最初の挨拶
パンダとジョン

BBC制作、現代版シャーロック・ホームズのドラマ「SHERLOCK」ファンのブログです。
①正典/聖典(原作)と比較しながらドラマを観て、元ネタ探し
②ドラマでまだ出てこない原作の事件は、SHERLOCKだとどんな話になるのかな?と妄想する

…を一人で(主にトイレとかお風呂で)楽しんでいたのですが、
さまざまな方にご意見をいただけたら楽しいだろうなあ、と思って始めました。
ネタバレ満載ですのでお気をつけください!
★原作の文章を引用する際、主に新潮文庫版(延原謙・訳)を参考にさせていただいております。
★全ての記事は、推測やこじつけを基にしており、たまに妄想も入っております。ご了承の上ご利用ください。
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蛇から鮫へ

"Now, Magnussen. Magnussen is like a shark. It's the only way I can describe him.
Have you ever been to the shark tank at the London Aquarium, John? Stood up close to the glass?
Those floating, flat faces,those dead eyes. That's what he is."
「よし、マグヌッセンだが、まるで鮫のような奴だ。それ以上に的確な表現はない。
ロンドン水族館で鮫を見たことがあるか、ジョン?ガラスの前で立ち上がっているところを?
あのぷかぷか浮いてる、平たい顔に死んだ眼。 奴そのものだ」(拙訳)



"Hum! He’s about due. Do you feel a creeping, shrinking sensation, Watson, when you stand before the serpents in the Zoo, and see the slithery, gliding, venomous creatures, with their deadly eyes and wicked, flattened faces? Well, that’s how Milverton impresses me."
「ふむ、ではもう来るころだな。ワトスン君、きみは動物園へいってへび―あのくねくねと毒をふくんだ動物のまえに立って、悪意ある平べったい顔に怖ろしい眼を光らせているのを見たら、思わずぞっとしないかい?僕はあの男からそういう印象を受けるんだ。(後略)」



チャールズ・オーガスタス・マグヌッセンは、第3シリーズの中でも、またシャーロックとジョンの関係の変遷においても、非常に大きな意味を持つ人物だと思います。何度かに分けて書きたいと思っていますが、まずは上記の「印象」について、現代版と原作を比較してみます。(私はまだコメンタリーや公式ガイドブックを参照していません。自分なりに一通り謎解きを楽しんでからにしよう、と思いつつ、その段階で時間が経ってしまっています。とっくに『公式解答』の出ている問題で悩んでいたら、お目汚し申し訳ないです。ご指摘、ご教示をいただければ幸いです。)

この場面を観てまず思ったのが、「どうして蛇が鮫に変わっているのか」ということでした。そこでいくつか仮説を立ててみました。

1:俳優さん由来説

マグヌッセンを演じるのは、ラース・ミケルセン。デンマークの俳優さんで、デンマーク女王からナイトの称号も贈られているそうです。
淡い色の髪、眼や肌、すらりとした長身。いかにも北欧の雰囲気。
蛇はもっと南の土地を思わせますから、同じ「危険な」印象を与える動物でも、鮫の方がふさわしいかもしれません。(もっとも、調べてみたところ蛇も鮫もほぼ世界中に分布しているようです。)

2: 鮫の方が似てる説

次に、二人とも実体験をもとに語っているということに着目してみました。
シャーロックは「ロンドン水族館」、ホームズは「あの動物園」の名前を出しています。
The London Aquariumの正式名称は、"Sea Life London Aquarium"。「21世紀版ホームズ」の背景画像にしばしば効果的に使われている観覧車、ロンドンアイのすぐ近く。リンク先は公式サイトですが、トップページからめっちゃ楽しそうな少年とサメのコラボレーション(2014年11月現在)。オープンは1997年ですが、シャーロックが言っている"The shark tank(鮫の水槽)とは、2009年の改装で設けられた"Shark walk"、もしくは2012年新設の"Shark Reef Encounter"のことではないかと思います。



……シャーロックが何しに行ったのか知りませんが、サメとタイマン張ってる姿が目に浮かぶようです。まあ、アラサーでも楽しいものは楽しいです(←雑なまとめ)。

一方、ホームズが言っている"The zoo"とは、ベーカー街からほど近いロンドン動物園のことと考えて間違いないと思います。
1848年に一般公開された、世界で最初の「科学的動物園」(単に動物を見世物とするのではなく、教育・研究施設としての役割を持った動物園)。動物園は英語ではzoological garden(s)(動物学的庭園)と言いますが、これを縮めてzooと呼ぶこともロンドン動物園から始まったそうです。(Wikipedia「動物園」の項より)

