最初の挨拶
パンダとジョン

BBC制作、現代版シャーロック・ホームズのドラマ「SHERLOCK」ファンのブログです。
①正典/聖典(原作)と比較しながらドラマを観て、元ネタ探し
②ドラマでまだ出てこない原作の事件は、SHERLOCKだとどんな話になるのかな?と妄想する

…を一人で(主にトイレとかお風呂で)楽しんでいたのですが、
さまざまな方にご意見をいただけたら楽しいだろうなあ、と思って始めました。
ネタバレ満載ですのでお気をつけください!
★原作の文章を引用する際、主に新潮文庫版(延原謙・訳)を参考にさせていただいております。
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アイリーン・アドラー

アイリーン・アドラーについて、私にはずっと「言いたいこと」がありました。
『SHERLOCK』のアイリーンに限った話ではありません。パスティーシュに描かれた彼女に出会うたびにもやもやと燻っていて、でも言葉にした途端に「いや、そういうことじゃないかも」と自分で否定してしまうような、まとまらない思い。
以前にもコメント欄でYOKOさんや神崎真さんとお話したことがありますが、その時の自分の発言を見ても、整理できていないなあ、と思います。

ひとつだけはっきりさせておきたいのは、原作でのアイリーン・アドラーを私はとても好きだし、『SHERLOCK』にしても他の映像化作品にしても、一人のキャラクターとしてはそれぞれに魅力を感じているということです。
「もやっ」の原因は、おそらくアイリーン・アドラーという人の「捉えられ方」と、彼女とホームズの関係性にあります。

アイリーンは悪女というか、ファム・ファタールというか、性的な魅力を武器に、狡猾に立ち回る女性と思われていることが多いと思います。
原作でもホームズをして「男子が生命を投げだしかねない美しさ」 と言わせるほどの美女として描かれています。

原作でのアイリーン・アドラーは、オペラ歌手。ホームズの索引によれば、「一八五八年米国ニュージャージーの生れ、最低女声音(コントラルト)歌手、スカラ座出演、ワルシャワ帝室オペラのプリマドンナを経て歌劇壇引退」。
現代版のアイリーンはベルグレイヴィアの素敵な家に住んでいましたが、原作では「セント・ジョーンズウッド区サーペンタイン広小路のブライオニー荘」という瀟洒な住宅に住んでいま した。セント・ジョーンズ・ウッドはビートルズのアビーロードがある地域ですね。検索したらどちらも高級住宅街だということはわかったのですが、どうして変更されたのか、違いが感覚的につかめないのが悔しい……単に「ボヘミア」と「ベルグレイヴィア」の語呂合わせなのかな?
ヴィクトリア朝において、芸能人であり、婚外の男女関係を結んでいて、男装して散歩するなど心のままに行動してしまうような彼女は、「ふしだら」で「まともではない」存在だったのでしょう。ただ、現代の意味において(『悪女』ではあっても)「悪人」であったかどうかは、原作からは読み取れません。アイリーンはホームズを「出し抜いて」はいるけれど、特に悪いことはしていない。ボヘミア王への「脅迫」はホームズ側からみれば悪事かもしれないけれど、はじめに裏切ったのは王の方だし、公平に見て犯罪というよりは恋愛関係の拗れなんですよね。
『SHERLOCK』でのアイリーン・アドラーは、いわゆるSMの女王様。原作以上にはっきりと「セックスワーカー」です。その職業が道義的に正しいものかどうかは、私には今ここでは断言できませんが、人に迷惑をかけずに誰かの需要を満たしているなら、悪いこととは言い切れないと思います。
原作でアイリーンがしていた「脅迫」は、愛する人と再出発するためのただ一度の「自衛」だったかもしれないのに対して、現代版ではさまざまな相手から脅迫の材料を集めていたようです。そもそもどうしてクライアントから情報を収集するようになったのか、理由がはっきり描かれていないので(本人は「自衛」と言っていますし、確かに危ない橋を渡る職業なんでしょうが、人を脅迫してまで……?って思ってしまうのは私の頭が固いのかな)、視聴者から見たらやはり「悪人」ということになるのではないでしょうか。
ホームズの「紳士にあるまじき」変人ぶりと、アイリーンの「淑女にあるまじき」行動力は、少なくとも原作では公平に描かれているのに、二次創作になると、アイリーンだけ「悪さ」を強調されてしまう。

