最初の挨拶
パンダとジョン

BBC制作、現代版シャーロック・ホームズのドラマ「SHERLOCK」ファンのブログです。
①正典/聖典(原作)と比較しながらドラマを観て、元ネタ探し
②ドラマでまだ出てこない原作の事件は、SHERLOCKだとどんな話になるのかな?と妄想する

…を一人で(主にトイレとかお風呂で)楽しんでいたのですが、
さまざまな方にご意見をいただけたら楽しいだろうなあ、と思って始めました。
ネタバレ満載ですのでお気をつけください!
★原作の文章を引用する際、主に新潮文庫版(延原謙・訳)を参考にさせていただいております。
★全ての記事は、推測やこじつけを基にしており、たまに妄想も入っております。ご了承の上ご利用ください。
★このサイト及び記事へのリンクは、どうぞご自由になさってください。
【お願い】 ★記事における間違いは、できる限り修正したいと考えております。お気づきの点がありましたら、ご教示いただけるとありがたいです。
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記事索引「ブリキの文書箱

新聞の利用法

"Genius detective proved to be a fraud. I read it in the paper so it must be true. I love newspapers."
「天才探偵は実はペテン師。新聞で読んだから本当だよね。 新聞大好きだ」(拙訳)


このお話でつくづく感じるのは、シャーロックが有名人になるのも速ければ、その名声が地に堕ちるのもあっという間という、そのスピードの恐ろしさ。21世紀の今、テレビやインターネットを経由して、情報は瞬く間に広がっていきます。これは、現代のテレビ界に身を置くスタッフだからこそ実感を持って描ける恐怖なのかもしれません。

シャーロックが名画「ライヘンバッハの滝」奪還で得た名声を地に堕とすため、ジムはマスコミを巧みに利用しますが、原作ではホームズもよく新聞を捜査に利用していました。
一番よく使っているのは「広告欄」だと思います。ワトスンと二人で手がけた最初の事件「緋色の研究」でも、この手を使っています。

「この広告を読んでみたまえ。あのあとですぐに、全市の新聞に僕が送ったものだがね」
そういって彼が夕刊を投げてよこしたので、示されたところを見ると、拾得物広告欄の最初につぎのような広告が出ていた。

 今朝ブリクストン通りのホワイト・ハート酒場とホランド・グローヴの中間の路上にて、金製カマボコ型結婚指輪一個拾得す。今夕八時より九時までにベーカー街二二一番Bワトスン博士まで申し出られたし。


今更言うまでもないですが、もちろんワトスンに無断の投稿ですよ!
まあそれは置いといて、人捜しやもの捜しをする時、当時はこれが数少ない手段のひとつだったんでしょうね。指輪を探している容疑者が、夕刊の拾得物広告欄にかならず目を通すであろうという確信がホームズにはあったようです。

上の広告欄の件もそうなんですが、ホームズは捜査によく新聞を利用するんですね。
「六つのナポレオン」事件の捜査中、ホームズとワトスンは「中央通信組合」のベテラン記者、ホレース・ハアカー氏に出会います。現代版にも同名の人物がいるようですので、ご興味のある方は過去記事をご参照ください。

関連記事「六つのサッチャー像」

このハアカー氏を利用して、ホームズは自分の捜査から犯人の目をそらし、油断させようとします。

「これからピット街にひきかえすのだったら、ホレース・ハアカーさんに私からといって伝えてください。いよいよホームズのはらはきまった、ゆうべあなたの家に忍びこんだのは、たしかにナポレオンに関してあるまぼろしをいだいている危険きわまる殺人狂なのだとね。きっと記事をこしらえるのに役だつでしょうよ」
「まさかほん気でそんなことをお考えじゃないでしょう?」レストレードは眼をまるくした。
「さあね」とホームズは微笑して、「あるいはそうかもしれませんよ。しかしそういってやれば、ホレース・ハアカーも喜ぶし、中央通信の読者も喜ぶにきまっていますよ。(後略)」



このホームズの伝言を受けて、ハアカー氏は「きわめて扇情的に、華やかに、二段にも渡って詳しく」ホームズが達した(間違った)結論を書きたてます。それを読んだホームズはくすくす笑い、

