最初の挨拶
パンダとジョン

BBC制作、現代版シャーロック・ホームズのドラマ「SHERLOCK」ファンのブログです。
①正典/聖典(原作)と比較しながらドラマを観て、元ネタ探し
②ドラマでまだ出てこない原作の事件は、SHERLOCKだとどんな話になるのかな?と妄想する

…を一人で(主にトイレとかお風呂で)楽しんでいたのですが、
さまざまな方にご意見をいただけたら楽しいだろうなあ、と思って始めました。
ネタバレ満載ですのでお気をつけください!
★原作の文章を引用する際、主に新潮文庫版(延原謙・訳)を参考にさせていただいております。
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【事件の重要なネタバレ】最後の嘘

シャーロックからジョンへ、そしてホームズからワトスンへ宛てられた「最後の言葉」。
手段としては、シャーロックは電話。ホームズは、手帳を三枚ちぎった手紙。

思えば、シャーロックからジョンへの連絡手段は、いつも携帯メール(ショート・メッセージ)でしたよね。
ホームズは、「電報の届く場所なら、決して手紙なんかよこしたことのない男(『悪魔の足』・延原謙訳)」。
その二人が「最後」だけ、いつもと違う媒体を使ったということが、なぜか胸に響きます。
「電報が使えない状況だったから」「メールを読ませる時間の余裕がなかったから」と言ってしまえばそれまでなのですが、自分に降りかかった重大な出来事を振り返る時、人は細かなことまで「そういえば、いつもと違った」と特別視してしまいがちです。「ずっと晴れだったのにその時だけ雨が降った」とか、「いつもならまっすぐ行くのに、たまたま違う道を通った」とか。シャーロックやホームズが手紙や電話を使ったことは、ジョンやワトスン、ひいては視聴者や読者の心に強く残ったのではないかと思います。

さて、シャーロックの電話はおおむね次のような内容。

1、ジム・モリアーティの存在は、自分による捏造だったという告白
2、探偵としての能力も偽物だった。ジョンに自分の実力を印象づけるため、ジョンの姉のことなど、ジョンの身辺を事前に調査していたということ
3、以上の「事実」を皆に伝えて欲しいということ
4、別れの言葉


ホームズの手紙は

1、これからモリアティとの対決を行うということ
2、ワトスンへの呼び出しは偽のものだとわかっていて、あえて帰したこと
3、今後の裁判の資料の場所や遺産の管理など、事後処理について
4、別れの言葉


こうして見ると、シャーロックの電話は「シャーロックらしくない」反面、ホームズの手紙は実に「ホームズらしい」です。てきぱきと必要事項だけ伝えるところもですが、病気の英国婦人の懇望に応じてワトスンが宿に戻るのを止めなかったのは「あとでこうしたことの起こるのを予期したからこそ」だと言うのがいかにもホームズっぽい。こんな状況でも、自分の推理が正しかったことをワトスン君に知らせずにはいられないんだね、ホームズ……(『水道みたいに出したり止めたりできるものじゃない』って言ってたのはシャーロックでしたっけ)。

ホームズの手紙は、帰ってきたホームズの言を信じるなら「書いた気持ちに嘘いつわりはない(空家の冒険)」。
この手紙は対決前に、モリアティの好意で時間をもらって書かれたもので、ホームズとしては本当に死ぬつもりで書いたものだから、ホームズらしいものになっているのでしょう。
一方、シャーロックの電話がいやに神妙で「シャーロックらしくない」のは、全体として「嘘」を言っているから。この電話自体が、ジョンやレストレード、ハドスンさんなど、友人たちを守るためのシャーロックの作戦の一部だからです。
ただ、実は死ぬつもりのないシャーロックにも、この先無事に戻ってきてまたジョンに会えるかどうかは、確信がなかったのかもしれません。最後の最後に告げた「別れの言葉」には、かすかにシャーロックらしさが表れています。

「頼む。ぼくのために、やってくれるか?この電話は…これは、遺書だ。皆がやることなんだろ?
書き置きをのこすのは。 ……さよなら、ジョン」(拙訳)



ジョンとの会話を見ていると、シーズン2のシャーロックは、「世間一般の人はどうするか、どう考えるか」ということを気にかけるようになっていたように思います。いや、そのもっと前から、マイクロフトも、ジムも、ずっと"people"と自分の間の齟齬を思っていたのかもしれません。「皆がやること(That's what people do)」というのはもともとジムの台詞だったし(1期3話)、2期1話、クリスマスのホームズ兄弟の会話は、感傷を抱える人々と自分たちの距離をしみじみと噛み締めているように思えます。

ところで、ラストシーンでジョンも口にする「ぼくのために(○○をして欲しい)」という言葉は元ネタがありますね。

「それ、馬車の音が聞こえてきた!早く!僕を思ってくれるならさ!(後略・『瀕死の探偵』)」


この「僕を思ってくれるなら」は原文では"If you love me"ですから、厳密に言うと違いますね。「僕のために」(for me)は他にもありそうですが、ホームズが死にかけている(ふりをしてる)こともあり、やはりこのくだりが思い出されます。