もっとも、ホームズだって誇張されたり誤解されたりしている部分があるのですから、「アイリーンだけ」という言い方はそれこそ公平ではないですね。
『SHERLOCK』という作品は、ホームズを21世紀の若者として再創造する、という大胆なアレンジを施しながらも、その「変換」が原作への深い理解と緻密な分析を基にしている、という点が素晴らしいのですが、私には「アイリーンだけステレオタイプの悪女に見える」という不満があり、それを「あー、所詮男性目線で作られた作品なんですよねハイハイ」と短絡的に「一個人としての社会への不満」に結び付けてしまった。それが「もやっ」の一因ではないか、と思います。

しかし私は、『SHERLOCK』の製作者が言いたかったことを理解しきれていなかったのかもしれません。
そう思ったきっかけは、NHKの人形劇『シャーロックホームズ』です。

『シャーロックホームズ』ではホームズを15歳の少年に、物語の舞台を寄宿学校に置き換えています。
この作品にも、原作へのこだわりが詰まっていますよね。『SHERLOCK』と同じように、原作を読み解き、その世界を大胆に再構成しています。
オペラ歌手のアイリーンの役割を学園内に設定するとしたら「音楽の先生」か「歌のうまい少女」ではないかな、と思いきや、「保健室の先生」なんですよね。しかし彼女のナースとしての有能さは描かれない。「保健室に来る生徒のほとんどは仮病」というような台詞もありました。まあ、そういう子との関わりも養護教諭の大事な仕事ではあるのですが、この作品に関して言えば、「保健室の先生」という設定にはフェティシズムの匂いを感じます。
原作のホームズや、『SHERLOCK』のシャーロックが決してアイリーンに感じていなかったであろう、「年上の女性・白衣の天使への憧憬」を伴った描写に、製作者の目くばせが見えてしまうんです。「保健室の先生!イイでしょ?この設定ならホームズも恋しちゃうでしょ?」みたいな……シチュエーションに助けられて、年長の美女に優しく(あるいは厳しく)してもらえるという、風俗サービスに向けるような欲望を感じる(私もジュード・ロウのワトスンの軍服姿にときめいてしまうクチなので、決してそういう男性を責めているわけではないのですが)。
15歳のホームズも、彼女の美貌や属性ではなく頭の良さに惹かれたのかもしれない。でも、少なくともこの設定自体には、原作やアイリーンというキャラクターの「中身」へのこだわりはあまり感じられません。
思えば現代版のメアリもナースでしたが、そちらは「有能さ」をメインに描かれ、いわゆる「ナース萌え」は見当たりませんでした。もちろん海外にも「ナース萌え」も「年上の女性萌え」もあるでしょうが、保健室の先生がマドンナ的存在である、というのは日本の「学園もの」におけるある種の「お約束」なのだと思います。
アイリーンはその時代、その文化のフェティシズムを背負わされるキャラクターなのかも。性的倒錯の象徴的存在である「SMの女王様」という設定は、そういう観察を突き詰めた末の結論だったのかもしれませんね。

