最初の挨拶
パンダとジョン

BBC制作、現代版シャーロック・ホームズのドラマ「SHERLOCK」ファンのブログです。
①正典/聖典(原作)と比較しながらドラマを観て、元ネタ探し
②ドラマでまだ出てこない原作の事件は、SHERLOCKだとどんな話になるのかな?と妄想する

…を一人で(主にトイレとかお風呂で)楽しんでいたのですが、
さまざまな方にご意見をいただけたら楽しいだろうなあ、と思って始めました。
ネタバレ満載ですのでお気をつけください!
★原作の文章を引用する際、主に新潮文庫版(延原謙・訳)を参考にさせていただいております。
★全ての記事は、推測やこじつけを基にしており、たまに妄想も入っております。ご了承の上ご利用ください。
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事件をありがとう

This case, Henry,Thank you. It's been brilliant!
この事件をありがとう、ヘンリー 素晴らしい事件だった!(拙訳)



事件解決後、現場で大はしゃぎしてジョンに「タイミング!」とたしなめられるシャーロック(よっぽど楽しかったらしい)。

様々な事件が持ち込まれますが、シャーロックにとってはその内容が「面白いか、面白くないか」というゲームとしての評価が第一かもしれません。
でも事件の当事者たちにとっては、事件は人生を左右するような大問題ですよね。特にヘンリーの場合は深刻。ジョンに叱られるのも、無理もないかもしれません。

しかし、解決まで我慢していたシャーロックはまだいい方かも。原作ではこの台詞、かなり序盤で出てきます。
まだロンドンのホテルにいるヘンリー卿に、奇怪な警告文が届く場面。

「これでみると、沼沢地で何がおこっているのか、私たちより詳しく知っている者があるように思えますね」モーティマー医師がいった。
「しかも危いぞと警告してくれているのですから、あなたに対して悪意はないらしいです」ホームズが言葉をそえた。
「それともほかに何か目的があって、私を追い払おうとしているのかもしれません」
「そう、それも考えられますね。モーティマー先生、おかげでいろいろに解釈のできるおもしろい事件をお知らせくださって、ほんとにありがとう。しかしヘンリー卿、ここで決めておかなければならない実際問題は、あなたがバスカヴィル館に行くほうがよいか、行かない方がよいかの問題ですね」(延原謙訳)


お気づきになりましたでしょうか。てきぱきとした会話に紛れて、非常にさりげなく「空気の読めない発言」しましたね・・・
自分にとって生死や尊厳のかかった大問題を「面白い」と言われたら多分腹が立つと思うんですが、

1.まだ自分の命が危ないときにさらっと言われる
2.一応解決したあとで、高笑いしながら言われる

う~ん、どっちの「タイミング」がいいんだろう・・・
皆さんがヘンリー、もしくはヘンリー卿の立場だったら、どう思われるでしょうか。
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「バスカヴィル~」の人々

原作と現代版ではだいぶ話の運び方が違いますが、登場人物の名前は同じものが使われていることが多いようです。ドラマでの登場順に見ていきましょう。

まず、ウサギのブルーベルの失踪事件をシャーロックに依頼する少女、カースティ。ホームズの使いを務めていた利口なメッセンジャー、カートライト少年に名前が似ている気がします。

そして、ルイーズ・モーティマー。
原作では、チャールズ・バスカヴィル卿の友人かつ遺言執行人として、後継者のヘンリー卿を迎えにロンドンにやってきた折り、ホームズに魔犬のことを相談しにきます。ホームズ曰く「人好きのする、青年の野心なんか失ってしまった、うっかり者」(ちなみにホームズは、口が滑った彼に「ヨーロッパ第二の探偵」扱いされて、若干根に持ってます)。
しかしそれだけではなく、専門のことにかけては人目はばからず夢中になってしまう変わり者。(くわしくはリンク先の記事をごらんください)
第一章では、彼のステッキを巡ってホームズとワトスンが推理合戦を繰り広げます。

