最初の挨拶
パンダとジョン

BBC制作、現代版シャーロック・ホームズのドラマ「SHERLOCK」ファンのブログです。
①正典/聖典(原作)と比較しながらドラマを観て、元ネタ探し
②ドラマでまだ出てこない原作の事件は、SHERLOCKだとどんな話になるのかな?と妄想する

…を一人で(主にトイレとかお風呂で)楽しんでいたのですが、
さまざまな方にご意見をいただけたら楽しいだろうなあ、と思って始めました。
ネタバレ満載ですのでお気をつけください!
★原作の文章を引用する際、主に新潮文庫版(延原謙・訳)を参考にさせていただいております。
★全ての記事は、推測やこじつけを基にしており、たまに妄想も入っております。ご了承の上ご利用ください。
★このサイト及び記事へのリンクは、どうぞご自由になさってください。
【お願い】 ★記事における間違いは、できる限り修正したいと考えております。お気づきの点がありましたら、ご教示いただけるとありがたいです。
★コメントを歓迎しております。初めてコメントくださる方は、こちらの記事をご一読いただければ幸いです。
→「コメントをくださる方へ
「あの場面の元ネタは?」という時はこちらへ
記事索引「ブリキの文書箱

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「誰がカインを殺したか」

コメント欄でさまざまな御教示をくださっている、小説家の篠田真由美さんの新刊をご紹介したく思います。
小学校以来一度たりとも読書感想文をほめられたことがない私が、作者さんの目に触れることを前提に感想を書いてしまうなんて無謀以外の何ものでもなく、ちょっと胃がキリキリしていますが……

(後述しますが、私はトリックや謎解きの良し悪しを語れるほどミステリというものをよくわかっていません。この記事は「ミステリ評」では決してなく、作品の中で昔の京介や蒼に会ったことがある、というだけの一読者による、たいへん個人的な感想文です。ミステリ評を探しておられる方が時間を無駄にされることのないよう、先に申し上げておきます!)




" And domestic bliss must suit you, Molly. You’ve put on three pounds since I last saw you."
"Two and a half."
" Nuh, three."
「そして恋愛は君に合ってるようだね、モリー。前に会った時から3ポンドは太ったようだ」
「2.5よ」
「いや、3だ」(『SHERLOCK』第一シーズン二話より拙訳)



domestic bliss とは、愛する人々との交流がもたらす幸福、と私は解釈しています。
この短編集では、悲劇の裏側でずっとdomestic blissが感じられる、と私は思いました。
自分の手も見えないような暗闇の中で、どこかで小川の流れる音と気配を感じる、みたいに。

私が子どもだった頃は、いわゆる「新本格ミステリ」が花盛りで、様々な探偵(と、その助手)たちに出会うことができました。人生で一番本を読める時期がその時代に巡り合わせのは、つくづく幸運だったと思います。友人たちと寄り集まっては、どれが面白かっただの、誰が好きだの、読みたい放題言いたい放題の幸せな学生時代でした。

『SHERLOCK』について、「シャーロックとジョンの関係をメインに描いた」と製作者が公言していますが、探偵小説を読むにあたって「探偵と周囲の人々の人間関係」を重要視する読者は、当時も(少なくとも私の周りには)多かったと思います。
「新本格」というジャンルは大胆なトリックやさまざまな謎解き、個性的な名探偵像を主眼に置いたものでしたから、それを大きな声で言うのは憚られました。でも、「ミステリ読み」ではないタイプの女の子たちが放課後の教室や部室に寄り集まってすることといえば、作品の愛を熱く語ることだったり、本編では軽く触れられている程度の日常のエピソードや、ちょっとした会話、登場人物の人となりや関係性を深読みしては憧れることでした。

そう、「事件を共に解決する仲間」というのは、憧れの対象だったんです。
会社の同僚とも、学校の友人とも、恋人や夫婦ともちょっと違う。お互いを友人とすら思っていないこともままある。でも、共に命がけの冒険をし、生と死のドラマに向かい合う、かけがえのない仲間。
そういう人間関係に憧れたのは、現実逃避と言われればそうだったのかもしれません。いくらか歳月を経た今では、殺人事件が起こらなくたって人生は十分に冒険だと知っている。平凡に見える関係も、それぞれに特別なものだとわかっている。
でも、憧れる気持ちは忘れません。このブログも、その延長線上にあるのだと思います。

そういう時期に篠田先生の「建築探偵シリーズ」に出会った我々に、衝撃が走ったことを覚えています。
「私たちが読みたかったことが、真正面から描かれているぞ」、と。
過去記事で御手洗潔を「現代版ホームズ」と書いたことがありましたが、そういう意味では桜井京介シリーズが『SHERLOCK』の先駆者だったのかもなあ、と、ぼんやりと思っていました。(まさか篠田先生ご本人とお話する機会を持てるとは、夢にも思ってなかったですが……)

『桜井京介シリーズ』は、京介自身の謎を明かす形で一旦完結しています。
本作は『桜井京介returns』シリーズの最新作にあたります。社会人になった蒼や『さくらゆき』から登場した庄司ゆきを中心とした、ミステリとしては独立した短編集ですが、『京介シリーズ』からの読者は「その後の彼ら」の生活を垣間見ることができます。

タイトルから連想されるように、それぞれのお話は人の業の深さ、人間関係の息苦しさが鮮やかに描かれた、篠田ミステリらしい作品です。そして、どれも「家族の」、または「家族同然に近しい人々の」物語だ、と思います。

並行して「その後の彼ら」が描かれますが、(ゆきも含めて)「その後の彼ら」は血を分けた家族ではありません。
でも、彼らこそがdomestic blissに満ちた関係を持っているのです。

