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最初の挨拶
パンダとジョン

BBC制作、現代版シャーロック・ホームズのドラマ「SHERLOCK」ファンのブログです。
正典/聖典(原作)と比較しながらドラマを観て、元ネタ探しをしております。
ネタバレ満載ですのでお気をつけください!
★原作の文章を引用する際、主に新潮文庫版(延原謙・訳)を参考にさせていただいております。
★全ての記事は、推測やこじつけを基にしており、たまに妄想も入っております。ご了承の上ご利用ください。
★このサイト及び記事へのリンクは、どうぞご自由になさってください。
「あの場面の元ネタは?」という時はこちらへ
ブリキの文書箱

H.I.S.ロンドンのオンラインツアー

旅に行きたい。
london tour

もともと地に足がついた人間ではないのに、コロナ禍でなんとなく足止めされた格好になってから半年以上が過ぎ……世の中Go Toなんちゃらで浮かれていますが、感染リスクは変わらないのでちょっと仕事上の何やかやで二の足を踏んでしまったり、経済的にもこの先に不安を感じていたり……

田舎暮らしの私、気づけば去年の2月、お友達と広尾でアフターヌーン・ティーして以来、街らしい街を歩いていないよ~。(そしてその店もすでにない……)
好きな音響やスクリーンで映画観たり、ふらっと入ったカフェでお茶したり、電車を乗り継いで焼き菓子やさんを巡ったり、大きな本屋さんでじっくり本を選んだり、時々はテーマパークやイベントに行ったり……まあ大したことしてたわけじゃないんですけど……
何でもないようなことが!幸せだったと思う!!(突然の虎舞竜)

もちろん、手の届く範囲に楽しみを見出すことはできます。山に登ってコーヒー淹れてみたり、車の中を可愛く住みやすくして車中泊してみたり。おいしいものだっていっぱいある。
でも、その気になれば好きな場所に行けた、「その気になれば」のハードルを以前より高く感じてしまう。それがこんなに息苦しいとは……

そんな折、Twitterで見かけたH.I.S.ロンドンさんのオンラインツアー。
「コナン・ドイル原作から読み解く シャーロック・ホームズ 入門」
現地の「ホームジアン」(日本でよく見かける『シャーロキアン』という呼称は米国由来で、英国ではホームズ愛好家をこう呼ぶそうです)ツアーガイドさんの解説を聞きながら、ネット上の中継でロンドンの街を歩けるツアーが、まさかの無料!(要予約)だったんです。

ホームジアン見習いのわたしとしてはタイトルに惹かれましたが、オンラインツアーという「旅の形態」に関しては、まあオマケ程度に思ってました。ホームズに関する知識を学べるついでに、ちょびっとロンドンの風景を見せてもらえるんだろうな、くらいで。
でも経験者となった今、自身を持ってオススメできます!オンラインツアー、いいですよ!!

こちらのツアーではZOOMというオンライン会議用のアプリが必要でした。これは無料でダウンロードできます。
ZOOMを立ち上げたらメールで送られてくるミーティングIDやパスワードを使ってアクセスし、流れている注意事項を読みながら約束の21時(ロンドン現地時間12時)を待ちます。
緊張して7ヶ月ぶりにちゃんと化粧をしてしまいましたが、基本、こちらのカメラはオフでも大丈夫みたい。オフだとこちらの顔は見えず、ZOOMに登録した名前だけが見えている状態になります。(The Blind Bankerでシャンがモリアーティにオンラインで話しかけてた時、モリアーティの顔は見えず『M』という文字だけが見えてた、あの感じ)
接続のトラブルなども含め、疑問がある場合は、チャットを通してH.I.S.のスタッフさんに質問できます。このチャットは参加者全員に話しかける機能もあり、楽しいおしゃべりをしてくれる方もいれば、参加者に見えないようにホスト側とだけやりとりする方もいました。

この「みんなが集まってくるのをちょっと緊張しながら待つ」雰囲気に、もう「旅」を感じる(実際は、顔だけフルメイクした風呂上がりの私が自宅の六畳間にいるだけなんですが……)。
実は私、遠い遠い昔の学生時代に、同じロンドンでホームズ関連のウォーキングツアーに参加したことがあるんです。
若くて無防備で、のんびりが顔に出てしまっている学生だった私は、それで得することもあったけど、攻撃されることもいっぱいありました。ひとまわりくらい年上の女性ガイドさんは、初めから「親のスネ齧りの学生が気軽に贅沢できていいですね」という態度を隠そうとせず、私としてはアルバイト代を貯めてやっとの思いで来た旅ではありましたが(当時は今よりは景気も良くて、学生の海外旅はそんなに珍しいことではなかった)、やはり親の助力なしでできたことではないので、現地で一人頑張っているであろうガイドさんに軽蔑されるのは仕方ないことのような気がしてました。「こっちは金を払った客だ」と開き直るには、弱気すぎたし経験もなさすぎたんです。あとツアー自体もそんなにホームズとは関係な……いや、もうやめとこう。
以来ガイドさんという存在を敬遠し、自分でチケットを取る旅行者になってしまったので(そうすると社員旅行とかで手配を任されたりするので、その中で素敵なガイドさんとの出会いも多々ありましたが)、個人でガイドつきツアーを選ぶのは、本当に久しぶり。
気弱な過去がうっすら蘇ってくるけど、オンラインだし!嫌ならログアウトできるし!まさかシャンのように狙撃はされまい……たぶん……

