書能力について書いていた事を思い出しました。

それは正規の教育を受けていないと思われる《ヴェールの下宿人》事件の依頼人ユージニアが
「(ホームズさんの)ご活躍ぶりをつぶさに見てまいりましたから。読書は、わたしに残されてたたったひとつの楽しみです。本の世界のことで、わたしが見落とすものはほとんどありません」
と語っていることからヒントを得ています。

拙著ではかなりカットしているのですが、サイトにアップしたときの文章をこちらに転載しますね。

……………………………………………………………………………………
《ヴェールの下宿人》事件の依頼人ユージニアも巡業先にあったおばさん学校や周りの大人に読み書きを習っていたのだと思います。(ディケンズの作品にでてくるサーカス育ちの女の子の)シシーやユージニアの二人のように実際に正規の勉強をしなくても小説が読めて理解できるか疑問に思う方がいるでしょう。しかし「読み書き能力の効用」の著者リチャード・ホガートの祖母は1870年代に結婚してる労働者階級で「おばさん学校」で読み書きを習っていただけですが、D・H・ロレンスの小説を読んで「ロレンスの作品の多くを祖母はほめており、ショックなぞ受けた様子はない」とホガートは思い出を記してます。しかし、ロレンスの小説に多いセックスの描写については「ロレンスはつまらないことに大さわぎをしてゴチャゴチャ言っているよ」と言っていたそうです。「チャタレー夫人の恋人」が猥褻であるとした我が国の裁判官は飛び切りのエリートですが、正式な教育を受けてないホガートの祖母の方はセックスの描写を「つまらないこと」として問題にもしていなのが興味深いです。
……………………………………………………………………………………

拙著の注にもありますが、「おばさん学校」とは
Dame School(おばさん学校):「何も教えない」「教育的価値の無い」と言う悪評が一般的です。しかし、親の生活、労働条件に柔軟に対応していて(現在で言うと学童保育的な存在)、学校での高度な勉強は無理でも読み書きを習うチャンスとしては身近な存在だったようです。



ホームズ・クラブの男女の比率ですが、最近は名簿を公開していないので正確には判りませんが、大会に出席されている人をみると、同じくらいかも知れません。

考えてみると、あまり女性、男性って意識をしないでお付き合いをしています。

- みっちょん - 2016年08月29日 21:03:20

ナツミさま

ホームズシリーズが何故ストランド・マガジンに掲載されたかについて纏めてみました。
簡単に言えばコナン・ドイルの書いた《ボヘミアの醜聞》の文字数が関連しています。

最初にA・P・ワットの紹介ですが
「コナン・ドイルはこの頃(1890年頃)、専属代理人A・P・ワットを雇い、雑誌社や出版社との"いやな交渉"をしなくて済むことになった。ワットは"著作権代理人(リテラリ・エージェント)"と言う新語を生んだ人物とされて(「コナン・ドイル伝」)」います。

このワットの手紙とコナン・ドイルのポケット・ダイアリーなどを元に年代順に記してみました。
(参考ブログ:ホームズ・ドイル研究ブログ)

詳しい解説は長くなるので割愛しますが、《ボヘミアの醜聞》を書いた頃のコナン・ドイルは、作家としては認められていましたが、長年母に金銭的な苦労をかけ、自分も勉強に時間かけていた医業を止める決心は出来ず、全科開業医ではなく眼の専門医として、そして作家の二本立てて行くことを考えていました。しかし、5月4日にかかったインフルエンザによって(かなり重篤になった)気持が変化し作家だけて生きていく事を決めたそうです。



1891年
ウィーンにて
1月6日 『ラッフルズ・ホーの奇跡』を書き始める。
1月23日『ラッフルズ・ホーの奇跡』を書き終える。

1月〜12月コーンヒル・マガジンに《白衣の騎士団》連載

1月ストランド・マガジンの創刊号がでる。

3月号ストランド・マガジンにドイル作《科学の声》が掲載される。

3.24 ウィーンで眼科の勉強していたドイル夫妻がロンドンに戻る。

3.31 A・P・ワット、《ボヘミアの醜聞》の原稿を受け取る。

3.31付 ワットからドイル宛「本日、《ボヘミアの醜聞》の原稿受領と報告。7000語以上を使えるのは『ストランド・マガジンだけだから、この雑誌へ持っていくと告げ、シリーズであることを確認する」