ホームズの時代にロンドン動物園がほぼ唯一の動物園だったことを考えると、彼が生きて動いているサメを見たことがある可能性は低い。一方で、二人の蛇と鮫の描写(平たい顔、死んだ目)はたいへん似ています。もしホームズに鮫を見た経験があったら、蛇ではなく鮫を比喩に使ったかもしれません。

とはいえ、ホームズが鮫を知らなかったわけではないんですよね。「マザリンの宝石」では、悪役のシルヴィアス伯爵を鮫に例えています。

「シルヴィアス伯爵というのがその魚の一匹なのかい?」
「そう、それも鮫だね。かみつくよ。そのほかボクサーのサム・マートンという男もいるけれど、こいつは大したことはない。伯爵が手先に使っているだけだ。鮫という柄じゃない。体こそ大きいが、のろまでおろかなカマツカにすぎない。いずれにしても網の中でばたばたしているだけだよ」



その凶暴性、そして、魚に例えられる悪人たちとの格の違いゆえに、シルヴィアス伯爵は鮫に例えられます。


3、動機由来説

シャーロックはマグヌッセンを「脅迫界のナポレオン(the Napoleon of blackmail)」と表現します。
これは、原作でホームズがモリアーティ教授を「犯罪界のナポレオン」と表現したことに呼応します。
モリアーティの名を「聞いたこともない」というワトスンに、ホームズがその怖ろしさを伝えるために使った名称なのですが、現代版のジム・モリアーティにこの表現が使われたことはありません。シャーロックはジョンと共にジムに出会い、その怖ろしさを共有しているので、比喩を使う必要がなかったのでしょう。

では、どうしてマグヌッセンは「ナポレオン」の名にふさわしく、ミルヴァートンはそうでないのか。
ミルヴァートンとマグヌッセンでは、犯罪の動機が違うように思えます。
ミルヴァートンは脅迫そのものを生業にしています。

"An exposure would profit me indirectly to a considerable extent."
「(前略)暴露は間接に大きな利益を私にもたらしてくれるのです。(後略)」



ミルヴァートンの目的はあくまでも金銭で、情報収集は個人のそれを引き出す手段に過ぎないように思えます。
一方、新聞社のオーナーであるマグヌッセンは、「情報」の力をより大胆に利用しようとします。
「情報」は人を屈服させることができる。情報を掴むことで人を、ひいては世界を意のままにする。金銭よりも、そこから得る優越感が彼の望みのように思えます。
この二人の人物像を掘り下げるにはもう少し「粘土」が必要ですが、少なくともミルヴァートンには、世界を脅迫相手にしようという野心は見られません。狙った相手に忍び寄って、ピンポイントで攻撃を仕掛ける様が蛇をイメージさせるのではないかな、と思います。
その一方で、マグヌッセンは悠々と世界を泳ぎまわり、個人の心情など歯牙にもかけません。彼の行く手を邪魔する者が現れると、容赦なくなぎ倒していく。その姿を動物に例えるなら、巨大な鮫がふさわしいのかもしれません。

(原作からの引用はすべて延原謙訳)
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この記事へのコメント

- 黒卵(コクラン) - 2015年02月25日 19:45:08

はじめまして。
最近「SHERLOCK」にはまったので、よく参考にさせてもらってます。
なので、以下の内容は、既に書かれていたらスイマセン。

ところで、「犯罪王のナポレオン」には、アダム・ワースという実在した宝石泥棒の
異名であり、モリアーティのモデルになったと「英語でシャーロック」75ページに
書いてました。
アダム・ワースは、大西洋の両側(アメリカとヨーロッパ)で別名
(ヘンリー・レイモンド)を使い、華々しい二重生活をしていたとも。

調べてみたら、暴力を嫌い、独自の犯罪ネットワークも作っていたようで、
実在する彼らを追い詰めたのは「赤い輪」に登場するピンカートン探偵社。

アダム(ワース)とアップル(ドア)=知恵の実も何となく、元ネタっぽい?
情報=アップル…から、スティーブ・ジョブズも元ネタ?

