最初の挨拶
パンダとジョン

BBC制作、現代版シャーロック・ホームズのドラマ「SHERLOCK」ファンのブログです。
①正典/聖典(原作)と比較しながらドラマを観て、元ネタ探し
②ドラマでまだ出てこない原作の事件は、SHERLOCKだとどんな話になるのかな?と妄想する

…を一人で(主にトイレとかお風呂で)楽しんでいたのですが、
さまざまな方にご意見をいただけたら楽しいだろうなあ、と思って始めました。
ネタバレ満載ですのでお気をつけください!
★原作の文章を引用する際、主に新潮文庫版(延原謙・訳)を参考にさせていただいております。
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ジョンの結婚式とホームズ兄弟

ジョンとマイクロフト」「レストレードの抱擁」という記事で、「原作の登場人物の役割が、他の登場人物に少しずつ再分配されている」というようなことを書きました。

それを一番強く感じたのは、ジョンの結婚披露宴に来なかったマイクロフトと、シャーロックが電話で話す場面です。
もちろん、政府で重要な仕事をしているマイクロフトは多忙ですから、弟の友人に過ぎないジョンの結婚式に顔を出せなくても、おかしくはないです。しかし、この日は彼の休日だということが「わざわざ」描写されています。そこには、何らかの含みがあるはずです。

シャーロックはマイクロフトに電話をして出席を促します(仕事以外でマイクロフトと接触したがらないシャーロックにしては、これも異様な行動です)が、そもそも、原作ではホームズはワトスンの結婚式に出席したんでしょうか。

「株式仲買店員」では、結婚して開業し、3か月ほど経ったワトスンをホームズが訪ねてきますが、この時「久しぶりだね、奥さんも例の『四つの署名』事件ではすこし興奮しておいでのようだったが、もうすっかり落ち着いておられるだろうね?」と聞きます。つまり、ホームズとメアリは「四つの署名」事件以来顔を合わせていない可能性があるわけです。

ワトスンの結婚後、ホームズとワトスンが初めて顔を合わせるのは、「ボヘミアの醜聞」でワトスンがふらりと221Bを訪ねた時ですが、ワトスンが新聞記事などで知った限りでは、その直前のホームズは海外にも招かれたりして大忙しでした。
無論結婚式には招かれたと思いますが、出席しなかったのかもしれません。

親友の結婚式に出席しないのは冷たいように思えますが、ホームズは「四つの署名」で「おめでとうは言わないよ」とはっきり言っていましたから、考えられないことではありません。ホームズの性格を考えると、心から祝福できないのにうわべを繕って式に出るくらいなら、初めから行かないんじゃないでしょうか。
ホームズがワトスンを嫌いになったわけでも、メアリを憎んでいたわけでもなく(『あんな愛らしい婦人はないとさえ思っている』と、ホームズ自身がはっきり言ってます)、これは主義の問題です。

「しかし恋愛は感情的なものだからね。すべて感情的なものは、何ものにもまして僕の尊重する冷静な理知と相容れない。判断を狂わされると困るから、僕は一生結婚はしないよ」(『四つの署名』)


そうだとすると、ジョンのベストマンとして披露宴のために奔走しているシャーロックより、「『巻き込まれない』ために」あえて家にいるマイクロフトのほうが原作のホームズに近い、と言えます。

現代版と原作。それぞれのシャーロック・ホームズは初めから同じ人物ではない、と言ってしまえば、そうなのかもしれません。
しかし、第3シリーズの(現代版)シャーロックは、(原作の)ホームズから、今までにない程大きく逸脱しようとしています。
もっと言ってしまうと、物語自体が原作からの脱皮を図ろうとしているようにも見えます。ジョンが父親になるのも、原作にはない(少なくとも描写されていない)ことでしたし、遠回しなネタバレになってしまいますが、第3シリーズ3話にはもっと大胆な展開が待っています。
シャーロックもジョンも、ここから原作を飛び立って行くのか、揺り戻されるのか、とても興味深いです。

