- 最初の挨拶
- BBC制作、現代版シャーロック・ホームズのドラマ「SHERLOCK」ファンのブログです。 正典/聖典(原作)と比較しながらドラマを観て、元ネタ探しをしております。 ネタバレ満載ですのでお気をつけください! ★原作の文章を引用する際、主に新潮文庫版(延原謙・訳)を参考にさせていただいております。 ★全ての記事は、推測やこじつけを基にしており、たまに妄想も入っております。ご了承の上ご利用ください。 ★このサイト及び記事へのリンクは、どうぞご自由になさってください。 「あの場面の元ネタは?」という時はこちらへ →ブリキの文書箱
ポケットに銃を
とりあえず、元ネタがしっかりわかっている(つもりの)ものから書いていこうと思います。
ホームズ家のクリスマスディナーに、なぜか銃を持ってきてるジョン。
"But it's Christmas! "
"I feel the same. ……Oh, you mean it's actually Christmas. Did you bring your gun, as I suggested?"
"Why would I bring my gun to your parents' house for Christmas dinner?"
" Is it in your coat?"
" Yes."
「でもクリスマスだぞ」
「僕も嬉しいよ。……・ああ、君が言いたいのは実際に今クリスマスだってことか。言っておいたように、銃を持って来たか?」
「何で君の実家のクリスマスディナーに招かれるのに銃を持ってくるんだよ」
「コートの中か?」
「ああ」 (拙訳)
こんな状況でも、シャーロックとジョンの会話は漫才のように軽妙。
「お祭りだ、嬉しい!」というような意味での" it's Christmas"は、"A Study in Pink"での二人の初の共同捜査の日、難事件に浮かれるシャーロックがつぶやいてた台詞。、「ホームズ家のクリスマスディナー」にも、同じ話でマイクロフトが言及していましたね。やはり、第三シリーズは一つの区切りになるのかな。
ベネディクト・カンバーバッチの実のご両親が演じた、シャーロックとマイクロフトのモデルになった人物も探ってみたいと思います。
それは置いといて、今回は銃の話。
ホームズがワトスンに銃を携帯させる場面は何回もあります。
まずは「緋色の研究」。
「そのときはすっかり僕にまかせとくさ。君は銃をもっているかい?」
「ふるい軍用拳銃と弾丸がすこしある」
「じゃそれを掃除して、弾丸をこめといたほうがいいだろう。その男はきっとむこう見ずの命がけでやって来るのだろうからね。それは僕としても油断さしといて捕えるつもりだけれど、万一の場合には備えておくほうがいいからね」
「頼む。そしてね、少々危険があるかもしれないから、軍用ピストルをポケットに忍ばせてきたまえ」(『赤髪連盟』)
「ポケットにピストルを忍ばせていってくれるとありがたいな。鋼の火掻棒を飴のように曲げてみせる男にゃ、イリーの二号ピストルくらいはないと話になるまいよ。ピストルと歯ブラシだけ用意してゆけば、たいてい間に合うだろう」(『まだらの紐』)
後述する過去記事「ワトスンの強さ」で、「イリーの二号」はピストルではなく弾丸の名前、というご指摘をいただいています。それにしても『ピストルと歯ブラシだけあればいい(That and a tooth-brush are, I think, all that we need.)』って、やたらかっこいいですね……
しまいには、自主的に持参するようになったワトスン……
だが、目的地に近くなったころ、彼は急に私の正面に来て坐り――そのときは二人で一等車を独占していたのだが――私のひざに片手をおいて、こういう気分のときの癖で、妙にいたずらっぽい眼つきで私の目の中をのぞきこんでいった。
「ワトスン君、きみはこうした冒険に出かけるときは、よく武器を忍ばせたような気がするがねえ」
私がそれをするのは彼のためなのだ。ホームズときたら、事件に心を奪われると、自分の安全をも顧みない男だから、私のピストルが物をいったことも一度や二度ではない。(ソア橋)
ホームズのために銃を携えていた、と言うワトスン。