「彼」と書きましたが、原作では奥さんもいるれっきとした男性。フルネームはジェームズ・モーティマーです。
現代版ではなぜかジョン好みの美女に変更されています。ジョン、よかったね!(ますますジョンと女性ゲストキャラの関係が「寅さんとマドンナ」化してるのはおいといて・・・)
シャーロックが彼女の画像をジョンの携帯に送りつけるエピソードがありましたが、原作でもホームズがステープルトン兄妹について「妹の方はすこぶる美人だそうだよ」とわざわざ言うのが可笑しい。モチベーションを上げてやっているつもりなんでしょうか。

次に、ライオンズ伍長。(階級が間違っていたらごめんなさい。辞書で調べたところ、Corporalは伍長または下士官と出ていましたが、軍隊によっても違うものかもしれません。)
「元ネタ」は、フランクランドの娘でステイプルトンに利用されるタイピスト、ローラ・ライオンズですね。モーティマーと同じく、性別が逆になっているのがおもしろいです。

そして、ドクター・フランクランド。ジョンにannoying friendry(人懐っこすぎてうっとおしい) と書かれてしまう陽気な人ですが、原作では地元の情報通である「親切でまことにいい老人」。
しかし、唯一最大の欠点が「法律きちがい(原文ママ)」であること。古い記録や法律に精通していて、いくつもの訴訟に関係しています。裁判自体が楽しいらしく、状況次第で誰の味方にもなるため、周りの人には喜ばれたり嫌われたり。資産の大部分を訴訟のために使い果たしたとのことです。
話を聞いてあげるからか、ワトスンはこの人に妙に好かれているようです。ドラマでも、ルイーズが皮肉混じりに「彼はあなたのことが好きみたい」と言ってましたね。

ステープルトンは、ドラマではバスカヴィルの研究員で、カースティのお母さん。
最終的にはシャーロックとジョンの協力者になります。
原作では男性。
「昆虫学では一家をなした権威者」で、ワトスンと話している時も、めずらしい蝶を見つけたら追っていってしまうほど。

モーティマーにしろ、フランクランドにしろ、ある程度の知識人と思われる登場人物が皆、極端に何かにのめり込んでいる設定なのはどういうわけでしょう。熱中できる趣味でもなければ、ダートムアのような退屈な田舎に住むのは難しいということかな?

バリモア中佐は現代版ではいばっている感じでしたが、原作ではバスカヴィル家の執事。つまりヘンリー卿の従僕です。ワトスン曰く「まっ黒なあごひげのある青じろい美男の執事」。背も高い立派な体格だそうです。
忠実な執事ですが頑固なところもあります。ヘンリー卿が彼の機嫌をとるのに苦労しているところなど見ると、ちょっと現代版に似ているかも。

最後にセルデン。未成年の方も読んでくださっているので細かいことは省きますが、えーと、車のライトをつけたり消したりしてた人です。大人になると、たまにそういうこともあります。
原作ではバリモアの奥さんの弟。脱獄囚で、普段は沼沢地に潜んでいます。バリモアに合図を送っては食料を受け取っていました。

こうして並べてみると、一癖も二癖もある人物ばかり。
地方の小さなコミュニティというある種の「密室」に、少しずつ怪しい人物をずらりと並べる趣向は、今日ではよく見かけますが、いつからあるのでしょうね。ミステリ小説の歴史をもっと勉強したくなってきました。

よく引用するので既にばれているかもしれませんが、私はモーティマー医師が好きです。彼と仲良くなったワトスンが、都合の悪い話になると頭蓋骨の話題を持ち出してごまかし、「シャーロック・ホームズと長年一緒に暮らしてきただけのことはある」と自画自賛するのもなんだか微笑ましい。悪気はないけど自分の好きなことになると夢中になってしまう、という点では、ホームズとモーティマーは似た者同士なんですね。



ヘンリー・ナイト

ヘンリー・ナイトのモデルはもちろんヘンリー・バスカヴィル卿に違いないと思いますが、相違点もいくつかあります。

まず、名前が違います。現代版ではタイトルがThe Hound of Baskervilles”(バスカヴィル『家』の犬)からThe hounds of Baskerville(バスカヴィルの(複数の)犬)に変わり、舞台は古い貴族の屋敷ではなく軍の研究所になっていますが、原作のヘンリー卿はバスカヴィル一族の末裔ですので、名前も「サー・ヘンリー・バスカヴィル」。延原先生註によると、爵位はバロネット(准男爵)。この爵位は世襲制だそうです。