「(前略)新聞というものはね、ワトスン君、その利用法を知っていれば、きわめて重宝な機関だよ。(後略)」



この性格の悪さもとい、狡猾さは、シャーロックだけじゃなくジムにも受け継がれているなあ、と思うのは私だけじゃないはず……

いや、でも気にすべきなのはそこじゃないですよね。ホームズは、自分の「間違った推理」をでかでかと書きたてられても平気なんですね。
この頃は、現代に比べたら情報源が限られていますから、今よりももっと「新聞に書いてあることはみんな真実」と思われても仕方なかったんじゃないかと思うんですが、取材も困難な分、むしろ読者のメディア・リテラシーが高かったんでしょうか?
それとも、ホームズは事件解決のためなら、「一度は間違った結論に到った」と皆に思わせることも厭わなかったんでしょうか。だとしたらすごく懐が深い、大人物です(推理バカともいえないこともないけど…)。

「最後の事件」冒頭では、ジェームズ・モリアーティー教授の兄弟がホームズの名誉を貶めようとし、ワトスンが大きな怒りを感じて真実を筆にした、という経緯が語られます。
シャーロックに関しても、彼の名誉を地に堕とそうとするジムの行為には、本人よりもむしろジョンを苦しめようとする意図があったのかもしれません。
ジムにはシャーロックを自分の同類と考えている節もありますが、二人の決定的な違いは「君にはジョンがいる」というところでしょう。ジョン、ハドスン夫人、レストレードという、シャーロックの「友人」の存在がこの「ゲーム」におけるシャーロックの弱みであり、ジムにとっての切り札となります。
一方、ゲームに勝ってみせることよりも彼らを守ることを選んだ時点で、シャーロックにとっては不名誉な死を書き立てられることなど、どうでもよかったのかもしれません。そして、ジムもそれを見越していたのではないかな。もともとシャーロックは、自分が正しいかどうかにはすごくこだわるものの、世間の評判への関心は薄かったですものね。ジムは"The Great Game"の時点ではジョンを「ペット」呼ばわりしていましたが、あのプールで二人と渡り合って以来、自分が相手にしているのはシャーロックとジョンの「チーム」であり、片方を傷つけることがもう片方を苦しめるということを、よくわかっていたのでしょうね。

同じように、ホームズにとっても、世間が自分をどう思うかはそんなに重要なことではなかったのかも。
自分の手柄をヤードの刑事たちの功績として新聞に書かれても、それを不満に思っているのはいつもワトスンで、ホームズは大して気にかけていない様子ですよね。
ホームズは決して自分への評価に関心がないわけではなくて、功名心もあると私は思っているのですが、少なくともワトスンが真実を知っているというだけで、ホームズにとっては十分だったのかもしれません。
「六つのナポレオン」には、レストレードの手放しの称賛を受けたホームズが感動して「ありがとう」と言う場面があります。シャーロックとレストレードのそんな場面も、いつか観てみたいですね。

「最後の事件」そして"The Reichenbach fall"に話を戻すと、ホームズは自分が死んだという報道をうまく隠れ蓑にし、いつかモリアーティの残党を一網打尽にするべく、潜伏生活を始めます。シャーロックも、おそらくそうなのでしょう。「新聞の利用法」に一番長けているのは、やはりホームズであり、シャーロックなのかもしれません。

(原作からの引用はすべて延原謙訳)


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【事件の重要なネタバレ】驚きましたね

今回の「元ネタ」は、らいかみんぐさんがお気づきになって教えてくださったことです。
ご承諾を得て、記事にさせていただきました。(教えていただいてから1年近く経ってしまいましたが…)

らいかみんぐさんが教えてくださったのは、ジムからマイクロフトへのメールについてです。
「恐怖の谷」をお読みになったというお話だったのですが、

そしてエピローグに登場したモリアーティからの手紙でびっくり!
 『驚きましたね、ホームズ君! 驚きましたよ!』(延原版)
 これってもしや……と原文を確認しましたら、まさに。
 "Dear me, Mr. Holmes. Dear me!"

 S2E1でモリアーティがマイクロフトに送ったメールのモトネタはこれだったんですね。知らなかった。
 "Jumbo Jet. Dear me Mr. Holmes, dear me."