蓋をあけてみれば、この度のガイド兼講師となるA子さんも、今回はサポートに回ってくださっていた他2名のスタッフさんも、柔らかい雰囲気でぜんぜん怖くなかったし、もちろん撃ってきたりしませんでした!
実際のツアーではガイドさんとも参加者さんとも顔を合わせますよね。それが楽しいという面ももちろんありますが、オンラインツアーでは、100人近い参加者がいるにも関わらず、お互いの顔は見えません。A子さんが見ている「コロナ禍で通行人まばらなロンドン」を、「通行人まばらな雰囲気」ごと覗きこめる。自分(たち)のいない風景が、とても新鮮。

ここらで旅の写真の数枚もご紹介できればいいのですが、録画や録音、スクリーンショットを撮ったりするのはNGです。写真撮影にかまけず、自分の目でじっくり見る旅も良いものだなあと思いました。
写真の代わりに、歩いた軌跡を地図とメモで残そうと、隙を見て『地球の歩き方・イギリス』とノートを引っ張り出してきました。ついでにお茶のおかわりも(こういうことができるのも新鮮)。

ロンドンは快晴!青空の下の待ち合わせ(?)はベーカー・ストリート駅前(もうここでテンションが大変なことに)マダム・タッソーの蝋人形館が見えます。
旅の始まりは、色鮮やかなユニオンジャックのマスクが素敵なA子さんの自己紹介。まず、グラナダ版、RDJ版、BBC現代版など、近年映像化されたホームズ作品について、簡単にレクチャーしてくださいます。興味深かったのは『アメリカ人で不良のホームズと英国人で美形のワトソン』など、実名をなるべく出さないように配慮なさっていたこと。大人の事情もあるのかもしれませんが、紹介の仕方のちょっとした癖に「ガイドとして」じゃないA子さんの個人的な思いを垣間見ることができ、もうこの時点でA子さんのこと大好きになりましたよね……(堕ちるの早い)。
ひょっとしてA子さん、ワトソニアンじゃないの……?誠実で温厚で変人に振り回されるタイプ、嫌いじゃないんじゃないの……?てんて~~~~~!わたしもです!!!A子てんて~~~~!!

良い先生の授業の条件として、「一方的に話さず、生徒のリアクションを展開に織り込む」ことがありますが(※学校じゃない)、ZOOMの「投票機能」を利用したクイズが何度かあったのも楽しかった。
A子さんのレクチャーを聞きながら、「答えは3つの中のどれだと思いますか?」という質問に答えていく中で、俄然「みんなで歩いてる」感が湧いてきます。
また、A子さん視点以外にも、別の地点にいらっしゃるスタッフさんのおかげで、地上にいながら話の流れに応じて地下鉄構内の様子が見られたりします(まさに今、2020年秋だからこそ見られる、エノーラ・ホームズの壁画を見せてくださいました!)

それだったら事前に撮影して、綺麗に編集された動画を用いたレクチャーのほうがいいんじゃない?と思われそうですが、旅好きには、何気ない日常のロンドンの風景がたまらないんですよ……!
キョロキョロと周りを見回しては、「ありゃりゃ、マスクしてない人も結構いるね~」って思ったりとか、舗道のはしっこで長~いストールを「よっ」と巻きつけてるお兄さんに、現地の風の冷たさを思ったりとか。信号が変わる前に急いで横断歩道を渡ったりとか、「あっ、シャーロックとジョンの近所にバスキン・ロビンスがあるんじゃん!」って気づいたりとか(※一部の混乱したMCUファンはBRをキングスマン並の敏腕スパイ集団と見做している)。
学校の授業でも「よそ見」で目に入ったものが印象に残ったりしますが、そういう「編集したらカットされてしまいそうな情報」がまるごと目に入るのが、旅の良さだったりしませんか。

ドイルやホームズのこと、19世紀に関する知識は本やネットでも調べられるけれど、ガイドさんと肩をならべて(?)歩きながらお話を聞くことで実感できる情報もあります。
A子さんの語り口には「ホームジアンの先生」でありつつ、「ホームズのご近所で生きている人」視点も感じます。
ポストを見かければ、「ホームズが壁に弾痕で描いたV.R.はポストにも残っています。V.R.のマークがあるのはヴィクトリア女王時代にできたポスト。EⅡRのマークはエリザベスⅡ世の時代にできたものと、ポストが作られた時代が特定できます」というように、さらり教えてくださる。
そっかあ、じゃあシャーロックが描いたスマイリーマークも時代を反映する意味があったのかな、などと「生徒」は妄想してしまいます。
行き交う車を眺めながらの二輪馬車(ハンサム)の紹介では、「馬車のおかげでイギリスは左側通行になったんです。御者は右手にムチを持ってるから、右側通行だったら通行人をぶっ叩いちゃいますよね(笑)」との説明に「なるほど~!」と膝を叩く。同じことは本にも書いてあるかもしれないけれど、通りを前にしてのの説明だと、すっと頭に入ってきます。
マリルボーン・ロードを進み、シャーロック・ホームズ像が近づいてくると、「ホームズは通りに背を向けて、建物がある方に顔を向けています。ここでホームズ像と写真を撮ったら、彼が見ている方に進むと221Bに行けます」なんて、もう熟練のガイドさんでなきゃ出てこないセリフですよね!これが個人旅行だったら、きっとそんな想像力は持てなかったな~、私。