"A Study in Pink"で引き出しから銃を取り出すジョンの表情は、それ以上の物を抱えていたように思えます。
ジョンにとって銃は、従軍時代の、戦士としての自分の象徴のようなものだったのでしょう。楽しい思い出ばかりだったはずはありません。いろいろな意味で、重荷である。でも、その過去にすがっている自分もいる。
そのジョンも、シャーロックと冒険を続けることによって、「ソア橋」のワトスンと同じような気持ちを抱くようになってきたのかもしれません。
武器は武器として、過剰な意味をまとわせることなく、友人の命を守る道具のひとつとなったのでしょう。
原作のワトスンもまた、同じような心の変遷をたどったのかもしれません。
ホームズとワトスンの「銃を持ってきたか」というやりとりには、生死を共にする仲間だけが分かち合う、独特な親密さと乾いたユーモアがあるように思えます。現代版シャーロックとジョンのやりとりにも、それと似たものを感じます。
ジョンの銃がどんな銃なのかは、わたしにはちんぷんかんぷんなのですが、こちらの記事のコメント欄では、銃に詳しい方々が華麗な解説を繰り広げてくださっています。ご興味のある方はぜひご覧ください。
過去記事:「ワトスンの強さ」
ひとつだけ「銃」に関しての補足をします。
シャーロックがメアリの銃を特定しようとする場面で、"Cat-0208""Cat-077839"などの名前が現れるのですが、これは初対面の時シャーロックが見抜いたメアリの情報として現れるテキスト"Cat Lover"と呼応する、と教えていただいたことがあります(その方も、『ネットでこういう説がありますよ』というように教えてくださったので、ソースははっきりしないのですが)。
非常に面白い説だと思うのですが、もしそうだとしたら、シャーロックはどういう根拠をもって"Cat Lover"という情報を導き出したのかしら。かなり漠然とした"Liar"とは違って、メアリの裏の顔をはっきりと打ち出してしまうキーワードですよね。シャーロックの推理は単なる「猫好き」で、名前が一致するのはメタ的なお遊び、ということなのかな。
(原作からの引用はすべて延原謙訳)
この記事へのコメント
わあ、コメントありがとうございます!
直接お話するのは「初めまして」ですが、れすとらさんのサイトのコメント欄での鋭いご考察を興味深く拝見しております。
> もう一月ほど前になりますが、メアリー・モースタン関連のコメントの中で、当ブログについて言及していただき、ありがとうございます。先日そのことを知ったばかりで、コメントがすっかり遅くなってしまい申し訳ありません。
こちらこそ、お伺いもたてずにお名前を出してしまい、申し訳ありませんでした。
ご丁寧なご挨拶いたみいります……!
パペットホームズを世界に向けて盛り上げていく大きな牽引力「ベイカー寮221B」、
こんなガラパゴスな我がブログからではありますが、大きな声で応援申し上げております!
最近の記事では、ホームズのパイプのお話も興味深く拝見しました。
返信ありがとうございます。
あのパイプの記事、何かばたばたと書いてしまいましたが、読んでくださり恐縮です。
パペット中心ではありますが、それ以外のホームズ関連も時々書く予定ですので、また遊びに来ていただけると嬉しいです。
いただいたコメント、携帯から承認したつもりがされてなかったことに、今気づきました……!遅くなって申し訳ありません。
ホームズ作品にお詳しいな、と思っておりましたが、パペット以外のホームズもお好きなのですね。
このブログは『SHERLOCK』中心ではありますが、私もパペットホームズはじめさまざまな作品が好きです。
パペットの記事も、それ以外の記事も楽しみにしております!
トラックバック
URL :
初めまして - ak - 2015年03月11日 20:57:11
こんばんは、初めまして。
akと申します。もう一月ほど前になりますが、メアリー・モースタン関連のコメントの中で、当ブログについて言及していただき、ありがとうございます。先日そのことを知ったばかりで、コメントがすっかり遅くなってしまい申し訳ありません。
またお邪魔させていただこうと思います。どうぞよろしくお願いいたします。