「恐怖の谷」ではモリアーティ教授からシャーロック・ホームズに送られた手紙、"A Scandal in Belgravia"ではジムからマイクロフトに送られたメールなので、同じMr.Holmesでも受取人が違うのですが、どちらも犯行声明であるのと同時に、「お前が関わっていることはお見通しなんだぞ」という脅しなのだと思います。
まさに「元ネタ」ですよね!らいかみんぐさん、ありがとうございました!(1年近く経って今更お礼を言われるのもアレかと思いますが…)

「恐怖の谷」からは、「バールストン・ギャンビット」(バールストン先攻法)というミステリ用語が生まれています。

参考記事・「初心者のためのミステリ用語辞典・ハ行」

「バールストン」は、第一部の舞台となった「バールストン館」からとられています。「ギャンビット」はチェス用語らしいです。作品のネタバレになってしまうのですが、簡単に言ってしまうと、被害者と思われていた人物が本当は被害に遭っていなかった、というトリックです。
マイクロフトの計画も、被害者を出させない、という意味では「バールストン・ギャンビット」に近いものがあるのかもしれません。

ジムの計画が恐ろしいのは毎度のことですが、マイクロフトの計画も、倫理的には首を傾げてしまうようなものですよね。彼がジムに「氷の男」と呼ばれることや、遺族たちが出てくること、何よりマイクロフト自身の苦悩の表情によって、この計画がけして英雄的な行為ではありえないということが描写されます。

マイクロフトは、ひとりひとりの人間に対する敬意よりも、国防を優先せざるを得なかったのですね。
それは、大きな脅威からたくさんの国民を守る「正義の行い」であることには間違いないのですが、代償としてマイクロフトが負わされた罪の意識は、けして小さなものではないと思います。このお話を最後まで観てから、クリスマスの病院での兄弟の会話に戻ると、とても哀しいです。

"Look at them. They all care so much. Do you ever wonder if there's something wrong with us?"
「あの家族を見ろ。あんなに心を痛めてる。僕たちは何かおかしいのかもしれないって思ったことはあるか?」

"All lives end, all hearts are broken. Caring is not an advantage, Sherlock."
「どんな命も終わり、どんな感情も砕かれるものだ。心を痛めても意味はないんだ、シャーロック。」
(拙訳)







マーティン・フリーマンの来日

2012年12月1日土曜日のこと。
「SHERLOCK」を通じてお近づきになり、お世話になっている方々に便宜を図っていただき、「ホビット~思いがけない冒険」のイベントに参加させていただきました。

海外ドラマのブログなどやっておりますが、私は家でぼーっとしてばかりいる人間で、映画もあまり観ず、俳優さんもあまり知らず、前作の「ロード・オブ・ザ・リング」にも詳しくありません。こういう華やかな場には一生縁がないものと思っておりましたし、本当に「ロード・オブ・ザ・リング」を愛しているのに参加できなかった方には申し訳ないなあ、という感もありましたが、それだけにもうこんなチャンスは二度とないだろう!とばかり、思い切って未知の空間に飛び込んでみました。

今日はSHERLOCKや原作のお話をお休みして、体験談を書こうと思いますが、レッドカーペットや試写会の様子はネット上でも中継されていましたし、読み応えのあるレポートも既にたくさんアップされていると思います。最新情報への疎さでは他の追随を許さないこのブログらしく、のんびりとしたご報告ではありますが、他のサイトで一通り楽しまれた後にでも、おつきあいいただければ幸いです。

その日の六本木ヒルズはとても寒くて、昼過ぎ頃一瞬みぞれが降ったのを見ました。
イベントは「アリーナ」という、上空に巨大な屋根というか覆いがあるだけの、要するに吹きっさらしの広場で行われました。
無駄に張り切ってやってきた私は、レッドカーペット会場設営の様子を大変興味深く見学させていただきました。

私、レッドカーペットというのは、つながった長~い一枚のカーペットだと思っていましたが、そんなことないんですね。長いカーペットを道幅に合わせて切りながら貼り込んでいくようです。
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この作業が本当に速い!あっという間に、ただの広場がレットカーペット会場に!
プレミア11

ステージに、大きな「ホビット」の看板も登場。
プレミア12

一枚の大きな看板をメインに、何人ものキャラクターの看板を立てていきます。
butai

メイン看板を黒いカーテンで隠して完成。

日が落ちるとこんな感じ。
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さて、心の準備も予備知識もなく観覧させていただいたバチがあたり、わたくし大変なポカをしてしまいました。
「レッドカーペット」とは、写真を撮ったりサインをもらったりしても良い場だということを知らなくて、カメラも色紙も用意していなかったのです。(『じゃあ何をするつもりだったんですか!!』と隣り合った方々に殺気立った顔で聞かれましたが、ただ拍手や声援でスタッフの偉業を讃える場だと信じておりました!)

そんなアホが紛れ込んでいることを見越していた(←のか?)ニュージーランド航空さんから、来場者に素敵なプレゼントが!!