ここに挙げたエピソードはほんの一部。
およそ一時間のツアーの間、A子さんの「今そこにある、2020年のロンドン」と「19世紀のロンドンと、そこにいるホームズ」がシームレスに並走するお話は、「知識を授ける」という風ではなく、ごく自然に淡々と続き、私のメモは大判のノートにぎっしり3ページにも及んだのでした。

ホームズミュージアムのお土産物やさんを覗いて(現代版デザインのグッズもありました~!私がnaoさんに譲り受けたSherlock版CLUEDOも……過去記事:『ぼくたちのかんがえたさいきょうの『CLUEDO SHERLOCK』)リージェント・パークに辿り着いたところで、楽しかったツアーもおしまい。
ここまでの3択クイズには正解してきた私でしたが、ここで最後の事件ならぬ最大の難問が待っていました。
画面上にばーーーーっと流れていく正典60編のタイトルから、間違っているものを見つけ、チャット機能で回答する!
やべえ!!チャットで皆さんに話しかけることもなく、匿名モブキャラとしてのほほ~んと楽しんできたツアーの、最後の最後で撃たれそうになってる~~~~!!

回答はここでは伏せますが、知識のみならずセバスチャン・モラン並みの動体視力が試されるこのクイズ(←大げさ)、ほとんどの参加者さんと共に戦死したことをご報告しておきます……Twitterのタイムラインでよく見かけるホームジアンさんたちは正解していらっしゃって、「H.I.S.認定ホームジアン」の称号を手にしていらっしゃいました。さすがだ……!!

お別れに際し、チャット機能でA子さんに質問できる時間があったのですが、ここに来てツアーの皆さんと別れ難くなってる……(戦死によってチャット参加へのハードルが一気に下がったのもあるけど……)そこにあったのは、旅の終わりの寂しさそのもの。
「A子さんはどのホームズ俳優が好きですか?」という質問にはにかみながら回答するA子さんは、ガイドさんでも先生でもなく、ひとりの友人のようで。
レクチャーの締めはセブン・シスターズの紹介で、ホームズはここで引退生活を楽しんでいるはず……って!もうガチのホームジアン思考じゃないですか……(涙)
何その現在形の締め!遠いロンドンで19世紀を語っておきながら、みんな同じ空の下にいることを感じさせて終わるって、もう泣くしかないじゃないですか!ずるい!!
「ありがとう!」「楽しかったです!」というメッセージの嵐の中で、ツアーは終了しました。

「あ~~、私、旅がしたかっただけじゃなくて、こんな風に好きなもののことをおしゃべりしながら歩く時間が恋しかったんだなあ」と、しみじみわかってしまいました。
旅は良い。好きなものの話を楽しそうにしてくれる人の話を聞く時間も、とても良い。
「自分の芯にとても近いところにあったのに忘れかけていた幸せ」を思い出させてくれる、そんなツアーでした。
まだまだいろんな不安はあるけれど、その陰に隠されてる幸せも、消えたわけではないんですよね。いつか、本当にA子さんたちと肩を並べてロンドンを歩ける日が来ますように。

その後は、ツアー中はサポートに回ってくださっていたシムラさんのインスタライブを楽しんだり(チャイナタウンからレスター・スクエアを経てナショナル・ギャラリーまで歩くツアーで、The Blind Bankerでシャーロックやジョンが歩いた風景がたくさん見えました!人の気配はだいぶ減り、きれいに舗装されていたり、新しい像ができていたりしましたが……)
Twitterで「シャーロックとジョンが行ったお店はどこなんだろうな」と呟いたらH.I.S.ロンドンさんのアカウントが気づいてくださって、「放送されてだいぶ時間が経っているので撮影時と違っている可能性がありますが、次A子さんがチャイナタウンでインスタライブする場合紹介できたらと思います※」とリプライを下さったりして、こんな風にツアーガイドさんたちと交流してる自分を学生の自分が見たらびっくりするんだろうなあ、と、長年抱えてきた何かを克服した気分になったりして(実際は六畳間で以下略)。深夜まではしゃいじゃって、次の日の仕事がマジしんどかったぜ!

もうガイドツアー敬遠するどころか、完全にH.I.S.ロンドンさんの一ファンです!
Zoomを使ったツアーは、スムーズに進行するために運営スタッフさんがお顔が見えるだけでも3名もいらっしゃって、これが無料では大変だな……と感じました。次回から有料になったりするかもしれないですが、またツアーに参加させていただきたいと思います。

HISロンドンさんのTwitterアカウント:@his_london
Instagramのアカウント:https://www.instagram.com/his_london/

※「撮影」というワードがあることから、もし本当にご紹介いただけるとしたら、おそらくドラマのどこかで実際に出てきたお店、またはそのお店があった場所を紹介してくださるのではないかと思います。
以前からブログを読んで下さっている方は「ナツミが言っているのはこの店のことだな」とお思いかもしれませんが(過去記事:『おいしい店とブラックジョーク』)、S1e1でシャーロックやジョンが言っていた店とは異なる可能性もあることを、念の為追記しておきますね。
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SHERLOCK10周年

金魚の皆様おはようございます!ミジンコです!!
なかなか終わらないコロナ禍の中、いかがお過ごしでしょうか。
このブログ始めた頃(9年前!)は思いもよらなかったのですが、私はだんだんアウトドアに興味が向いてきて、これが加齢か……としみじみしております。

いや、若い頃から、または幼い頃から自然に親しんでいる人もいっぱいいらっしゃるんですけど、私は体育の成績は壊滅的だわ、興味はサブカル寄りだわで庭や山や森に見向きもしない若者だったもので……親世代がガーデニングやら畑作りやら登山やら、休日にわざわざ体力を消費して喜んでいるのが全く理解できなかったんです。つい去年までは!