4.6  眼科医院の準備完了。

4.10 ワット、《花婿の正体》(執筆順だとこの作品が二作目)の原稿を受け取る。

4.11付 ワットからドイル宛 「昨日、ホームズ第二作受領。『ストランド・マガジン』がホームズ第一作を受け入れ、シリーズの残りも希望していると報告。《ボヘミア》校正刷を同封し、冒頭部の訂正を求める。」

4.14付 ワットから『ストランド・マガジン』編集長スミス宛「著者訂正済みの《ボヘミア》校正刷を返送。」

4.20 ワット、《赤毛連盟》(執筆では三作目)の原稿を受け取る。

4.27 ドイルが《ボスコム谷》の原稿発送(ワットの手紙なし)

5.4  ドイルがインフルエンザで倒れる。(医業をやめ、文筆で生きることを決める)

5.12 ワット、《オレンジの種》の原稿を受け取る。

7月に米国で施行されたのが「国際著作権法」これは「米国においてアメリカ国民以外にもある一定の条件を満たせば著作権の保護を行うことを認めた」

7月号ストランド・マガジンに《ボヘミアの醜聞》が掲載される。

6.25 ドイル夫妻と娘がモンターギュー・プレイス23番の下宿からサウス・ノーウッドのテニスン通り12番に家に移り住む。

8月号ストランド・マガジンに《赤毛連盟》が掲載される。

8.10 ドイルが《唇の捩じれた男》(短編の6作目)をワットに発送。
…………………………

以上ですが、挿絵画家のシドニー・パジェットはストランド・マガジン創刊号から挿絵を描いています。

ありがとうございました - ナツミ - 2016年08月30日 00:22:52

みっちょん様

さまざまなご教示をありがとうございました。
正規の教育を受けていない女性も、読書を楽しんでいたのですね。
個人的には、英語という言語は52の文字しかないので初めのハードルは低いですが、語彙が増えれば増えるほど、新しく覚える単語が難しくなる仕組みになっていると感じています。(たとえばフランス語はこの傾向があまりなく、簡単な単語を組み合わせて難しい言葉を作ることが多い、と聞いたことがあります。私は仏語が全くできないので、実感はないのですが……)
日本語も同様で、漢字がだんだん難しくなっていきますが、漢字を知らなくても、ある程度の娯楽は享受できます。
ストランド・マガジンの立ち位置は、現代日本で言うとコンビニや駅のキオスクで売っている漫画雑誌のようなものでしょうか……?
昔のもの、というだけで、もっと難しい本のような印象を抱いていました。

そして、ドイルがこの雑誌に執筆することになったのは、要するに文字数の問題だったのですね!わりと散文的な理由でしたね……

JSHCには男女バランスよく在籍していて、『怒りの同盟』など存在し得ないほど、隔て無くお付き合いなさっているのですね。
私は周りに"SHERLOCK"のファン自体いないのですが、ネットでのお付き合いに関しては、女性が圧倒的に多いような気がします。語り口が女性向けに偏っているのかもしれません。

みんなのストランドマガジン、そしてみんなのふふふふふ - 篠田真由美 - 2016年09月02日 08:41:43

>ストランド・マガジンの立ち位置は、現代日本で言うとコンビニや駅のキオスクで売っている漫画雑誌のようなものでしょうか……?

昨日、日本女子大教授でヴィクトリア朝文学研究の川端有子さんとお目にかかったので確認してきたのですが、やはりストランド・マガジンは「家庭雑誌」というのが一番適切な分類になるようです。お父さんが買って帰って、団欒の時に朗読して聞かせたりもできる健全で、教養と娯楽を兼ねた、つまり「面白くてためになる」雑誌。固すぎないけど、リスペクタブルな家にあっても非難されない種類の雑誌です。
そしてこの時代はいまよりも印刷物が大切にされたので、次の号が出ればすぐに捨てられたりするわけではなく、使用人に下げ渡されたり譲られたり、という形で、販売部数に数倍する読者がいたのでは。
広告が女性向けっぽいのも、そうして雑誌の広告で商品知識を得たり、購買意欲を刺激されるのが主に女性だった、という、そのへんはいまでもそんなに違わないですね。

しかし、挿絵のホームズが作者想定よりハンサムになったのは、やはり女性読者の存在からか、というみっちょんさんの推理は、実に楽しくなります。19世紀から滔々と繋がる、「怒りの同盟」ならぬ「腐の同盟」ですね。

- みっちょん - 2016年09月02日 22:05:24

挿絵画家のシドニー・パジェットがホームズのモデルとした弟のウォルター・パジェットの写真を拙サイトの
http://shworld.fan.coocan.jp/18_a/1/holmes_12.html