以前にるあるあさんのブログでも紹介されていた、「ホビット航空機」の写真入り特大色紙です!
背景にはうす~く、中つ国の地図が印刷されています。
サイン

皆さんお察しかと思いますが、上の方にに小さく書かれているのがマーティン・フリーマンのサインです。
(小さいのは別に彼がケチくさいからではなく、その後他の出演者の皆さんがサインできるように配慮してのことですよ!多分!!)

そのマーティンですが、あまりにたくさんの人がサインをお願いするのに対応しきれない様子で、終始申し訳なさそうに"Sorry,sorry”と呟いていました。

マーティンが申し訳なさそうにくれたサインを接写したものがこちら。
プレミア15
本物かどうか疑う向きもあろうかと思いますが、書いてもらった私もやや疑ってます(読めないから)。
試しに逆向きにしても読めませんでした。知らない間に誰かのサインと入れ替わってたんだったらどうしましょう。しかし、あの場にいた方なら誰のサインでも相当ラッキーと言えます。

近くで見るマーティンははっとするほど色が白く、肌がつやつやしていました。
実は私、SHERLOCKのスチールを初めて見たときは、「ホームズに比べてずいぶん老けたワトスンだなあ」などと失礼な感想を抱いてました。実際にドラマが放映され、若々しい動きを見るとそんなことは感じなくなりましたが、マーティンのことはずっと「かさっとした質感のひと」と思ってたんですね。
実物を見たら、印象が180度変わりました。小柄でひきしまって、肌目のひとつひとつが瑞々しいような、色っぽい印象の方です。
なんせ謝り通しだったのでお馴染みの眉間の皺が寄っていましたが、その下の大きな目が深いブルーだったのが、とても鮮やかに目に残っています。ネットで調べると、マーティンの目の色はヘイゼルと言う人もあり、ブラウンと言う人もあり、まちまちなのですね。私は彼より背が低いので見上げる形になるのですが、まるで沈んでいる青がその角度からはっきり見えた、というように思えました。とても不思議な感じでした。

彼のパートナーの、アマンダ・アビントンさんもそばに寄り添っていらっしゃいました。
きゅっと細くて、猫のように大きな目が魅力的な方でした!
私ではなく同行してくださった方がお気づきになったのですが、ファンの女の子が「マーティ~ン!」と声をあげるたびに、アマンダのほうが先にそちらを嬉しそうに見ていたとか。可愛いエピソードですね。

それにしても、驚くべきは会場の皆さんのチームワーク!
ああいう場というのは、参加者が「私が、私が」となってしまって混乱するものと思っていましたが、少なくとも私の周りにいらっしゃった方々は、大変理性的で協力的な方ばかりでした。後ろの方の人の色紙を前にいる人が預かって俳優さんに渡したり、慣れている人がリーダーシップをとって慣れていない人を庇ったり。
テレビなどで観ていると我を忘れた熱狂的な集団のように見えますが、互いへの思いやりや冷静な判断がないと成り立たないのがオーディエンスという「仕事」なのだなあ、としみじみ解りました。
ピーター・ジャクソン監督が「世界一歓迎が上手い国」と表現したのは、「声の大きさ」だけでなくこういう気質なのかもしれません。

試写会でも出演者挨拶があるため、すこし早めに移動するように言われていたので、レッドカーペット会場での挨拶は、試写会場でのスクリーン中継で見ました。
ステージ上にいるマーティンは、他の人が話している時にその内容に反応して大きく眉を上げたり、ぐーっと口角をあげてスマイルマークのようなにっこり顔をしたり(大好きな表情です!)。ああ、「ジョンの中の人」だなあ、と思いました。

映画本編、それに関わる出演者の皆さんや監督のお話については、彼らがここまで辿りついたことの重みを正しく受け止められている方の書かれたレポートを読んでいただいたほうがよいと思いますが、とても楽しかったことだけはご報告させてください!上映を観に行かれる予定のある方、検討なさっている方には、声を大にしてお勧めしたいです。

マーティンを見たくて参加したイベントでしたが、そこにいたすべての俳優さんのファンになって帰ってきました。もちろん、ピーター・ジャクソン監督も!
イライジャ・ウッドの瞳の美しさに驚いたこと(こちらはまさに宝石のみどり!)や、アンディ・サーキスと同行者にまつわるお茶目なエピソードなど、書きたいことはたくさんあるのですが、今回はいちマーティンファン(←サイン読めないくせにファンって言っていいのか)のひとつの日記ということで、欲張らずに筆を置きたいと思います。

最後になりましたが、お世話になった方々に、この場を借りてお礼を言わせていただきます。夢のような体験でした。本当にありがとうございました。

【追記・2012年12月8日】
レッドカーペットの様子ですが、他の記事でもお世話になっているるあるあさんが、ご自身のブログに画像や動画をたくさんご紹介くださっています。

SHERLOCK HOLIC~「ホビット 思いがけない冒険」ジャパン・プレミア レッドカーペット

るあるあさんが魂を込めて厳選してくださったに違いない、素敵画像ばかりです!私はモニターの前で悶絶しました。マーティンファンの皆様、ぜひぜひご訪問を!

