最初の挨拶
パンダとジョン

BBC制作、現代版シャーロック・ホームズのドラマ「SHERLOCK」ファンのブログです。
①正典/聖典(原作)と比較しながらドラマを観て、元ネタ探し
②ドラマでまだ出てこない原作の事件は、SHERLOCKだとどんな話になるのかな?と妄想する

…を一人で(主にトイレとかお風呂で)楽しんでいたのですが、
さまざまな方にご意見をいただけたら楽しいだろうなあ、と思って始めました。
ネタバレ満載ですのでお気をつけください!
★原作の文章を引用する際、主に新潮文庫版(延原謙・訳)を参考にさせていただいております。
★全ての記事は、推測やこじつけを基にしており、たまに妄想も入っております。ご了承の上ご利用ください。
★このサイト及び記事へのリンクは、どうぞご自由になさってください。
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ケイト・ホイットニーの来訪

新婚生活を始めたジョンとメアリ。
ジョンはともかく、友人の多いメアリはご近所の方にも頼られているようで、朝から息子の問題を抱えたケイト・ホイットニーが訪ねてきます。
ほとんど同じ場面が「唇の捩れた男」の冒頭にありますね。

「たいへんおそくにうかがいまして……」といいかけてその婦人は急に自制力を失い、妻のところに駆けよってその首に両手をかけ、その首に両手をかけ、その肩に顔をふせながら、「私、私、困っていますのよ。お願いだから、どうぞ助けて……」とばかり、すすり泣きをはじめてしまった。



原作でケイトの夫・アイザ・ホイットニーが入り浸っていたアヘン窟は、麻薬中毒者の溜まり場になっている空き家に変更されています。ジョンが「旦那さんだっけ?」みたいなことを言うのは元ネタを暗示してるわけですね。
ご近所づきあいにそれほど興味のなさそうなジョンにとっては、アイザックがケイトの夫なのか息子なのかも曖昧なようですが、ジョンが冒険の匂いを嗅ぎつけたことに、メアリは敏感に気づいた様子。

というわけなのであるが、むろんこれにはたった一つしかとるべき手段はなかった。私が彼女について、そこへ行くべきか?しかし、彼女自身が行かなければならぬ理由がどこにあるのだ?アイザ・ホイットニーにとって、私は主治医ではないか。してみればホイットニーは私のいうことをきいてくれるはずだ。それにいざとなれば、私独りのほうが都合のよいことも多かろう。(『唇の捩れた男』)



原作を読んだ時は、「ワトスンは友人思いだなあ」としか思いませんでしたし、ワトスン自身にも自覚がなかったのでしょうが、現代版を観たら「主治医だからって夜中にアヘン窟に乗り込むか?」という気がしてきました。
原作のメアリも、「あなたって人はどうしてそう……(危険に飛び込んでいくの?)」と思っていたのかもしれませんね。

原作のメアリは家で待ちますが、現代版メアリは自ら車で夫を送っていきます。
タイヤレンチをズボンに忍ばせるジョン。原作のワトスンも、危険を悟ると手近なものを武器に使おうとすることがあります。

ホームズが平然として少しも動ずる色がないためか、それともそのとき私が火かき棒を手に取る微かな音が聞こえたためか、客のはでな態度はいくらかおさまった。(『三破風館』)



それを見て私は椅子に手をかけたが、ホームズが頭を横にふったので、その手をそっと放した。そのあいだにミルヴァートンのやつは、微笑をふくんで頭をさげ、眼をきらりと光らせて出て行ってしまった。(『犯人は二人』)



私は帽子をかぶって太いステッキを手にしたが、ホームズは引出しからピストルを取り出して、ポケットへ忍ばせた。彼は今晩の仕事をよほど重大視しているのにちがいない。
(『四つの署名』)



「四つの署名」では、いざとなったらステッキを武器にするつもりだったのでしょう。「恐怖の谷」では、ホームズに「こうもり傘を貸してくれ」と言われて「あんなもの、武器にはどうかな」と返していました。ワトスンにとって、傘やステッキは銃に準ずる武器の役目を果たしていたのですね。

ホームズに「バリツ」やボクシング、フェンシングの心得があることは有名ですが、自分のことはあまり書かないワトスンもまた、実践的な戦闘能力を備えていることをうかがわせる描写です。


……さて、実はこの記事、、『ユリイカ』シャーロック・ホームズ特集号のためにいくつか『His Last Vow』ネタを書きおろさせていただいたうちのボツになったやつです。
急いで書いたせいもあり、いつも以上にまとまりがないですね……

自らまとめるのを放棄したようでアレなんですが、この記事でぱらぱらとご紹介したジョンの「危険を好む」性格が同誌に収録された鷲谷花さんの『SHERLOCK』または「ジョン・ワトソンの物語」―暴力的欲望の〈サブテキスト〉という論考で、映像や演出の面から深く掘り下げられていて、ものすごく面白かったのです。ジョンというキャラクターについてよくわからないままもやもやしていた部分が、すっと腑に落ちました。
たまたま同じ本に載せていただいたからといって、私のような素人の考えと鷲谷さんのようなプロの研究者さんの論考を同列に語ってはいけないのですが……
映像作品を理解しようとする時、セリフや絵に分解して原作と比較するという、いわば二次元→二次元の作業では、気づけないことがたくさんあるのですね。作り手は三次元として表現しているのだから、切り刻む前に作品そのものを堪能しよう、映像や演出から伝わってくるものをしっかり受け取ろう、と、勝手に教えられて勝手に反省した夏でした。
まとまらなくなる一方ですが、寝かせておいたおかげで鷲谷花さんの記事のご紹介ができてよかったです。