それが今はどうでしょう、リモートワーク化をきっかけに近所に畑を借り、頼まれもしないのに山にせっせと通う日々。私は定年過ぎても仕事したいワトスンタイプだと思っていたのに、早期退職して田舎暮らししたがるホームズタイプだったとは……(もともと田舎住みなので引っ越す手間はないけど……)おい、そこで「ないわ~」って顔してる若者!予告させてもらうぞ!養蜂に興味を持つのは時間の問題だぞ!

ご挨拶のつもりが、話が260度くらい逸れました。
そう!2020年7月25日はSHERLOCK放映10周年記念日!
もちろん皆さん気づいてましたよね!私ですか?マスクして尾瀬をザクザク歩いてました!
春先仕事が忙しいんで、水芭蕉って異常に葉のでかいバナナみたいな状態しか見たことないな……あっ芭蕉の実ってバナナのことだっけか!じゃあ松尾芭蕉は松尾バナナなの?吉本ばななは芭蕉リスペクトなの?やべえ検索してえ…あっ圏外……(※インドア派卒業できてない)みたいな愚考にかまけてるうちに、しれっとそのようなアニバーサリーが……
Twitterやってなかったら絶対気づかないまま終わった……

ミズバショウ
↑私のアニバーサリーを持ってったバナ……ミズバショウ
篠田真由美先生が教えてくださったのですが、これはミズバショウでないそうです!
ミズバショウ 果実の検索結果 ←そこそこバナナではあるものの、そんなバナナではなかった……

2010年春、本国から3ヶ月遅れで上映されたガイ・リッチーの映画『シャーロック・ホームズ』にときめきまくっていた私。
公開日、「『アバター』も見たいね!3Dなんだって~!どんなのかな?(←時代感)」と、友人とわざわざ大きめのシネコンに行ったのに、朝イチで観た『シャーロック・ホームズ』のキャラ解釈と洒脱な世界観に心奪われてしまった我々。こんなホームズ&ワトスンもいるんだ!
午後にもう一回観て(そういえばそれ以来『アバター』観そびれてる……一周回って今すごく観たい)、次の日も観に行き、とっくに手放していた原作本も揃え直し、飽き足らず海外のfan ficに手を出し(この時覚えたアレな用語は、その後生涯に渡って役立つことになるのだった)……そんな折に聞こえてきた、現代版ホームズの噂。

当時の私はたぶん一生分の情報収集能力を使い果たしたと思います(いや、総量でも大したことなかったですけど)。検索でひっかかる記事を読み、インタビューを視聴し、ちょこちょこ更新され始めたジョンブログをリロードしまくり(日本時間だと朝更新されるので、出勤するなりトイレに隠れてチェックしてた)、7月25日はそわそわドキドキで、職場の先輩とランチしたり、たまたま家族の誕生日なのでちょっと素敵なケーキを買い求めてお祝いしたりしたけど、どこか上の空だったことを覚えている……
そんな甘ずっぱい青春が詰まった日に、バナナで頭をいっぱいにしてる場合じゃないですよ!
今でもこのブログ読んでくれる人が、まあアクセス数から仮定して日本に20人くらいいたとして!まさかバナナの画像見せられるとは思ってないでしょうよ!(※バナナじゃない)

バナナバナナ言ってるうちに、なんとマイクロフト兄さんからのメッセージが。
ですよね~~!ロックダウンといえば、政府の偉い人の会見!私ったら、一体どうしてマイクロフトの会見を期待しなかったのかしら?(答:しなそうだから)
どうやら、中国の「优酷」(動画配信サイト)でSHERLOCK十周年のイベントがあった模様。そこに寄せられた動画、ということのようです(間違ってたらすみません)。
知った時点でも、マーク・ゲイティス氏の高名なファンアカウント様のプレミアムな和訳が拝めたのですが(ありがてぇ……)初心を思い出すため自分でも訳してみることにします。

Good evening Gold fish
Or indeed, good morning.
It has fallen to me to say some few words during this unprecedented global crisis.
With all of us had to make sacrifices, we've all had to get used to Zoom calls and to step off the pavement to avoid strangers and totally to avoid friends and family.
This has become known as social distancing, or as I prefer to call it, ”paradise”.
(自らカメラを操作する様子のマイクロフト。リモートワーク風?)

金魚の諸君、こんばんは。もしくは、おはよう。この世界的な未曾有の危機に際し、二言三言、話をさせてもらう機にあずかった。
我々はみな強いられている……Zoomを使って話すことを。見知らぬ者との接触を厭い、舗道を外れて歩くことを。そして友人や家族さえ、避けることを。
そうした行為は「ソーシャル・ディスタンシング」の名で誰もが知るところになったが、私はこう呼びたい…「楽園」と。(いい笑顔)

It's long been a maxim of mine that not engaging with any other human beings in anyway, whatever is bound to lead to the maximum of……What is that word? Oh, yes. "Happiness".
これは私の長きに亘る信条なのだが、どんな人間とも、どんな絆であれ、結ばないことこそが最大の「アレ」につながるのだ……何だったかな?そう、「幸福」。

This is a lesson I am afraid my younger brother Sherlock has yet to heed.
In fact, rather than using his considerable powers for the right purpose, he continues to get involved in all sorts of strange adventures and to form alliances and friendships and to, well, mingle.