一方、現代版の主人公はヘンリー・ナイト。
ナイト(Knight)は苗字ですが、Knightという爵位もありますね。原作者のコナン・ドイルは、ちょうど「バスカヴィル家の犬」を書き上げた後、ナイトの称号を与えられています。
このナイトの称号は個人の功績に対して与えられるもので、世襲制ではありません。
Wikiによると、ドイルの「功績」とは、表向きはボーア戦争の従軍記を書いて軍に貢献したということになっていましたが、当時のロンドンでは、前作「最後の事件」で滝に落ちて死んだホームズを「復活」させた功績に対する恩賞だ、とまことしやかにささやかれたとのことです。
シャーロック・ホームズ人気がどれだけ大きな社会現象だったかわかります。

ちなみに、ホームズ本人にもナイトの称号を辞退したというエピソードが。

私はこの事件の起こった年月をよく覚えている。いつかは詳しい事のしだいを発表してもよいけれど、ホームズが功により士爵に列せられるのを辞退したのと同じ月に起こった事だからである。(三人ガリデブ)



自分はもらったのにホームズにはこういう行動をとらせたドイルの心理は大変興味深いですが、本題からはずれるので割愛して、ヘンリー卿の風貌性格について見てみましょう。原作のヘンリー卿はカナダで農業に携わっていましたが、伯父であるチャールズ卿が急死し、相続のためダートムアに呼び戻されます。

ヘンリー卿は小柄で身がるで瞳のくろい三十くらいの紳士で、しゃんとしたからだつきの、眉毛は黒く太く、気の強そうな風貌であった。赤っぽいツイードの服を着ているが、日にやけたその顔は野外の生活をしてきたことを物語っていた。にもかかわらずその落ちついた眼つきと静かな態度は、紳士であることを示していた。


 
あれ?あんまり似てないな・・・
私は人の風貌を適切に把握するのが上手でないのですが
(「○○さんって××に似てない?」と誰かに聞くと必ず微妙な顔をされます)、現代版のヘンリーはどちらかというと線の細いインドア派に見えませんか・・・?
開拓地に乗り出すより部屋で冒険の旅に出るほうが似合いそうに見えます(ドラクエ10プレイ中の皆さん、他意はありません)。
ジョンのブログを見ると、 normal looking (平凡な外見)としか書いてませんね。たった今失言した私が言うのもなんですが、ジョンはもうちょっと後々のお付き合いとか考えてブログ書いたほうがいいよ!

堂々たる青年紳士、という感じのヘンリー卿ですが、一皮むくと荒っぽい一面も。ホームズシリーズを読んでいると、どうも、開拓地の男性に対して「そういうイメージ」が当時あったんだろうな、と思わざるを得ません。

階段を登りつめてみると、そこにヘンリー・バスカヴィル卿がぬっと突ったっていたのである。泥だらけの古靴の片っぽうだけを手にして、まっ赤になってぷりぷりしている。激怒に煮えくりかえって、口も満足にはきけないらしい。やっと物をいったかと思うと、今朝の様子とは似てもつかぬ乱暴な、西部なまりまるだしであった。
「馬鹿にするなってんだ。ここのホテルじゃおれをなんだと思ってるんだい?すこし気をつけろ!あの野郎、靴をさがしてきやがらねえと、こっちにも覚悟があるから、そのつもりでいるがいい。(後略)」



現代版ヘンリーも、真相に近づいた時や真犯人がわかったとき「豹変」しますね。

7歳の時からずっと魔犬に脅えてきた彼の心情は、私には図りしれません。人に話しても信じてもらえず、ずっと孤独と恐怖を抱えてきた彼が、原作と同じ性格に設定されなかったのは無理もないことかも。
それにしても、ヘンリー役の俳優さんが、「普通の青年なのに、何かが7歳で止まっている」感じを表現するのがとても上手だなあと思いました。原作とは全く違うのに、とても存在感のあるヘンリーですよね。
ずっと前に、「SHERLOCK」は寂しい感じがすると書きましたが、ヘンリーのように、日々の糧は足りていても何かしらの欠落を抱えた人々が描かれることと、同じ時代を生きる視聴者がその傷に共感しやすいことが、その一因かもしれません。

そうそう、ヘンリーの容姿についてもうひとつ。モーティマー医師(頭蓋骨大好き)によると、ヘンリー卿は「ケルト型のまるい頭」をしているそうなんです。ヘンリー役のRussell Toveyさんの頭が平均的な英国人の中で丸いほうなのかはよくわからないんですが、「丸さ」がよくわかる髪型だったのがうれしかった!
なかなか素敵な頭蓋骨でした!