(原作からの引用はすべて延原謙訳)
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この記事へのコメント

軍属上がりは伊達ではない - 神崎真 - 2014年09月13日 23:57:08

こんばんは、お久しぶりです。

> 危険を悟ると手近なものを武器に使おうとすることが
……改めてこうやって並べられてみると、原作ワトソンさんは常識人に見えて、実は意外と好戦的? と思えてきますね(笑)
火かき棒なんかは、もうあらゆるところで活躍している気がします。
ってか、椅子って! 相手普通に死んじゃうよワトソンさん!!
こういった部分や軍属経験ありという点を膨らませた結果が、現代版のスリルジャンキーなジョンの造形になっていったのでしょうか。

「唇の捩れた男」は、私的ホームズBEST3に入る大好きな作品です。
あれだって、本来なら前後不覚状態の患者を迎えに行っているのに、ホームズさんに誘われた途端、ホイットニーを馬車に放り込むだけ放り込んで、自分は行き先も知らされないまま郊外の依頼人ちまで同行しちゃうんだから、ワトソンさんの「仕事<<<ホームズ(との冒険)」ぶりがよく現れてるんじゃないかと。
「私と(ホームズさんとの)冒険、どっちが大事なの?」と詰め寄らなかった原作メアリは、本当に偉大な奥さんだったと思います。

確かに椅子はひどい…… - ナツミ - 2014年09月14日 17:07:40

神崎 真様

お久しぶりです!なかなか更新できなくて失礼しておりますが、コメントいただけてうれしいです。

> > 危険を悟ると手近なものを武器に使おうとすることが
> ……改めてこうやって並べられてみると、原作ワトソンさんは常識人に見えて、実は意外と好戦的? と思えてきますね(笑)
> 火かき棒なんかは、もうあらゆるところで活躍している気がします。

そうなんですよ!ワトスンって穏やかな印象があるんですけど、拾ってみると意外と……!
彼のせいで、火かき棒、こうもり傘、ステッキは、私の脳内辞書では完全に2項目めが「武器」です。
神崎さんに言われるまで気づきませんでしたが、確かに椅子って無茶苦茶ですね……
しかも、相手は銃ですよ!どう戦うつもりだったんでしょう。ガイ・リッチーに映像化してもらいたい。

> 「唇の捩れた男」は、私的ホームズBEST3に入る大好きな作品です。
> あれだって、本来なら前後不覚状態の患者を迎えに行っているのに、ホームズさんに誘われた途端、ホイットニーを馬車に放り込むだけ放り込んで、自分は行き先も知らされないまま郊外の依頼人ちまで同行しちゃうんだから、ワトソンさんの「仕事<<<ホームズ(との冒険)」ぶりがよく現れてるんじゃないかと。

「ケイトの代わりに自分が行く」と言い出すくだりも、アイザを帰してホームズについていくくだりも、なんだか妙に言い訳がましいんですよね。「主治医だから」とか「事実上使命は果たしたから」とか、別に誰も責めてないのに。それって、本音は冒険のほうに惹かれてるということですよね。

> 「私と(ホームズさんとの)冒険、どっちが大事なの?」と詰め寄らなかった原作メアリは、本当に偉大な奥さんだったと思います。

そこは大事なとこですよね。原作では、ホームズと冒険をしているワトスンにメアリは出会ったわけで、たぶんそこにもメアリは惹かれたんだと思います。
最近の作品では、リッチー版でのホームズに真向勝負できる強気なメアリ、現代版のシャーロックと友情を築ける懐の深いメアリがいますけれど、ホームズと冒険が夫にとってどれほど重要か、本人以上によく理解していますよね。この二人がどうやってワトスンと出会ったのか、気になります。

椅子といえば…… - 神崎真 - 2014年09月14日 21:23:46

ナツミさんの「映像化してもらいたい」という書き込みで思い出したのですが、確かイアン・ハートがワトソンさんをやった「バスカヴィルの獣犬」で、窓に突っ込んできた犬に反応して部屋を飛び出す際、ワトソンさんが椅子を掴んで持っていた場面があったように記憶しています。
あの時は「なんで椅子(笑)」と思ったんですが、ちゃんと原作を踏まえていたんですねえ。
思い返してみると、イアン版ワトソンさんも、かなり過激で好戦的だったような……

椅子vs.犬 - ナツミ - 2014年09月15日 14:51:25

神崎真さま

そうでした!貸してもらって一度見たきりなので忘れてましたが、イアン・ハートのワトスンはホームズすら「なんか、すみませんでした……」というテンションになるほどのキレっぷりだった!
椅子を持ち出したことは忘れてましたが(神崎さん、よく見ていらっしゃる!)、椅子で戦うつもりだったんでしょうか。飛びかかられたときに身を守るためかな?いずれにしても、魔犬相手に肉弾戦の覚悟があるだけですごいよ……!

なにげなく検索してみたら、ジャッキー・チェンが椅子を武器に戦う動画があったので、近作はその影響もあるんでしょうか。軽そうな椅子ですけどね。
原作でも、延原訳は「手をかけた、放した」ですが原文は
I picked up a chair, but Holmes shook his head, and I laid it down again.
となっているので、軽く持ち上げられるような椅子ですね。

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Author:ナツミ
シャーロック・ホームズが好きです。どちらかというとワトスン君がより好きです。

『高名の依頼人』のこと書きましたが、6月24日までグラナダ版がGYAOで無料で観られるそうです。
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