にアップしてあります。

ハンサムというか母性本能がくすぐられるような顔だちなんですよね。

この写真はロンドンに行った時に、「おもちゃ博物館」で展示しているのを偶然に見つけて撮ったものです。


モデルにした「弟がハンサムだったからホームズもハンサム」になった、と思っていたのですが、ストランド・マガジンの広告を調べると女性をターゲットにしているのがわかったので、「編集者サイドからの要望でハンサムなホームズを描くために、ハンサムな弟をモデルにした」と思うようになりました。

- みっちょん - 2016年09月03日 15:00:20

判りやすいように

挿絵画家のシドニー・パジェット、モデルとなった弟のウォルターそしてシャーロック・ホームズの写真を並べてアップしてみました。

https://twitter.com/sh221_mittyon/status/771942410884636674

真中のウォルターの写真に「シドニー・パジェット」と記されている本がありますが、左のシドニー・パジェットの写真は1895年12月号のストランド・マガジンからスキャンしているので間違いないです。

同盟ありがとう! - ナツミ - 2016年09月04日 22:26:07

篠田真由美様

> 昨日、日本女子大教授でヴィクトリア朝文学研究の川端有子さんとお目にかかったので確認してきたのですが、やはりストランド・マガジンは「家庭雑誌」というのが一番適切な分類になるようです。お父さんが買って帰って、団欒の時に朗読して聞かせたりもできる健全で、教養と娯楽を兼ねた、つまり「面白くてためになる」雑誌。固すぎないけど、リスペクタブルな家にあっても非難されない種類の雑誌です。

なるほど、現代ではちょっとないくらい、ターゲット層が厚い雑誌だったのですね。
今でも老若男女知らない者はいない「ホームズ」の掲載誌としては大いに納得できますが、その掲載理由が単に「文字数」だったなんて、ほんとに面白い……!いや、人気雑誌だからこそ、文字数も増やせたんでしょうか。

> そしてこの時代はいまよりも印刷物が大切にされたので、次の号が出ればすぐに捨てられたりするわけではなく、使用人に下げ渡されたり譲られたり、という形で、販売部数に数倍する読者がいたのでは。

小さいころ、本を床に置いたり踏んだりすると祖母に叱られたものですが、彼女にとっては印刷物の意味がまた違ったんでしょうね。本にとっては幸せな時代でしたね。

> しかし、挿絵のホームズが作者想定よりハンサムになったのは、やはり女性読者の存在からか、というみっちょんさんの推理は、実に楽しくなります。19世紀から滔々と繋がる、「怒りの同盟」ならぬ「腐の同盟」ですね。

ええ、本当に、ある面ではそんなに変わらないですよね……
自分の生きている時代だけでも、ジェレミー・ブレットから順にホームズ役者を並べていくと、「時代時代のイケメン像の変遷」みたいなものを感じます。基準が「イケメン」なのは、パジェットなり彼のエージェントなりが、空気を読んでくれたおかげかな。ドイルの頭のなかにあったホームズそのままの挿絵だったら、今頃誰がホームズ役者だったんでしょうね。

パジェット兄弟は美形 - ナツミ - 2016年09月04日 22:41:04

みっちょん様

リンクをありがとうございます。
ドイルのお父さんが描いたヒゲのホームズ、私わりと好きだったりします。まあ、あれが後世に残るような気もしないので、パジェットありがとうやで!なんですけど……

> ハンサムというか母性本能がくすぐられるような顔だちなんですよね。

確かに!可愛いですね。そこはカンバーバッチにも受け継がれてる気がします。

> モデルにした「弟がハンサムだったからホームズもハンサム」になった、と思っていたのですが、ストランド・マガジンの広告を調べると女性をターゲットにしているのがわかったので、「編集者サイドからの要望でハンサムなホームズを描くために、ハンサムな弟をモデルにした」と思うようになりました。

このご意見にはTwitterでも力強く「いいね」させていただきました。やっぱりありそうですよね、テコ入れ!
ワトスンちのメイドさんなんか、ホームズに「思ったより背が低い」的な台詞をさらりと言ってそう……

シドニー・ウォルター・ホームズの比較画像もありがとうございます!
確かに、ベイビーフェイスのウォルターのほうが可愛いんですが、シドニーも素敵ですよね。こちらの方が実はホームズに似てたりしません?眉間のあたりとか、何だかんだ言って自画像じゃない?と思っちゃいます!

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Author:ナツミ
シャーロック・ホームズが好きです。どちらかというとワトスン君がより好きです。

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