もうひとつ気になるのは、ホームズとアイリーンの関係性。
原作では、この二人の間に恋愛は描かれません。アイリーンにはノートンという新婚の夫がいますし、この二人が不仲だったとか偽装結婚だったとかは、少なくとも作中には書かれていません。
ただ、彼女の写真を譲り受けて大事に保管し、何十年も後の「最後の挨拶」においても彼女の名を出したホームズの行動に、「恋愛感情」を読み取ることはできます。アイリーンの賢さを声高に讃えながらも、パートナーとしては彼女を選ばなかった(立場上仕方のないことなんですけどね。アイリーンもそのリスクは承知してたはず)ボヘミア王から「写真を譲り受けた」という行為は、「自分のほうがアイリーンの良さを分かっている」と行動で示しているようにも見えます。
アイリーンとノートンの結婚式はホームズの口から語られるだけで、ホームズ以外の誰もノートンの姿を見ていない、というのも「実は、ホームズとアイリーンは恋愛関係にあった」と考える人々の論拠になっているようです。
これは、アイリーンの行く末をジョンもマイクロフトも知らず、シャーロックだけが知っているという『SHERLOCK』の描写につながるかもしれません。
ついでに言えばジョンたちがアイリーンを「死んだ」と思いこむ(S2の時点では、視聴者にも『アイリーンを逃がしたのはシャーロックの妄想じゃないか』と思う人がたくさんいたと思います)のは、原作でワトスンが"the late Irene Adler"(故アイリーン・アドラー、または旧姓アイリーン・アドラー)という表現を使ったため、記録時点での生死が明らかになっていなかったことのパロディなんでしょうね。

原作『ボヘミアの醜聞』は、こんな風に結ばれます。

And that was how a great scandal threatened to affect the kingdom of Bohemia, and how the best plans of Mr. Sherlock Holmes were beaten by a woman’s wit. He used to make merry over the cleverness of women, but I have not heard him do it of late. And when he speaks of Irene Adler, or when he refers to her photograph, it is always under the honourable title of the woman.

以上が、ボヘミア王国を脅かした一大醜聞事件の報告であり、ホームズの功名な計画が、一婦人の機知によって、いかにうち挫がれたかという話の一条である。ホームズは以前よく女の浅知恵と笑い囃したものだが、近ごろはいっこうにそれを聞かなくなった。そしてアイリーンのことや、彼女の写真のことが話に出ると、彼は必ず「あの女(ひと)」という尊称をもってするようになったのである。



女性に負けた、という経験はホームズにとってエポック・メイキングな出来事だった。アイリーンがホームズの女性観を変え、ホームズがアイリーンをまたとない女性として認めたのは間違いないです。でも、男が女を理解する、認める、という行為は恋情を伴うものばかりではないはずだ、と思います。
恋愛至上主義、と言ったら大げさですが、「頃合いの」相手が登場したら恋愛に結びつけてしまう考え方も私の「もやっ」の一因かもしれません。いや、恋愛に結び付けるのは自由なんですけど、だったら「恋愛はしない」と言うホームズにだってそういう風に生きる権利はあるわけで、なんとなく「多数派の傲慢」みたいなものを感じるのかも。

現代版ではノートンの存在は描かれず(アイリーンはゲイと自称していて、取り巻きらしき女性は出てきますが、ノートンのようなパートナーではない感じ)、アイリーンがシャーロックを愛していた、ということになっています。
シャーロックからのアイリーンへの想いは、彼女のスマートフォンを譲り受けて保管し、アイリーンの存在を「あの女性(the woman)」として「消去」せずに記憶する(S3の『マインドパレス』描写でちゃんと出てきますね)、という原作通りの描写に留まっています。原作ではアイリーンの想い<ホームズの想い、だったのが、現代版では逆になっているわけです(シャーロックもアイリーンのために作曲したりしてるので、一概に『逆』とはいえないかもしれませんが)。
この「逆転現象」が、推理力勝負の結果に絡んでいるのにも結構もやっとしました。原作のアイリーンはホームズに頭脳戦で勝っていて、それゆえ「忘れられない人」になっていたはずなのに、これじゃこてんぱんだよ!って。
恋愛は勝ち負けではありませんけど、恋してしまった結果頭脳戦に負け、命まで助けられるとは……いったい何をもってthe womanなのか。原作でのアイリーンの写真には、ホームズにとっては「(探偵としての)己の慢心を諫める」効果があったと思いますが、現代版のスマホは、あえて勝ち負けで言えば「完全勝利の記念品」にしかならない。だとすると、シャーロックがスマホを手元に置いた理由は、彼女の能力に対する敬意ではなく、人として人を想う気持ちだった。『SHERLOCK』s製作者の解釈によるthe womanは、はっきり「恋愛」まではいかないとしても、やっぱり「そっち寄り」なわけですね。
思えば、この作品はシャーロックの探偵としての活躍を描きつつも、お話の軸は彼がジョンを始めとするさまざまな人に関わって、変容していく姿です。先に引用したように、原作にもそういう要素はありますが、現代版はより「人間」としての変化に重点を置いている。アイリーンも、好敵手でありつつ彼の「人間性」に大きな影響を与えた人物として描かれているとしたら、"the woman"という称号も「能力」への敬意抜きの方がいい、ということなのかな。
私なんかが今更言うことでもないですが、やっぱりとても良く練られた脚本なんですね(もちろん、『人間性』と『能力』、『尊敬』と『恋愛』にはっきりと境界線を引くことなんてできないので、我ながら不毛なことを言っているとは思うのですが)。