マイクロフトの傘

シャーロックがソシオパス、ジョンがPTSD持ちなら、私はファッションセンスというものに何らかの病名がつくと確信しているナツミです。
そんな私ですが、衣装に関する記事「シャーロックのガウン」をアップしてみたところ、興味深いコメントをいただいたり、ほかのブログでも同じ題材でより深い記事を書いていただいたり、大変嬉しく面白いお話に発展していきました.

調子に乗ってもうひとつ「ファッション関係」の記事を(正直、『ファッション関係』とかタイプするだけで緊張しております)。帽子、ガウンときて、今回は「傘」です。

るあるあさんの記事「シャーロックはガウン、ジョンはバスローブ」では、シャーロックの服装を「ハイソ・緊張・正典の踏襲」、ジョンの服装を「カジュアル・緩和・現代の若者」というキーワードで紹介されていて、なるほど!と思いました。二人の服装の対比によって、常に画面上に正典の雰囲気と現代の雰囲気が共存しているわけですね。

そういえば、原作の時代の雰囲気を現代版に持ち込んでいる人がもう一人いますね。
弟に輪をかけて、上流の空気と緊張感たっぷり、そして時代が止まってるっぽい(失礼)、マイクロフト・ホームズ。

彼とジョンが一緒にいる場面でも、るあるあさんの挙げられたような対照が感じられます。
それが一番わかりやすく出ていたのは、第二シーズン第一話、A Scandal of Belgraviaのラスト近く、カフェの前でマイクロフトがジョンを待っていた場面ではないでしょうか。

駆けてくるジョンはかなり濡れているのに、傘をさしていませんね。
対するマイクロフトは、愛用の大きな傘をさしています。

ロンドンのように雨が断続的に降る土地の場合、住民は常に傘を持ち歩くか、逆に全く持たないかになるようです。
参考記事:eikokutabi.com イギリス面白ニュース「イギリス人と傘」

私はロンドンに住んだことはないのですが、やはり雨の多い、カナダ西部のバンクーバー(冬季)に何ヶ月か滞在したことがあります。バンクーバーでは、傘を持ち歩かない人が圧倒的多数派でした。
空気が乾燥していると、濡れてもちょっとしのげばすぐに乾いちゃうんですね。また、日本の夕立のように強い雨になることはめったにないので、ナイロン地のジャケットでもあれば、フードをかぶってなんとかなってしまいます。そういった対策すらせず、濡れるがままになっている人もたくさんいました。
ロンドンとは意識が違うかもしれませんが、バンクーバーの人々だったら、ジョンのように帰宅途中なら傘を買うよりも走る、無理なら雨宿りするとと思います。

ただし、これは服装がカジュアルな場合に限られるのかも。マイクロフトの見るからにお高そうなスーツは、ジョンのジャケットのようにびしょぬれにしてはまずいんじゃないでしょうか。

ここら辺の事情を考慮すると、常に傘を備えているのは、性格の面からいっても万事周到な「マイクロフトらしい」。
対して濡れても平気なジョンは、平均的な庶民の感覚と平均的なお値段のワードローブを備えているといえるかもしれません(衣装の実際の値段はともかくとして)。
そこまで言っといて、演出家さんがジョンを濡らした理由が「視聴者サービス」だったらいたたまれないですけど……

しかし、主に車で移動しているマイクロフトに、防水のための傘はそんなに必要ないはず。彼の傘はやはり、「英国紳士」アイテムのひとつなんじゃないかと思います。

「英国紳士」とは何か。これが意外と雲を掴むような存在で、検索してみても服装に関してのはっきりとした定義がみつかりませんでしたが(階級や教育などに関する定義は一応wikiにありました)、画像検索をかけてみると、スーツと傘またはステッキ、帽子が典型的な「英国紳士スタイル」のようです。
マイクロフトは帽子はかぶっていませんが、懐中時計を持っていますね。個人的にはこれも英国紳士っぽい気がします。

