最初の挨拶
パンダとジョン

BBC制作、現代版シャーロック・ホームズのドラマ「SHERLOCK」ファンのブログです。
①正典/聖典(原作)と比較しながらドラマを観て、元ネタ探し
②ドラマでまだ出てこない原作の事件は、SHERLOCKだとどんな話になるのかな?と妄想する

…を一人で(主にトイレとかお風呂で)楽しんでいたのですが、
さまざまな方にご意見をいただけたら楽しいだろうなあ、と思って始めました。
ネタバレ満載ですのでお気をつけください!
★原作の文章を引用する際、主に新潮文庫版(延原謙・訳)を参考にさせていただいております。
★全ての記事は、推測やこじつけを基にしており、たまに妄想も入っております。ご了承の上ご利用ください。
★このサイト及び記事へのリンクは、どうぞご自由になさってください。
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ベストマンと『白面の兵士』

先日Twitterでことりさんと『白面の兵士』についてお話していてふと思ったのですが、『白面の兵士』事件には、ワトスンを連想させるキーワードが含まれています。

・依頼人のドッドは帰還兵。ホームズは"From South Africa, sir, I perceive."(南アフリカからお出でになりましたね)と口火を切る
・ドッドは「最も親しい友人」ゴドフリー・エムズオースを救おうとする
・ホームズは、「友人で絶対に信頼できる医師」サー・ジェームズ・サンダーズを同行する

このお話には、二重の意味でワトスンが不在です。
まず、語り手がいつものワトスンではなく、ホームズ。
ワトスンの記録に「浅薄」「厳正なる事実の記録に止めないで、大衆の興味に阿るもの」と文句を言い続けてきたホームズは、「じゃ自分で書いてみたまえ、ホームズ君」と反撃されてしまい、ペンを執る羽目になります。
書きながらも「書くとなるとやはりできるだけ読者に興味を与えるようにしなきゃならないということに、いまさら気のついたことを告白せざるを得ない」とか「ワトスンがすでに言ったかもと思うが」とか「いや、自分で話すとなると、うっかり手のうちを見せてしまうところだった。ワトスンがいつもフィナーレの俗受けで成功するのは、鎖の中のこういう一環を伏せておくからなのだ」とかワトスンワトスンうるさいんですが、「ワトスンがホームズの話を書く」ように、ホームズの語るお話にもワトスンの影を強く感じるのは面白い。
ちなみに後年、引退後のホームズによって綴られる『ライオンのたてがみ』では、ワトスンの影はずっと薄いと思います。

『白面の兵士』では、作中にもワトスンは出てきません。その理由は、ホームズの手で

当時、ワトスンは私を置きざりに結婚していたが、知りあってから後にもさきにも、これがただ一度の自分本位な行動であった。私は一人ぼっちだったのである。

と書かれています。

ホームズが初めて自分の手で書いた「事件簿」は、ワトスンのいない、しかし、だからこそワトスンを強く感じられるもの。
この事件を通し、ホームズは述懐します。

こうなってくるとワトスンのいないのが悔まれる。彼がいてくれたら、急所の質問をしたり嘆声を発したりして、常識を組織化したにすぎない私の簡単な技巧を、一大不思議にまで高揚してくれるところだ。



普通に読めばすごい皮肉なんですが……裏を返せば、ホームズにとっては理論の証明に他ならない捜査でも、そこにワトスンがいるだけで、血湧き肉躍る冒険に昇華される、とも言えます。
それは、『緋色の研究』で描かれた、二人の最初の事件からずっと変わらないことです。
『白面の兵士』には、ホームズの「一人ぼっち」になったからこその気付きが記されているのだと思います。

ワトスンの話が出たから、この機会に述べておくが、私が今日まで多くのつまらない事件にこの古い友人であり伝記作者でもある男と行動をともにしてきたのは、感傷や気まぐれからではない。ワトスンにはワトスンなりに著しい美点があるからであって、彼は謙譲な性格から、私の実績を誇張して評価するのあまり、自分のことにはあまり思い至らないのである。
自分で結論を出したり、これからの行動を予見したりするような男と行動をともにするのは、つねに危険であるが、事件の展開するごとに眼をみはるような男、さきのことは何一つわからないような男こそは、じつに理想的な協力者というべきである。


冒頭のこの部分だけ読むと、ワトスンは苦笑してしまうかもしれない。でも、読み進めていくと、ホームズが依頼人や事件のそこかしこにワトスンの面影を見出しているように見えなくもない、と思います。
また、医師の協力者、退役軍人の友人や親子の描写は、「ワトスンがいなくても同じような人は山ほどいる。問題はないんだ」と見せつける一方で、「いてくれたら君に意見を聞けたのに」という思いが見え隠れするように思えてくるのは、私の考えすぎでしょうか。