ところで、マイクロフトがジョンの結婚式の日取りを忘れていたのって絶対嘘ですよね。
デートの日時と場所まで知ってた(ジョンの居場所をマイクロフトが常に把握していることは、シャーロックも指摘してます)のに、結婚式を忘れるのはありえない。
電話を切った後、マイクロフトはほんの少し暗い表情を見せます。
シャーロックは、披露宴をそっと抜け出すまで寂しい顔は見せませんでした。マイクロフトがメアリを知っていたかどうかはわかりませんが、ジョンとメアリの結婚によってシャーロックとジョンの関係が変わっていくのが不安なのは、案外マイクロフトも同じなのかもしれません。
兄として弟を(あるいは『影の英国政府』として『英国の名探偵』を)心配する気持ちももちろんあるでしょうが、私としては、マイクロフトがジョンの結婚式に出ないのも、暗い顔を見せるのも、「彼もまたシャーロック・ホームズであるから」ではないかと思います。

「レストレードの抱擁」のコメント欄で神崎真さんが「グレッグとアンダーソンの二人を合せて原作のレストレードになる」とおっしゃっていましたが、「原作のシャーロック・ホームズ」の性格も、ホームズ兄弟それぞれに振り分けられているのではないでしょうか。
マイクロフトがジョンの結婚に何らかの感情を抱いているとしたら、それはシャーロックが脱ぎ捨てていった、「原作のホームズ」の抱いた感情ではないでしょうか。

「私がうろうろしないほうが新郎新婦も喜ぶ」と言うマイクロフトにシャーロックが"There should always be
a spectre at the feast."(宴会には亡霊がつきもの)
"と言い返すのは「マクベス」から。国王の座についたマクベスは、友人バンクォーを暗殺させますが、宴会の席でバンクォーの亡霊を見ます。
「誰かが楽しい時間を過ごしている時、罪悪感や嫌な思い出を胸によみがえらせて台無しにすること」を意味するイディオムになっているようです。(参照:wiktionary "ghost at the feast")

思えば第2シリーズでは、マイクロフトとジョンはシャーロックに隠れて連絡を取り合っては、彼の世話を焼いていました(ドラマで見る限り、シャーロックにはバレバレだったと思うんですが)。
このお話のラストシーンで、シャーロックはメアリとジョンが自分の親代わりのような言い方をしますが("Well, you're hardly going to need me around now that you've got a real baby on the way."――もう僕がそばにいる必要はないな、君たちには本物の赤ん坊ができたんだからね)、メアリが現れる前は、マイクロフトとジョンがシャーロックの保護者だったと私には思えます(シャーロックは認めたがらないでしょうが)。
もしそうなら、ジョンがマイクロフトに対して抱くべき(だと、無意識にシャーロックが考えている)罪悪感とは、「シャーロックの保護者を卒業すること」に関するものなのかもしれません。
後年、原作のホームズはこう振り返ります。

当時ワトスンは私を置き去りに結婚していたが、知りあってから後にも先にも、これがただ一度の自分本位な行動であった。私は一人ぼっちだったのである。(『白面の兵士』)



シャーロックが原作のホームズを「逸脱」して、ジョンの結婚を祝福して見せた今、これはむしろ「置き去りにされた」もう一人の「ホームズ」であるマイクロフトが抱いている感慨なのではないか、と思います。

(原作からの引用はすべて延原謙訳)
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この記事へのコメント

読みが深いです - 神崎真 - 2014年06月02日 00:02:09

なるほどー。
私は今回のお話を、シャーロック一生懸命で可愛いvv と喜んでいたのですが、原作ファンからすると、あまりにもホームズらしくないあたりが賛否両論っぽい意見も見かけました。
言われてみれば確かに原作ホームズの素っ気なさ、恋愛という絆を排除し、一人であろうとし続ける姿は、現代版マイクロフトに近いように思えますね。
時に子供じみた部分を強調される(今シーズンでは特に)シャーロックとは異なり、大人であり理性的であり続けるマイクロフトは、幼い頃に憧れて読んだ完璧ヒーローなホームズ像に重なります。
そしてシャーロックの方はむしろ、大人になってから読み返して改めて気がついた、けっこうお茶目さんな一面(海軍条約文書で皿に書類を隠したり、瀕死の探偵でワトソンさんすら騙したりとか)を象徴しているのかも。

個人的には、お遊びはこの「三の兆候」ぐらいまでがちょうどいいと思うので、私としてはこの先は飛び立っていくのではなく、原作寄りに揺り戻されて欲しいところです。
ホームズさんはねえ、やっぱり努力すれば女性を口説いてジゴロだってできるけれど、根本的な所は偏屈な変人のままであってほしいんですよね(笑)