マイクロフトが「いかにも英国紳士」というスタイルなのは、「兄は英国政府そのもの(『ブルース・パティントン計画書』)」というホームズの台詞からでしょうね。
面白いほどに類型化された「英国人」である必要があったのかもしれません。
原作のマイクロフトは肥満体ですが、キャスティングの際、そこにはこだわらなかったのですね。
21世紀の今、「肥満体」というと別の国を連想してしまうという理由もあるかもしれませんね(あくまで憶測です)。

話はそれてしまいますが、身体的なことをもう少し書くと、現代版マイクロフトは横幅はないけれど、身長はずいぶん高いですね。初登場の場面で、小柄なジョンと一緒にいると威圧的な感じがしました。
シーズン1では、一貫してジョンのいる場面に出てくるのですが、シーズン2では、シャーロックと二人だったり、自宅に一人でいる場面もあります。
マイクロフトの自宅では、テーブルもその周りに林立する置物もずいぶん大きくて、彼が小さく見えるんですね。
テーブルに向かって苦悩するマイクロフトはまるで、チェス盤の上に置かれた駒の一つのように見えます。
こんな描写も、彼が「英国政府」の一部としてゲームに参加している駒であることを視聴者に感じさせてくれます。そして、その英国政府が、決して強大なものではないということも。

スーツの本場・イギリスにも簡易化の波が押し寄せ、スーツ姿の男性が減っているそうです。マイクロフトのように上質なスーツをかっちりと着こなし、タイを締め、傘を持った紳士は、もはや絶滅危惧種なのかもしれません。

参考記事・日経Bizアカデミー「影が薄くなる英国紳士のスーツ姿」

さて、英国紳士と言えば原作のホームズですが、原作では、傘が武器扱いされていたのが印象に残っています。
「恐怖の谷」でのホームズとワトスンのやりとりですが、

「(前略)ときに君は例の大きなコウモリ傘を持っているだろうね?」
「あるよ」
「じゃあれを貸してほしいんだ」
「いいとも、でもあんなもの、武器にはどうかな。もし危険があるなら…」(延原謙訳)



この後ワトスンの傘が事件解決に重要な役割を果たすのですが、それは置いといて、非常時に傘を武器代わりに用いるのは、二人にとって不自然なことではないようです。
ヨーロッパにおいて、もともと傘はご婦人の日よけのための道具で、雨天時に傘を持つのは奇異なことと考えられていたとか。

参考記事 しばた洋傘店 傘物語~洋傘の歴史

男性がよく傘を持ち歩くようになったのは、男性のお洒落用品であるステッキに似せた柄の傘が考案されてからのようですね(今でも、ほとんどの傘の柄はステッキ風ですよね)。以来、紳士用の傘はしばしばステッキの代わりに用いられたようです。
そして、ステッキは身を守るためにも用いられました。
ステッキ術」(Stick fighting)で検索したところ、"The Art of Manliness"というサイト(すごいタイトルだ…)の中の、ウィリアム・バートン・ライトによって考案された格闘技「バーティツ」の紹介ページに行き当たりました。
リンク先にも紹介がありますが、ホームズがモリアーティを打ち倒したという「バリツ(baritsu)」は「バーティツ(bartitsu)」のミススペルであると考える方がいらっしゃるようです。日本では、ミュージシャンの大槻ケンヂ氏が「バリツ=バーティツ」説で有名ですね。どうやら、身近なものを使って戦う「ステッキ術」も「バーティツ」の一部のようです。
ホームズがステッキを使って戦うことができるのなら、危険な場所に赴くのに傘を「武器として」持っていくのだろうとワトスンが考えたのも、無理もないように思えます。

だいぶとりとめがなくなってきた、ていうかファッションはどこいったって感じですが、「傘」にまつわる話をあれこれ並べてみました。

ひょっとしたら、この先現代版マイクロフトが傘を武器として使うこともあるかもしれませんね。
マイクロフトはそれを「英国政府」として使うのか、個人として使うのか。
保守的なマイクロフトの象徴ともいえる傘が、誰かに振り下ろされるようなことがあるとしたら、国ではなくシャーロックやジョンのためかもしれない、とちょっとだけ思います。


プロフィール

Author:ナツミ
シャーロック・ホームズが好きです。どちらかというとワトスン君がより好きです。

『高名の依頼人』のこと書きましたが、6月24日までグラナダ版がGYAOで無料で観られるそうです。
こちら

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