篠田先生は「全然違うんだけどな」とため息をつかれるかもしれませんが、私は「深読み」してしまいます。このお話もまた『SHERLOCK』にとっての予言小説であるかもしれない、と。
ホームズシリーズは、domestic blissとはおよそ縁のない作品です。ワトスンは家庭を持ち、221Bと家庭を行き来する
時期もありますが、基本的にはホームズ、ワトスン、ハドスン夫人という血のつながりのない3人が暮らす部屋を中心とした物語が描かれます。
しかし、およそ家庭の匂いがしないはずの221Bに、私たち読者は何とも言えない郷愁を感じます。きっと、実際の家主であるハドスンさんだけでなく、ホームズとワトスンにとってもそうであったに違いありません。

「(前略)ロンドンへ着くと、まずベーカー街の旧居へ自身乗り込んで、おかみさんのハドスン夫人を気絶せんばかりに驚かしてしまった。旧居は兄のマイクロフトの骨折りで、書類などもそっくりそのまま、以前の通りに保存されていた。というわけで、きょうの午後二時には、昔なつかしいあの部屋の坐りなれた肘掛いすに僕は納まったわけだが、親友ワトスン君が昔どおり、おなじみのいすに掛けていないのだけが物足りなかった」(『空家の冒険』 延原謙訳)



ワトスン博士にとっては、かくも多くの目ざましい冒険の出発点となったベーカー街の家の二階の乱雑な部屋を、久しぶりに訪れるのは心うれしいことだった。壁にかかげた科学図表や酸で焦げている薬品棚、すみにもたせかけてあるヴァイオリン・ケースや、以前はパイプやタバコ入れをよく入れてあった石炭入れなどを彼は見まわした。(『マザリンの宝石』 延原謙訳)



原作の「ホームズシリーズ」はまさに「事件を描いた作品」であって、ホームズとワトスン、ハドスン夫人の関係そのものが話の中心になることはありません。作品の順序もはっきりせず、「その後の彼ら」についても想像するしかありません。
『SHERLOCK』が彼らの関係に着目し、「その後の彼ら」まで描こうとするなら、どうしても、原作が描かなかったことに挑んでいかなくてはならない。その答えの一つが、『桜井京介returns』にあるような気がします。

京介と蒼、神代先生が暮らし、深春や庄司ゆきが出入りする家は、私が憧れた「特別な関係」を結晶したような場所です。
夫婦でもない、恋人でもない、親子でもない。皆が、欠落と悲しみを抱えている。でも、お互いがお互いを慈しみ、自分ができることをしてあげる(京介の言葉を借りれば、『させてもらう』)ことで、共同体の一員としての責任を果たしている。果たすことで、生きていく理由をも得ている。
オールドファンとしては、ニューカマーであるゆきちゃんの存在こそが鍵だ、と思います。血はつながっていなくても、彼らは家族だから。そして、家族とは、次の世代に受け継がれていくものだから。

かつて「特別な関係」に憧れた少女であった私たちは、埋められない欠落も、癒えない痛みも、それぞれが自分にしかわからないかたちで得てきたと思います。
その中には結婚して子供を産んだ人もいれば、そうでない人もいます。
かたちはどうであれ、私たちは、私たちなりのdomestic blissを掴むことができる。
痛みを知っているからこそ、共に生きている人に、次の世代を生きてゆく人に、何かをさせてもらうことができる。それが実の親であってもなくても、結婚した相手であってもなくても、お腹を痛めて産んだ子どもであってもなくても。
その希望は、欠落や痛みを抱えた私たちにとってのかすかな光です。忘れてしまいそうになったら、(『香澄先生』のカウンセリングを受けることはできなくても)この本を開けばいい。いつでも、京介や蒼の言葉に触れることができます。

それから……嬉しいことに、京介や蒼も『SHERLOCK』を観ているようです!
登場人物からの、ドラマそのものへの言及もありますが、その他にもイースターエッグのように『SHERLOCK』に由来する表現が隠されています。
極めつけは、最終話にして書きおろしの『コックリさんと喫煙と十四歳の研究』
京介が、『SHERLOCK』第一作"A Study in Pink"に「語られざるトリック」があったという可能性を示唆します。そのトリックと『SHERLOCK』ファンの少女が起こした事件が絡まりあっていくという、「もうひとつの『ピンク色の研究』」とも呼ぶべき作品です。『SHERLOCK』ファンの方にはぜひ読んでいただきたいです。

このブログ、というより「このブログと、コメント欄でお話してくださる皆さん」のことにも巻末で触れてくださっています。
私自身、このブログを立ちあげて一番良かったのは、コメント欄の内容が充実したことだと思っています。原作とドラマ、双方の『ホームズ』への愛のこもったご感想と、深いご教示に恵まれました。
管理人がヘタレなのでこれから先どうなるかはわかりませんが、訪れてくださった方々の間に温かい絆が生まれた瞬間が、確かにあったと思います。そこに着目してくださった、ということがとても嬉しく、やっぱり篠田先生だなあ、と思うのです。

篠田先生が当ブログのURLを載せて下さったので、それをごらんになった上で、この記事を読んでくださっている方もいらっしゃると思います。そんな方に向けて、私からもイースターエッグを!(隠れてませんけど……)
「コックリさんと~」に関する篠田先生のコメントがある記事は、こちらです。

過去記事「二つの薬

スポンサーサイト
プロフィール

Author:ナツミ
シャーロック・ホームズが好きです。どちらかというとワトスン君がより好きです。

メールはこちらへ

Twitter
最新記事
最新コメント
カテゴリ
月別アーカイブ
索引
このブログで考察した「元ネタ」を、ドラマの時系列に沿って探すための索引サイトです。 順次更新致します。 「21世紀探偵・ブリキの文書箱」
最新トラックバック
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム
QRコード
QR
blog mura
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。