(原作の引用部分は全て延原謙訳)

古風な言い方

"What? Why do you call it a hound?" 
「何だって?君はどうしてあれをハウンドだなんていうんだ」

"It's a strange choice of words, archaic."
「奇妙な言葉遣いだ、時代遅れの」 (拙訳)



シャーロックがヘンリーの事件に興味を持ったのは、ヘンリーがHOUNDという古風な言葉を使ったから。
すぐには結びつかなかったものの、記憶の城に眠っていた言葉とバスカヴィルが彼の中で呼応したのでしょう。
ヘンリーのこの「古風な」台詞には、原作の台詞が一言一句変えられずに使われています。

Mr. Holmes, they were the footprints of a gigantic hound!「ホームズさん、それがじつは巨大な犬の足跡なんですよ!」(延原謙訳)



英語が堪能でない私には、どの言葉が現代風でどれが古風か、いまいち理解しきれていないのですが、これまで原作とドラマの台詞を見比べてきた中では、原作の台詞が「全く」変更されずに用いられるというのは珍しいと思います。

バスカヴィル家の伝説を聞かされていた時は無関心そうに見えたホームズがこの言葉で事件に興味を持ち出すのも、ドラマと同じですね。

白状するが、私はこれを聞いてぞっと身ぶるいがした。モーティマー君の声も震えをおびていたのをみれば、彼もまた自分の話にふかく動揺しているのだろう。夢中になってからだを前にのりだしたホームズの眼も、鋭く輝いてきた。ホームズのこの眼つきは、いつでも彼が強く関心を持ったことを示すものなのだ。(延原謙訳)

煙草をめぐる攻防

第1話ではマイクロフトに勧められてちょっと吸っちゃったものの、基本的には、ジョンの監視のもと禁煙を頑張っているらしいシャーロック。
吸いたくてイライラしているところに喫煙者のヘンリーがやってきたので、落ちつかない様子ですね。

現代版では、ヘンリー自ら221bを訪ねてきますが、原作では、まずチャールズ卿の友人で遺言執行人であるモーティマー医師がやってきます。

「(前略)ひとさし指の様子から拝見するに、あなたはタバコをご自身巻いてあがるらしいですね。さ、どうぞご遠慮なくおつけください」
モーティマーは紙とタバコをとりだして、おそろしく器用に一本巻き上げた。



モーティマーが喫煙している間、ホームズは興味深くモーティマーを観察しながら待っているようですが、シャーロックはもっと切実。

Sit down, Mr.Knight,and do please smoke.
I'll be delighted.
「座って、ナイトさん。どうぞ吸ってください、吸ってくれたらうれしい」
Goodbye, Mr.Knight.Thank you for smoking.
「さようなら、ナイトさん。煙草の煙をありがとう」(拙訳)


普通お店やオフィスにはThank you for not smoking(禁煙のご協力ありがとうございます)と書いてあるものですけど、221bに限っては逆みたいです。

ところでジョン、すごいところにシャーロックの煙草を隠してましたね!ペルシャスリッパにきざみタバコを入れるのがホームズの奇癖として知られているので(マスグレーヴ家の儀式)、「シャーロック、スリッパ、スリッパ!」と思いながら観ていましたが、まさかアレの中にあるとは意外でした。

ということは、この頃のシャーロックはこの「お友達」に触っていないということですよね。仕事が繁盛してきたせいなのか、皮や肉がついてるお友達ができたせいなのか、とにかくまあよかったんじゃないでしょうか。
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プロフィール

Author:ナツミ
シャーロック・ホームズが好きです。どちらかというとワトスン君がより好きです。

『高名の依頼人』のこと書きましたが、6月24日までグラナダ版がGYAOで無料で観られるそうです。
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