それはさておき、ここにも「保健室の先生」現象を感じます(現実の保健室の先生方には何の恨みもありませんよ!)。
つまり、作り手の「女性に対する考え方」が反映されてる気がします。人形劇『シャーロックホームズ』にあるのが強い女性への憧憬だとしたら、『SHERLOCK』のそれは、強い女性から牙を抜いてしまいたい、という衝動。
ただ、公平に言って、アイリーンばかりがそういう目に合っているわけでもないんですよね。シャーロックも、精神的にも肉体的にも文字通りこてんぱんにやられてますし、第3シリーズのジョンとメアリなんて、もう修羅場としか言いようがない状態に陥る。モリーも恋愛では結構ひどい目に遭っています。
でも、どの人も虚飾を完全に剥がされた上で、たくましく立ち上がってくる。紳士淑女としての気遣いは一切ない、人間同士の生々しい対決がそこにはあります。
裸になったところから積み上げていく強さや信頼が、この作品における人間関係のテーマなのかもしれません。

結局のところ、アイリーンの扱いに関して私の考えが整理できないのは、扱いの善し悪しのせいではなく、「女性を見る目」について普段から感じているもやもやを持ち込んでしまうから、だったようです。
アイリーンはホームズにとって、自分と同等か、それ以上の能力を持つ女性。
その彼女に向ける思いが、尊敬なのか、愛情なのか、はたまた別の何かなのか、知るすべはありません。だから、さまざまな解釈が生まれてくる。そこに「美女」だったり「奔放」だったりというアイリーンが持つ要素への、さまざまな見方も絡んできます。
「美形」とか「天才」とか、目立つ特徴を持った人に、私たちは偏った見方をしてしまいがちなのかもしれません。私は目立たないタイプなので、いわゆる「キャラが立っている」人が羨ましかったりもしますが、際立った特徴を持っていると、「派手な美人だから遊んでるはず」(人によっては『清楚な美人なんだから控えめに振る舞うべき』になるんでしょうが)、とか「頭がいいから性格は悪そう」とか、勝手なイメージを押し付けられるところから人との関係を始めなければならないのかもしれない。なかなか、ステレオタイプなイメージを裏切る部分を見てもらえない、ということになりますよね。「男と女が揃ったら恋愛が始まる」というのも、まあ動物としてのひとつの真理なのかもしれないけど、そうならない人もいる。

二次創作による物語は、それぞれの時代や文化の「人を見る目」の結晶でもある。
でも、保健室のアドラー先生が周りの男を弄ぶだけの人ではなかったように、また、現代版アイリーンが厳重にロックされた想いを隠し持っていたように、人には中身があります。人と人との関係だって、多種多様で良いはずです。
自分以外の人間が考えていることを、私たちは知らない。
当たり前のことのようですが、そういう事実を教えてくれるのも、また物語なのだなあ、と思います。

(原作からの引用はすべて延原謙訳)
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Yes/Noテストを作ってみましたが、コメント欄に結果を書き込んでいただくといくつかの質問の答えはわかってしまうので、訪問してくださった方々のの意外な一面が気になって仕方ない一日でした。(2015.4.5)
プロフィール

Author:ナツミ
シャーロック・ホームズが好きです。どちらかというとワトスンがより好きです。

2017年エイプリル・フールお片付けしました。お付き合いありがとうございました!片付けきれてないところがあったらお知らせいただければありがたいです。

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