ホームズの「別れの言葉」はとことんシンプル、そして儀礼的。

Pray give my greetings to Mrs. Watson, and believe me to be, my dear fellow,
Very sincerely yours,
SHERLOCK HOLMES.
奥さまにどうぞよろしく。ではこれで。  君の忠実なる友 シャーロック・ホームズ



むしろグッとくる私のような変態はほっておくとして、紳士的な礼儀を重んじる時代だったということを置いても、親友への最後の別れにしては「そっけない」と思われる方もいるかもしれません。
ワトスンによると、ホームズの手紙は「つくえの上で書いたのと変らぬくらい字体も文句もはっきりしていた」そうです。シャーロックの電話の内容が、あらかじめ用意されていたものであろうことを考えると、ホームズの手紙も、事前にある程度内容を考えてあったのかもしれません。

ホームズはライヘンバッハまでの道中、何度もワトスンに「もし社会がモリアティ教授の毒手から解放されさえするならば、自分はよろこんで一身をささげてもよい」のだと語っていたようです。そう語るホームズと、聞いているワトスンの心情を思うとたまらないものがありますが、シャーロック同様、「死んでみせること」までが彼の計画に入っていた可能性も否定できません。それが「死んだふり」だったか、「本当に死ぬこと」だったかはわかりませんし、どの時点でそうしようとしたのかもわかりませんが。

ハドスンさんが撃たれたと聞いたジョン(この部分の元ネタは、先述の英国婦人とワトスンのエピソードですね)が、動じないシャーロックに怒って"You…machine!"と言うところは、「四つの署名」でメアリの魅力に興味を示さなかったホームズにワトスンが叫ぶ言葉を思い出させますね。

“You really are an automaton – a calculating machine,” I cried. “There is something positively inhuman in you at times.”
「ほんとに君は自動人間―計算機だな。どうかすると君は、まるで人間ばなれのしたところがあるよ」



この言葉を、ジョンは後悔したんじゃないでしょうか。シャーロックの墓石に「君は人間だった」と語りかける場面に、それがあらわれています。


今回原作を読み返して気づいたのですが、ワトスンが滝に戻ってきて、ホームズとモリアティの痕跡を「ホームズ流をまねて」検証する場面は、「緋色の研究」でホームズがまず足跡を確かめるところ、現場に腹ばいになるところに呼応しているのですね。初めての事件でホームズから学んだ捜査の技術を、その本人の死で使うことになるとは、なんて悲しい場面なんだろう、とあらためて感じ入りました。

ジョンはシャーロックの死を信じ込まされているようですが、彼のブログを見る限り、シャーロックが偽ものだったという「嘘」は、本人が言ったにも関わらず信じていないようです。
ひょっとしたら、ジョンも「シャーロック流」をまねて、推理をめぐらせたのかもしれません。
というのも、「初めて会った時、君は僕の姉の事を全てわかったじゃないか」と聞くジョンに対してシャーロックが「君の事を調べたんだ」と言うのは、少し考えればすぐに分かる嘘ですよね。「姉のことを全てわかった」というのはジョンの言葉のあやで、シャーロックはハリーのことを男だと勘違いしていましたから。
もしまだ気づいていないにしても、遅かれ早かれジョンはこの「嘘」に気づくでしょう。ジョンの頭に浮かんだ「シャーロック流推理」が、彼を少しでも力づけてくれたら、と思います。

(原作の引用はすべて延原謙訳)
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この記事へのコメント

今になって! - だい - 2012年10月27日 11:17:44

>シャーロックはハリーのことを男だと勘違いしていましたから。

そうでしたね!!ナツミさん!ありがとう。いまさらながら(嘘だとは、気付いていたのに・・)、E3はジョンに感情移入してみていたんだと今気付きました(遅っ)。制作者側の意図にまんまと乗せられちゃいました。

あ〜、シャーロックとジョン(ハドソン夫人も)の再会がたのしみ〜どんな風になるんだろう??
ワトソンが記事を褒められたように、ジョンもブログ褒められるのかな?

私も楽しみです! - ナツミ - 2012年10月28日 06:59:44

> E3はジョンに感情移入してみていたんだと今気付きました(遅っ)。

ええっ、シャーロック派のだいさんが!!
そういう私も、ジョンがあまりにつらそうで、見終わった翌日もぼーっとしていましたが・・・


考えてみると、シャーロックが死ぬこともその後帰ってくることも、視聴者に「ばれて」いるのは製作側にとってやりにくくもあると思うのですが、それでもあれだけ感情移入させられるってすごいことですよね。
私は映画や俳優さんに詳しくありませんが、脚本や演出はもちろん、マーティン・フリーマンの演技もとてもよかったのだと思います。(もちろん、立ち去る側のカンバーバッチの演技も!)

> あ〜、シャーロックとジョン(ハドソン夫人も)の再会がたのしみ〜どんな風になるんだろう??
> ワトソンが記事を褒められたように、ジョンもブログ褒められるのかな?