残念ながら、我が弟シャーロックはその辺りのことがまだ学べていない。
彼の力は注目に値するものだが、正しい目的に使われていないのが事実だ。
未だに「巻き込まれること」にかまけているよ、ありとあらゆるおかしな冒険やら、絆やら友情やら……そうだな、「交わる」ことに。

Now it's come to my attention that it is ten years since a highly fictionalised account of my brothers' adventures were brought to the screen.
This was a mistake.
Detection is or should be an exact science.and should be treated with the same cold and unemotional manner.
These programmes have attempted to tinge it with romanticism which has rather the same effects as if one were to work a love story or an elopement into the fifth proposition of Euclid.
However, in their defence, the one who plays me is very handsome.

さて、そろそろ言及せねばなるまい。あの番組~弟の冒険をやたらと脚色した代物~が10周年を迎える。
あの番組を放映したのは大きな間違いだ。
推理とは、厳正な科学であるべきで、冷静に、感情抜きで扱われなければならない。この番組はロマンチックな味付けをされているから、まるでユークリッド幾何学の第五定理に恋物語を持ちこんだようになってしまっている。
しかしながら、長所を挙げるとすれば……私を演じる俳優は非常にハンサムだ(めっちゃいい笑顔)

So, if you want to see these programmes again and if you do, there must be something wrong with you then tune into……Youku.
Some of us have re-read Proust during lockdown or learn another three languages, but if you chose to vegetate on the sofa watching the television, that is entirely your concern. Goodbye.
Or indeed, go away.

もしこの番組を見直そうとしているなら君は正常とは言い難いが、あれを利用するといい(眼鏡をかけて画面外の何かを凝視しながら)……ヨウク。
このロックダウン期間中にプルーストを読み直す人間もいれば、新たに3カ国語をマスターする者もいる。しかし、ソファに寝そべってテレビを見ることを選択しても、それは全く君の自由だ。
さようなら。というか……さっさと立ち去れ。


もう~、マイクロフト節健在!
私の拙い訳で、あの溜めに溜めて最後の単語を吐き出しにんまりする話し方が伝わるかどうか……(たぶん伝わらないので元の動画をごらんください!)

さすがゲイティスさんというか、2分弱のこのスピーチの中にもちゃんと「原作ネタ」がちりばめられてます!
まず、マイクロフトが「長きに亘る信条」を述べますが、『緑柱石の宝冠』でホームズが例の信条を述べた時と言い回しがほぼ同じ。

"It is an old maxim of mine that when you have excluded the impossible, whatever remains, however improbable, must be the truth."

「(前略)あり得べからざることを除去していけば、あとに残ったのがいかに信じがたいものであっても、それが事実に相違ないというのを、昔から私は公理としております。」(後略・『緑柱石の宝冠』)


「すべてのありえないことをとり捨ててゆけば~」というこの「消去法」、ホームズが特によく口にする信条で、「四つの署名」「ブルース・パーティントン計画書」「白面の兵士」などでも言及されています。
マイクロフトがシャーロックの持つ「力」が正しく使われていない、と嘆くのは、『ギリシャ語通訳』や『ブルース・パティントン設計書』でホームズがマイクロフトの「力の使い途」について語ることの裏返しになってます。

“You wonder,” said my companion, “why it is that Mycroft does not use his powers for detective work. He is incapable of it.”
“But I thought you said– –”
“I said that he was my superior in observation and deduction. If the art of the detective began and ended in reasoning from an armchair, my brother would be the greatest criminal agent that ever lived. But he has no ambition and no energy. 

「どうしてマイクロフトが探偵の仕事に力をそそがないのかと君は不審に思うだろうが、じつはその力がないのだよ」
「だけどさっきの君の言葉では……」
「いや、兄は観察力や推理力では僕より優れているといったのさ。探偵術というものが、安楽いすに坐っていてするただの推理に終始するかぎり、僕の兄はまったく前代未聞の大探偵家といえるだろう。しかし兄にはそれを実行するだけの野心もなければ精力もない。(後略・『ギリシャ語通訳』)

The same great powers which I have turned to the detection of crime he has used for this particular business.

「同じ大きな能力を僕は犯罪の操作に向けているが、兄はこの特殊な仕事に注いでいるのだ。」(後略・『ブルース・パティントン設計書』)


そして、番組としてのSHERLOCKへの批評は『四つの署名』から。

He shook his head sadly.“I glanced over it,” said he. “Honestly, I cannot congratulate you upon it. Detection is, or ought to be, an exact science and should be treated in the same cold and unemotional manner. You have attempted to tinge it with romanticism, which produces much the same effect as if you worked a love-story or an elopement into the fifth proposition of Euclid.”