ホームズは、書こうと思えば他の事件も書けたはずなんですよね。この頃だけでもアベイ学校事件(グレイミンスター公爵にふかい関係のある事件)やらトルコ皇帝から委託された事件やら、何だかすごそうな事件に関わってるし。まあこの二つは偉い人のプライバシーに関わるアレコレで難しいにしても、面白い事件が山とある中で、あえて『白面の兵士事件』を選んで筆にしたのには、理由があるはず。
そんなこんなで、『白面の兵士』という作品には、「君がいてくれたらいいのに」という、ホームズからワトスンへの不器用なメッセージが隠されている、という読み方もできるのではないでしょうか。

さて、シャーロックのスピーチですが、これもメアリと一緒になって221Bを離れたジョンに向けたもの。
このスピーチにも、『白面の兵士』からの引用があります。

過去記事『引き立て役の真実
救うということ
(事件の重要なネタバレ)殺人リハーサル

『SHERLOCK』の共同制作者の一人で脚本家でもあるスティーブン・モファット氏は、こちらのインタビューでこう語っています。

“I remember being a 12-year-old kid thinking, Oh, why didn’t we see Sherlock be the best man? Please, can we see that? That would be the best story in the whole world, and I don’t care if there’s a crime in it or not, because it must have been the best and worst speech of all time!” he says.

「12歳の頃思ったんだ。ああ、どうしてベストマン姿のシャーロックを書いてくれなかったんだろう?本当に観たかったよ。世界一いい話だったはずだよ。この際犯罪なんて起きなくても構わないさ。人類史上最高で最低のスピーチだったろうに!(拙訳)」


Vulture.com
Steven Moffat Explains the Origins of Sherlock’s Best-Man Speech By Denise Martin より

そして数十年後、彼はその夢を形にしたことになります。

"John, I am a ridiculous man. Redeemed only by the warmth and constancy of your friendship.
.But, as I am apparently your best friend, I cannot congratulate you on your choice of companion.
Actually, now I can."
"Mary, when I say you deserve this man, it is the highest compliment of which I am capable.
John, you have endured war, and injury, and tragic loss — so sorry again about that last one. So know this, Today, you sit between the woman you have made your wife and the man you have saved.
In short, the two people who love you most in all this world. And I know I speak for Mary as well when I say we will never let you down, and we have a lifetime ahead to prove that."

「ジョン、僕はちっぽけな男だ。君の優しさや友情のおかげで、やっていけてるようなものだ。
君は僕を親友と思ってくれているようだが、だとしたら僕は、君の相棒を選ぶ眼は祝福できない。
でも、相手が彼女ならできる。」
「メアリ、君はこの男に相応しいひとだ。これは、僕としては最高の賛辞だよ。
ジョン、君は戦争や怪我や別れに苦しんできた……最後のヤツについては、本当にすまなかったと思ってる。
だから、わかってほしい。君の隣に座っているのは、君の生涯の伴侶。反対側にいるのは、君に人生をもらった男。
つまり君は今、世界で一番君を愛している二人に挟まれているんだ。
だから僕は……僕たちは、絶対に君を失望させたりしない。一生かけて、それを証明するよ。(拙訳)」



モファットさん、このスピーチを書きながらボロボロ泣いちゃったそうです。私も訳しながら泣きそうなんですけど、原作のホームズはこんなにストレートな言葉を使わなかったんじゃないかしら、と考えてしまうのは、私が「秘すれば花」の文化を持つ国の人だからなのか、モファットさんが挙式経験2回あるのに対し、私はゼロ回だからなのか……(ひ、ひがんでなんかいませんよ!?)

ワトスンとメアリの結婚式にホームズが出席して、シャーロックがジョンに贈ったような、温かな言葉をかけたと想像するのも楽しいのですが、ホームズの友を慕う気持ちが、誰にもわからない暗号のようにひっそり残っている、と妄想するのも、また楽しいのです。

蛇足ですが、シャーロックがジョンに「君を絶対に失望させない」と誓うのは、『瀕死の探偵』や『マザリンの宝石』でホームズがワトスンを評して「君が僕を失望させたことは一度もなかった(You never did fail me/you have never failed to play the game)と言っていることの、ちょうど裏返しですね。ジューン・トムスンによれば、これは当時のイギリスにおける最高の賛辞だそうです。(『ホームズとワトスン~友情の研究』ジューン・トムスン 押田由起訳)

(原作からの引用はすべて延原謙訳)
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プロフィール

Author:ナツミ
シャーロック・ホームズが好きです。どちらかというとワトスン君がより好きです。

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