マグヌセンは「マグヌス(ラテン語:偉大な・巨大な)の息子」を意味するデンマーク姓。

後、(サメ)Shakeと(ヘビ)Snake。英語的に字面似てるし、
発音的に(シャーク)と(シャーロック)Sherlockで近いから、
マインドパレス持ってるし、シャーロックの強敵として
視聴者に印象つけたかったのではないでしょうか?

ただ、マグヌセンのは、瞬間記憶能力っぽい気もしたけど。

おお~、面白い! - ナツミ - 2015年02月26日 22:21:28

黒卵さま

初めまして!
とても興味深い情報をありがとうございます。
第3シリーズは(も?)まだまだ検証不足で、過去記事とはまったく重複していませんよ~!
お気になさらずどんどん書き込んでいただけたら嬉しいです。

> ところで、「犯罪王のナポレオン」には、アダム・ワースという実在した宝石泥棒の
> 異名であり、モリアーティのモデルになったと「英語でシャーロック」75ページに
> 書いてました。

そ、そうなんですね!
シャーロックのスクリプトが載っているんだろうなあ(あと、タイトルのフォントは何でアレなんだろう……)くらいでスルーしていましたが、そんな有益情報が!

> 調べてみたら、暴力を嫌い、独自の犯罪ネットワークも作っていたようで、
> 実在する彼らを追い詰めたのは「赤い輪」に登場するピンカートン探偵社。

ピンカートン探偵社のジェームズ・マクパーランドをモデルとしたキャラクターが、「恐怖の谷」にも出てきますね。
「緋色の研究」について最近カミングアウトしたんですが、「恐怖の谷」を読むときも、二部の主人公にホームズをだぶらせて読んでしまうんです(←ホームズが出てこないことに深層心理で納得がいっていないのか?)。
だからピンカートン社対ワース≒ホームズ対モリアーティの図式、私には非常にしっくりきました。

> アダム(ワース)とアップル(ドア)=知恵の実も何となく、元ネタっぽい?
> 情報=アップル…から、スティーブ・ジョブズも元ネタ?

おおお!面白いですね!
ジョブズは……アップルを抜きにしても、「なんとなくいるな、マグヌッセンの中に……(役作り的な意味で)」と思いますよね……。
「知恵の実」といえば、第一シリーズ一話のジョンを思い出します。りんごと、英国軍医師部隊マグカップの蛇の組み合わせ。
SHERLOCKは聖書に関わるキーワードも多いですよね。既にたくさんの方が言及されているかと思うのですが、原作にも聖書からの引用がたくさんあるので、比べてみるのも楽しそうですね。

> マグヌセンは「マグヌス(ラテン語:偉大な・巨大な)の息子」を意味するデンマーク姓。

おお、これも知らなかった……
アンダースンはアンデルセンの英語読みだな、と勝手に納得していたのですが、ついでにググってみたら「キリスト十二使徒の一人アンデレの子孫の意」なんですね(Wikipedia調べ)。こういうのを調べるの楽しいです。

> 後、(サメ)Shakeと(ヘビ)Snake。英語的に字面似てるし、
> 発音的に(シャーク)と(シャーロック)Sherlockで近いから、
> マインドパレス持ってるし、シャーロックの強敵として
> 視聴者に印象つけたかったのではないでしょうか?

対極の位置に持ってきたかった、ということですね。なるほど。
そういえば鮫がスカーフ巻いてるファンアートを見たことがあるような気がします。

> ただ、マグヌセンのは、瞬間記憶能力っぽい気もしたけど。

これは、谷崎潤一郎や山下清が持ってた「映像記憶」ってやつではないか、と私は思ってます!
一度、シャーロックもその手の能力の持ち主か?と思って記事を書いたことがあるのですが、マグヌッセンの描写はかなりはっきりと「映像記憶」ではないかと思います。黒卵さんのおっしゃる「瞬間記憶能力」も同じ意味ではないでしょうか。古い記事ですが、リンクを貼っておきますので、よろしければご覧ください。

「シャーロックと地図」http://sherlock221b.blog.fc2.com/blog-entry-98.html

とても面白いお話をたくさん、ありがとうございました。
こちらからは参考にしていただける記事をご提供できたかどうか大いに不安ではありますが……また遊びにきていただけたら嬉しいです!

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Author:ナツミ
シャーロック・ホームズが好きです。どちらかというとワトスン君がより好きです。

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