ホームズはかなしげに頭を振って、「僕もちょっと見たがね、正直なところ、あれはあんまり褒められた出来じゃない。探偵するということは、一つの厳正科学なんだ~~であるべきはずなんだ。したがって冷静に、無感情な態度でとり扱われなければならないところを、君はロマンチックな味つけをしているから、まるでユークリッド幾何学の第五定理に、恋愛物語か駆落ちの話を持ち込んだような結果になっている。(『四つの署名』)」


ちなみにこれとほとんど同じことを、ジョンのブログへのコメントとしてシャーロックが書き込んでたりします。メタ的に言えば「シャーロック・ホームズの人格をマイクロフトとシャーロックに振り分けている」わけですが、素直に見ればただの似たもの兄弟です。

まだまだ「元ネタ」あるかもしれませんが(コメント欄開けておくので、あったらご教示ください!)、何より面白いのは、『SHERLOCK』の作者の一人であるゲイティス氏がマイクロフト本人として内容をくさすという、セルフディスり芸!(あ、俳優としてのゲイティス氏は『顔が100点!』だったようですが……)
思えば、ホームズがワトスンの作品をけなす場面だって、けなされた作品を書いた本人のドイルが書いてるわけで、原作にも「セルフディスり芸」が成立してたわけですよね。やはりさすがのマイクロフト兄さんことゲイティスさん、的確にオタクのツボを突いてきます。

そして、シャーロックとジョンの冒険が続いていることをさりげなく仄めかしてくれたのが、やっぱりうれしい。こんな大変な時だからこそ、同じ空の下シャーロックとジョンが生きて活躍しているという「想像」が、何よりのプレゼントです。さすがマイクロフト兄さんことゲイティスさん!オタ(もういいか……)

人と人との「交わり」が否定されることになったこの数カ月間。
この異様な日々をマイクロフトに「楽園」と表現させ、シャーロックが選んだ「交わり」を視聴者に思い出させるこの作り。なんていうか、もう「外国のイベント向け映像」に要求される水準を軽く超えてますよね……たった2分19秒で笑わせ、想像させ、考えさせる。(ついでに元ネタももたらす……)やっぱりすごいよゲイティスさん。

本来東京オリンピックを観るためだった4連休がかなわず、悲しい思い、辛い思いをした方もたくさんいらっしゃると思いますが、この思わぬプレゼントに元気をもらった人もきっといっぱいいますよね。ありがとう、マイクロフト兄さん!ミジンコは明日からもがんばります!
(原作からの引用はすべて延原謙訳)

第1話 「はじめまして探偵諸君」

レストレードが探偵たちに協力を仰ぐ…『緋色の研究』『六つのナポレオン』など
水筒に名前が書いてあったので正体がバレる…『青いガーネット』
ワトスンが所見を述べる、シャーロックが現場を嗅ぎ回る……『緋色の研究』
キャバ嬢への所見『緋色の研究』
桃缶チャーハン『バスカヴィル家の犬』
推理落語に素直な反応をみせ、絶妙な合いの手を入れるワトスン…『緋色の研究』『バスカヴィル家の犬』    
煙草にくわしいシャーロック…『四つの署名』
運転手が犯人…『緋色の研究』(←反転表示)
ハドソン夫人がワトソンにシャーロックの看護を依頼…『瀕死の探偵』
切り裂きジャックは別の黒幕がいる『恐怖の谷』



襲われる221B

秋はなんとなくホームズが似合う気がするのはどうしてなんでしょうね。読書の季節だからか、秋の装いにイングランドやスコットランドを思わせるものが多いからか。都会のデパートで「英国展」が行われるのも秋ですよね。

そして今秋、日本のテレビでホームズものが熱い!

かつて「トレンディドラマ枠」として洒脱な恋愛ものをよく放送していた(つまり私には縁遠かった)フジテレビ月曜9時で、ドイル正典を原作としたシャーロック アントールド・ストーリーズが始まりました。


発表当初は、キービジュアルがあまりにもBBC SHERLOCKにかぶっていた(タイトルロゴや、主人公たちの服装など)のでちょっと心配だったのですが(ロゴとタイトルは後に変更)、いざ始まってみると
・「語られざる事件」を絡めてくる
・毎回テーマカラーを設けて視聴者に関連を見つけさせる
などなど、大いにシャーロッキアン心をくすぐる作品。

リアルタイム視聴しながらSNSで気づきを共有して楽しんでいる方も多いようです。
そういう「メディアミックスの巧さ」は、ドラマと並行して登場人物のブログをアップしていたSHERLOCK初期を思い出させます。視聴者が参加して楽しめるのはいいですよね。

主人公の誉 獅子雄(ほまれ・ししお)を演じるおディーン様ことディーン・フジオカもかっこいい。
上記の流れからどうしても過去作と比べてしまって申し訳ないのですが、ベネディクト・カンバーバッチやロバート・ダウニーJr.に比べると、顔立ちが端正すぎて「変人探偵」としてはいまいちフックに欠けるかなあ、と思ってたんです。
でも、3話あたりで気がつきました。このホームズ、潜入捜査が巧い!
近年のホームズ役者さんたちはみんな個性的で素敵なんですが、癖が強い故に変装の場面になると「イヤイヤイヤ!ホームズ滲み出てるだろ!」という感じで、ギャグっぽい場面に落とし込まれることが多かったように思います(まして現代物の場合、19世紀に比べて服装・髪型にバリエーションが少ないのも難しいところ)。その点ディーン・フジオカ・ホームズは、どんな役にも自然に溶け込めてる感じ。役者さんの天性の雰囲気はもちろん、演技の巧さも地道に発揮されてるんじゃないかな。