深いというよりも - ナツミ - 2014年06月02日 21:46:36

神崎 真さま

兄ファンなので、無理やり彼の話を引っ張りたいだけかもしれません……

私は原作ファンですが、SHERLOCKに関しては必ずしも原作に忠実であって欲しいとは思ってなくて、グラナダ版みたいに結婚しないコースもアリと思ってたくらいなので、キャラクターの性格やお話が変わることには抵抗ないんです。
でも原作ファンなので、いつまでも原作と比較してああだこうだ言い続けると思います。(←大ざっぱなのかねちっこいのか)

> 言われてみれば確かに原作ホームズの素っ気なさ、恋愛という絆を排除し、一人であろうとし続ける姿は、現代版マイクロフトに近いように思えますね。
> 時に子供じみた部分を強調される(今シーズンでは特に)シャーロックとは異なり、大人であり理性的であり続けるマイクロフトは、幼い頃に憧れて読んだ完璧ヒーローなホームズ像に重なります。

神崎さんが幼いころに憧れた、ということは、「完璧ヒーロー、理性的、偏屈」なホームズのほうがより一般的なホームズ像なのかもしれないですね。で、読むと見えてくる「子供じみてる、退廃的な、 甘えん坊の」ホームズにシャーロックは近い、と。
……良くも悪くも、本当に「シャーロッキアンが書いた物語」なんだなあ。原作を読み込んでるゆえに、ちょっとバランスを欠いちゃってるんですね。「玄人の見たホームズ像」を盛り込み過ぎて、「一般的なホームズ像」の要素を入れる前に、キャラクターが出来上がっちゃったのかもしれません。それはそれで魅力的なので結果オーライなんですが、はみ出たところをマイクロフトに負わせた、と。マイクロフトこそ、原作とだいぶ違いますものね。

と言っても、原作の解釈も色々なので、たとえば上の記事で私は「ホームズはワトスンの結婚式に出席しなかった」と半ば決めつけてますが、ひょっとしたらスタグナイトから和民での二次会までバリバリ仕切ってたかもしれないわけです。マイクロフトだって、肥満はワトスンの脚色で、実はマークさん並みのスタイルだった可能性もゼロではありません。

だから、やっぱりいろんな解釈があって、いろんな展開があっていいのかも。
もちろん観る側の私たちにも、ああして欲しいこうして欲しいと希望する権利はあるはずで。

そんなこんなで結局

> ホームズさんはねえ、やっぱり努力すれば女性を口説いてジゴロだってできるけれど、根本的な所は偏屈な変人のままであってほしいんですよね(笑)

このご意見に大賛成です!

クラクラ - RM - 2014年06月02日 21:50:17

うわあ、「ジョンがマイクロフトに対して抱くべき(だと、無意識にシャーロックが考えている)罪悪感」!

脳の血流が一瞬不足して、くらっとしました。こういう気持ちのよいめまい感覚、ワトスンもしょっちゅう感じてたかも。

神崎真さま、

>ホームズさんはねえ、やっぱり努力すれば女性を口説いてジゴロだってできるけれど、根本的な所は偏屈な変人のままであってほしいんですよね(笑)

第三シーズンみていない私も、同感です。変人に一票!

要するに「変人」!? - ナツミ - 2014年06月02日 22:08:30

RM様

> 脳の血流が一瞬不足して、くらっとしました。こういう気持ちのよいめまい感覚、ワトスンもしょっちゅう感じてたかも。

ホームズなら、もっとすっきりした言葉で言ってくれたと思うのですが……
こういう語り系の記事になると、いつもに増して文章の拙さが露呈してしまい、お恥ずかしいです!

> 神崎真さま、
>
> >ホームズさんはねえ、やっぱり努力すれば女性を口説いてジゴロだってできるけれど、根本的な所は偏屈な変人のままであってほしいんですよね(笑)
>
> 第三シーズンみていない私も、同感です。変人に一票!

RMさんがコメントをくださったのと、私が上のコメントを投稿したのってほぼ同時刻ですね!
あっという間に変人に三票!
ホームズの魅力って、突き詰めると「変人」なんでしょうか……

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Author:ナツミ
シャーロック・ホームズが好きです。どちらかというとワトスンがより好きです。

2017年エイプリル・フールお片付けしました。お付き合いありがとうございました!片付けきれてないところがあったらお知らせいただければありがたいです。

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