楽しみですよね!
ホームズがワトスンの「最後の事件」を読んだように、シャーロックもきっとジョンの記事を読んでいますよね。
例によって年表ネタですみませんが、原作「最後の事件」の発表から、ホームズがロンドンに帰ってくるまでは4ヶ月くらい。
ジョンのブログはBBCでの放映に連動して更新されているので、放送のすこし前にジョンのブログがひっそり更新されていて、それを見たシャーロックが帰ってきたという設定になっていたりしたら嬉しいなあ!
ジョン、褒めてもらえますかねえ?

女心と秋の空? - だい - 2012年10月28日 17:47:52

そうなんです。シャーロック見ていられなくて現実逃避?に近いのかもしれません。
思わずジョンにすがってしまいました・・で、ジョンっていいかも?なんて移り気しそうな秋の今日この頃です。

>視聴者に「ばれて」いるのは製作側にとってやりにくくもあると思うのですが

そうですよね、なのにこんなに感情移入できるなんてほんと作ってくれた人に感謝です。

来年はジョンのブログこまめにチェックしないといけませんね。

Re: 女心と秋の空? - ナツミ - 2012年10月29日 07:43:35

確かにシャーロックを見ているのはつらいものがありましたね。
私はジョンを見ているのもつらいです。ジョンにとって、目の前で起こったシャーロックの死は「ほんとうのこと」なんですよね。それがどんなにつらいことか・・・
残された人たちが悲しんでいるのをわかっていて、本当のことを言えないシャーロックもつらいでしょうね。自分に近い時間の中で起こったことで、原作の二人の悲しみにもすこし近づけたような気がします。

それはそれとして、ジョン派がふえるのは大歓迎です!

君のためなら千回でも - R is for ROCKET - 2012年11月01日 17:15:19

「最後の事件」でのシャーロック・ホームズは、それこそ小学校の図書室で読んだときから、グラナダ版はもちろん、最近はロバート・ダウニーJr.主演の映画でも、何度も目の当たりにしているはずなのに、いつも心をゆさぶられます。
普遍的な何かが、この物語にはあるのでは、と思います。

もっともその分「空家の冒険」では、再会の喜びと、ちょっとした怒りを何度も感じてしまうのですけどね。

ワトスンとハッサン - ナツミ - 2012年11月02日 05:58:40

R is for Rocketさま

> 普遍的な何かが、この物語にはあるのでは、と思います。

モリアーティの登場とホームズの死のインパクトに隠されがちですが、ホームズとワトスンの関係に着目すると、「別れ」をとてもまっすぐに描いた作品と言えるかもしれませんね。

タイトルの「君のためなら千回でも」も、とても心に残る作品ですね。
私は映画で見ました。原作小説はまだなのですが、読んでみたいと思います。
国の事情などの背景は違っても、少年時代というものを持つすべての人にとって、普遍的な物語かもしれません。

> もっともその分「空家の冒険」では、再会の喜びと、ちょっとした怒りを何度も感じてしまうのですけどね。

やっぱり怒りますよね!私も、自分がワトスンだったらちょっと怒ると思いますし、ホームズに対してのそれまでの友情とそれ以降の友情は、すこし違ったものになってしまうんじゃないかとも思います。再会の喜びは大きくとも、自分にとっての3年間の後悔や悲しみは変わりませんものね。

「空家の冒険」で、また一緒に冒険してくれるか、とホームズに聞かれたワトスンが即座に”When you like and where you like"と答えるのは、ハッサンの「君のためなら千回でも!」という台詞に、ちょっと似ていませんか?きっとハッサンも、アミールと再会したら同じような態度をとったなあ、と思うと、なんだか尊敬を通り越して、聖人のエピソードを聞くような思いです…
同時に、これだけ純粋な信頼と献身を向けられたらどういう気持ちになるんだろう、と考えてしまいます。「去る側」の罪悪感も相当重いですよね。

シャーロックの罪悪感軽減のためにも、ジョンには一発殴るくらいしてほしい!頬骨狙っても許す!と聖人に程遠い私は思っちゃいますよ。

シャーロックとアミール - R is for ROCKET - 2012年11月02日 21:11:56

> 「去る側」の罪悪感も相当重いですよね。

本当にそうですよね
「SHERLOCK」では、陰でジョンを見守るシャーロックの表情がすべてを物語っているような気がします。

> 頬骨狙っても許す!

顔はやめてあげて〜!

顔はやめな、ボディにしな(by三原じゅん子) - ナツミ - 2012年11月04日 15:45:17

R is for Rocketさんの叫びで綺麗にオチた感のあるコメント欄に蛇足をすみません。

>陰でジョンを見守るシャーロックの表情がすべてを物語っているような気がします。

まさに!映像化された作品は、原作では文字から推し量るしかなかったものを形にして見せてくれますが、シャーロックの悲しみと決意があの表情に凝縮されていましたよね。俳優さんってすごいです。やっぱりジョン、顔はやめようね・・・・・・

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Author:ナツミ
シャーロック・ホームズが好きです。どちらかというとワトスンがより好きです。

2017年エイプリル・フールお片付けしました。お付き合いありがとうございました!片付けきれてないところがあったらお知らせいただければありがたいです。

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