アメリカやロシアのホームズと比べると、人種、文化や言語の「原作からの遠さ」に違和感を持ってしまうのはしかたないのですが、様々な国でホームズが再解釈されている流れの中で、既存の名作たちに肩を並べる物語に育つといいなあ。

個人的には、ワトスンが甘い顔立ちに反して「善良な人」ではないことが面白いと思う(ある過ちを犯したことが語られています。日本を舞台にした現代版では『従軍』という過去を背負わせられない分、良心に呵責のない医師として設定されるのかなあと思ってたので、意外な切り口だった)。佐々木蔵之介のレストレードや山田真歩のグレグスンも、奥行きを感じられるキャラクターで好きです。

このドラマへの考察を、Tomoさんが様々な方のツイートも含めまとめてくださっています。
【シャーロック】新月9ドラマ「シャーロック」第一話をシャーロッキアン的に見てみる
いまのところ毎話更新してくださっていますよ~(そして更新が速い!)ドラマ視聴と併せて、とても楽しみにしています。

それから、アニメ「歌舞伎町シャーロック」。
こちらは正典をベースにした事件を絡めつつ、様々な探偵たち、2丁目のママ?ハドソン夫人、推理を落語っぽく語るホームズや少年モリアーティなど、さまざまなキャラを惜しみなく出してくる楽しい作品。
シリーズを貫く事件として「切り裂きジャック事件」を用いるという王道パスティーシュ感と、現代の新宿に19世紀のロンドンを持ち込んだような軽いSF感。正道と混沌のバランスが良くて興味深い。
私は「おそ松さん」以来の深夜アニメ視聴なんですが、ほんとに昨今のアニメはセンスがいいというか、絵も綺麗でセリフまわしも面白くて、いい大人が夜中に一人で吹き出してしまうことしばしばです。

この2作品をチェックしているだけでも忙しいのに、D-Lifeで日本語吹替版のSHERLOCKが放送されてたりして、久々にホームズ度の高い日々を過ごしています。
原作やパスティーシュを紐解く機会も増え、今更ながら取りこぼしてたSHERLOCKの元ネタにはたと気づくことも多いです。

上述のTomoさんのブログで、誉の部屋が雨漏りで水浸しになったことの「元ではないか」と引用されていたこの場面。

「ワトスン君、けさの新聞みたかい?」
「いいや」
「じゃべーカー街でなにがあったか知らないんだね?」
「べーカー街でなにがあった?」
「ゆうべあの部屋へ火をつけられたよ。大したことにはならなかったがね」
「へえ! 怪しからんやつだ!」(『最後の事件』)


ということは、S1e3(第1シリーズ3話)"The Great Game"でシャーロックとジョンの部屋が爆発したり地下室に侵入されたり、S2e1”A Scandal in Belgravia”でハドスンさんが暴漢に襲われたり、全然元ネタ探し追いついてないけどS4e3”The Final Problem"でドローンに部屋が爆破されたりする場面の元ネタにもなり得るわけですよ!今更ですけど!!
こう列挙してみると、S3はハドスンさんにとっていい時代だったんですね。マグヌッセンに放尿される程度で済んで……(※『いい』の基準がおかしい)

S4の最後にシャーロックとジョンが221Bを片付けて、壁の落書きや銃痕まで再現している場面がありましたが、原作では『最後の事件』と『空き家の冒険』の間のどこかでハドスンさんかマイクロフト(の、よこした人たち。多分)があの作業をやったわけですよね。

私たちの昔いた部屋は、マイクロフト・ホームズの管理と、ハドスン夫人じきじきの注意とで、以前と少しも変わっていなかった。じっさいはいってみると、部屋の中は片づきすぎるくらいきれいになっていたが、調度にしても家具にしても、ちゃんとそれぞれの場所にそのままだった。一隅に科学実験の場所もあるし、酸で汚れた松板ばりの実験台もあるし、たなのうえには恐るべき切抜帳や参考書の類が並んでいる。これはロンドン市民のなかにも、焼きすてたがっている連中が少なくないのだ。それから図表類、ヴァイオリンのケース、パイプ架、ペルシャのスリッパまでが、そのなかに煙草がはいっているのだが、ひと目で見てとれた。(『空家の冒険』)


「大したことにならなかった(No great harm was done)」とホームズは言うけれど、ホームズ基準で言う「大したこと」とはどの程度の被害やら……
まああまり被害がなかったにしても、3年間の不在を感じないくらいに細かいところまで「元通り」というのはすごい。ワトスンのこの細やかな描写が、シャーロックとジョンの「えっそこまで戻すんだ……」とツッコみたくなるような「再現作業」の元ネタになっています。

19世紀末、『最後の事件』でのホームズの死を悲しんだ読者は、世紀をまたいで復活したホームズに狂喜しました。そんな彼らは「変わらない221B」の描写のひとつひとつがきっと嬉しかったはず。
現代版では「部屋の再現作業」が、一度は壊れかけたシャーロックとジョン、そしてホームズ一家の人間関係が新たな形で息を吹き返す過程にオーバーラップするかたちで描かれています。
そのようにして「冒険の存続」を願うメアリ、そしてドラマ視聴者の気持ちに応えているわけですね。

(原作からの引用はすべて延原謙訳)


ワトスンと最新医学

いつもお世話になっているYOKOさんが、お引越しなさる際にホームズ関連の書籍をたくさん譲ってくださいました。図々しい私もさすがに恐縮したのですが、「私のところでは役目を終えたので、いらなくなったら欲しい人にあげてください」というお言葉に納得して、ありがたく頂戴することに。


ツイートしたところ、YOKOさんのお考えに共鳴する方々が現れ、ダイレクトメールを通じて「私はこの本譲ります」「あ、その本欲しいです」という小さな循環ができました。(私はいただくばかりでしたが……)、その中の一冊として我が家にやってきたのがこの本!

いまよめ

『忌まわしき花嫁』のスクリプト原文・和訳に、英語学習者用の解説がついています。解説は主に英語の言い回しやスラングについてですが、原作やドラマ本編との関連にも多く触れています。「『ギリシャ語通訳』のメラスさんの名前の意味はギリシャ語で『黒』」なんて知らなかった~!!

この本の解説から気づいた元ネタをひとつ。
「オレンジの種五つ」の脅迫に悩むユースタス卿を、シャーロックとジョンが訪れる場面。

「夢遊病なんだ」
「なんですって?」
「寝ながら歩いてしまう、それだけのことだ。これは実にありきたりの疾患だ。君は医師だと思っていたが!」(後略・訳は書籍本文より)


この部分に対する解説にはこうあります。


ジョンは医師だが、Somnambulismを知らない。それ故すぐにユースタスに怒鳴られたわけだが、この病名が辞書に登録されたのが1797年※となっていることを考えると、作品の舞台となっている1895年には、この病気がまだそれほど認知されていなかったのだと考えられる。

※原文ママ~1897年の誤り?(ナツミ)


「夢遊病」という病名を知らなかったジョン。知らなかったことを隠しもしないところに『瀕死の探偵』のこの場面を思い出しました。


「君の善意はわかっているんだ」病人は泣くようなうめき声をだした。「君の無学ぶりをさらけ出さなきゃならないのかい?タパヌリ熱って何だか知っているかい?台湾の黒爛病って何だか知っているかい?」
「そんな病気は聞いたこともないね」


そもそもホームズがでっちあげた存在しない病気なので、ワトスンが「聞いたこともない」のは当たり前。このお話の終わりでホームズが「僕が医者としての君の才能を、それほど見くびっているとでも思うのかい?」と言いますが、知ったかぶりをしなかったことでも、ワトスンの医師としての誠実さが窺われます。


また、ワトスンには最新の医学研究に興味を持っている描写があります。


「私はパーシイ・トリヴェリヤンと申す医者で、ブルック街四○三番に住んでおる者です」
「朦朧性神経障害に関する論文をお書きになったトリヴェリヤン博士じゃありませんか?」
自分の労作が私に知られていた喜びで、彼は青じろいほおをぽっと染めた。
「まるで反響がありませんので、あの論文はもう埋もれたものと思っていました。それに出版社に売れゆきの具合をたずねてみて、すっかり失望させられました。そうすると、あなたもやはり医学の方をおやりですか?」
「私は退役の外科軍医です」
「私の道楽はずっと神経科でして、何とかしてこいつを独立した専門に育てあげてやりたいと思うのですが、むろん人はまずやれることから手をつけてゆかなきゃならないので……(後略)」

ワトスンは外科医なのに、神経障害に関する論文をちゃんと読んでる。

ちなみにトリヴェリヤンは「反響がない」と言ってますが、この論文で「ブルース・ピンカートン賞とメダルを獲得」しています。ただし、専門医としてやっていくには、開業後しばらく無収入でも良いくらいの金額が必要だと言って、資金を貯めるために一般医として開業しています。当時はまだ、神経科という分野がひろく一般には注目されていなかったわけですね。でも、意識の高いお医者さんたちはちゃんと評価していた、ということかな。

『入院患者』の発表は1893年。朦朧性障害と夢遊病の研究にどれほどの時間差があったかはわからないのですが、原作のワトスンに沿うならば、1895年のジョンに夢遊病に関する知識があっても、そう不自然ではない気がします。


ただし『忌まわしき花嫁』19世紀パートのジョンはシャーロックの頭の中で作られたジョンなので、原作のワトスンどころか本物のジョンともちょっと違う感じがします。この時点での「シャーロックの中のジョン」は鈍くて愚かな人っぽい描写が多いのですが、21世紀のジョンはどうだったんでしょう。先進医療に興味を持っているのかしら。


ビジュアルの伴う二次創作では、どうしても「頭脳担当はホームズ、ワトスンはそれ以外(腕っぷしだったり、ボケ役や癒やし役だったり)担当」にしたほうがコンビとしてバランスよく映るわけですが、このように原作のワトスンには知的な面も描写されています。

映像化作品でも、たとえば『Elementary』のジョーンは、性別でホームズとの対照を見せられる分、知的で落ち着いた性格がよく描かれていると思います。


(原作からの引用はすべて延原謙訳)

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プロフィール
Author:ナツミ


シャーロック・ホームズが好きです。どちらかというとワトスン君がより好きです。

宝塚・宙組公演でホームズものがかかるようです。

『シャーロック・ホームズ-The Game Is Afoot!-』 -サー・アーサー・コナン・ドイルの著したキャラクターに拠る-

タイトル長い……!さすが宝塚の貫禄というか、テキトーなホームズ像じゃなくて、めちゃめちゃキャラクター考証した上で話はこちらでどうとでもさせてもらいますから!という気合がこの約60文字(長い)に満ちあふれてて、これは絶対おもしろいやつ!!

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