最初の挨拶
パンダとジョン

BBC制作、現代版シャーロック・ホームズのドラマ「SHERLOCK」ファンのブログです。
①正典/聖典(原作)と比較しながらドラマを観て、元ネタ探し
②ドラマでまだ出てこない原作の事件は、SHERLOCKだとどんな話になるのかな?と妄想する

…を一人で(主にトイレとかお風呂で)楽しんでいたのですが、
さまざまな方にご意見をいただけたら楽しいだろうなあ、と思って始めました。
ネタバレ満載ですのでお気をつけください!
★原作の文章を引用する際、主に新潮文庫版(延原謙・訳)を参考にさせていただいております。
★全ての記事は、推測やこじつけを基にしており、たまに妄想も入っております。ご了承の上ご利用ください。
★このサイト及び記事へのリンクは、どうぞご自由になさってください。
【お願い】 ★記事における間違いは、できる限り修正したいと考えております。お気づきの点がありましたら、ご教示いただけるとありがたいです。
★コメントを歓迎しております。初めてコメントくださる方は、こちらの記事をご一読いただければ幸いです。
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「あの場面の元ネタは?」という時はこちらへ
記事索引「ブリキの文書箱

ワトスンガイド


荒れている探偵を前に途方に暮れているお友達へ

私たちもおんなじでした。
あなただけではないんです。

探偵は、思う通りにはいきませんね。
でも、だからこそ楽しいこともあるんですよ。

探偵とワトスン役の幸せの道しるべになればと、思いをこめてこのガイドを贈ります。

ジョン・H・ワトスン




【解説】S4終了済み、日本での放映は未定という微妙な時期のエイプリルフール。
当日のブログ名は「わとすんさん」。元ネタは当日最終回を迎えたのNHK朝の連続テレビ小説「べっぴんさん」でした。
「べっぴんさん」の主人公のモデルはこども服店「ファミリア」の創業者です。
「泣いている赤ちゃんを前に途方に暮れているお母さんへ」という書き出しで始まる子育てハウツー冊子「キアリスガイド」の序文を、探偵も赤ちゃんもそんなに変わんねえ、という大雑把な把握で拝借致しました。

後日、相談者の答え合わせがTwitterで細々と行われたのですが、皆さん文章が上手過ぎて、本当に誰が誰だかわからなかった……!


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大いなるオレンジの種

トランプ氏が新大統領になってアメリカの話題が気になる今日この頃、「正典」を読んでいても、アメリカ絡みのお話を目で追ってしまいます。
『オレンジの種五つ』は南北戦争の後遺症や当時の船舶、郵便事情がわかって興味深いお話なのですが、唐突に第1シリーズ3話(The Great Game)との関連に気づきました(たぶん皆気づいてた)。

『オレンジの種五つ』は、この話でシャーロックに送られてきた携帯電話の「五つの警告音」の元ネタでもありますが(過去記事『五つの警告音』、それだけではないようです。

1.シャーロック(ホームズ)の失敗

今思うと、第1・第2シリーズは主にジョンの目を通してシャーロックを描いていて、シャーロック視点を中心に描かれる第3・第4シリーズと対になっているような気がします。
"The Great Game"では、[シャーロックはゲームに夢中になるあまり人命を軽んじているのではないか」というジョンの疑念がストーリーの柱のひとつになっています。実際、シャーロックは「勝ちにこだわるあまり被害者の一人を助けられなかった」格好になってしまいますが、『オレンジの種五つ』には「ホームズが完全に解決できなかった事件ではあるけれど、ぜひ紹介したい」というワトスンの前置きがあります。
ホームズやシャーロックの予想よりも事態は逼迫していたのに出足が遅れ、結果として彼らを頼ってきた人を死なせてしまう、という展開が似ています。

待っているあいだにと、卓上に置いたままの新聞を手にとって、ひろげてみた私は、ふと目についた見出しにたちまち心がひやりとした。
「おいホームズ君、もう間にあわないぜ!」
「えッ!」ホームズは静かにコーヒー茶碗をおいて、「そんなことではないかと思っていたんだ。どんなふうにやられている?」と言葉はおちついているが、内心はかなり動揺しているらしい。
「オープンショウという名と『ウォータールー橋の惨劇』という見出しが目についたばかりだが、ひとつ記事を読んでみよう」


2、小道具と地名

シャーロックの言動に傷ついたジョンは、それでも彼の指示通り新聞を調べだしますが、いち早く「ウエスト青年の事故死」を見つけます。これは、ワトスンが朝食の席で何気なく手に取った新聞でオープンショウ青年の死を見つける場面に通じていたのかもしれません。
オープンショウはウォータールー駅付近で誤ってテムズ河に転落したと見なされます。(ジョンが見つけた記事" Archway suicide"はつながってる?)
アレックス・ウッドブリッジの死体が見つかったのはテムズ側南岸、サウスワーク橋とウォータールー橋の間。ほぼ一致してますね。

昨夜九時から十時までのあいだに、H署のクック巡査はウォータールー橋付近で服務中、救いを求める悲鳴と水音を耳にしたが、何しろ真の暗夜のうえあの嵐のなかとて、ニ、三通行人の協力もあったけれど救助はとうてい不可能なので、ただちに警報を発し水上署の助力を得て結局死体は発見した。ポケットから出た封筒によりホーシャム付近のジョン・オープンショウという青年紳士と判明したが、たぶんウォータールー駅発終列車に乗るつもりで急ぐうち、あまりの暗さに道にまよい、河蒸気乗り場から墜落したものと推定される。死体になんら膀胱の痕跡が残っていないところからみて、過失死であるのは間違いないであろうが、それにつけてもこのような危険な乗船場の存在することに関して当局の一考をうながさざるをえない。



3、ジョン(ワトスン)によるシャーロック(ホームズ)像の見直し

「(前略)僕の記憶に誤りがなければ、君はいつか、僕たちの知り合った当初だったか、僕の知識の限界をうまくいい現わしたことがあるね」
「そうそう、あれは珍記録だったっけ」私は笑って答えた。
「たしか哲学、天文学、政治の知識は皆無で、植物学は不定、地質学はロンドンを中心として五十マイル以内の土地ならば、服についたどろを見てその地域を指摘しうるほど該博、化学は偏倚、解剖学は系統的でなく、扇情文学と犯罪記録には特異の知識を有し、ヴァイオリンに巧みで拳闘をよくし、剣客にして法律に通じ、コカインとタバコの中毒者というのがだいたいの内容だったと思う」


二人はワトスンの処女作『緋色の研究』について話しています。冒頭でシャーロックとジョンも、ジョンのブログ中のシャーロックの描写について喧嘩していましたよね。
ここでワトスンは、ホームズに対する認識に誤りがあったと認めているわけですが、ジョンも"The Great Game"事件を通してシャーロックをより深く理解することになります(過去記事:『The Great Gameの構造』)。

あと、根拠のない妄想として読んでいただくとして、個人的に『オレンジの種五つ』には『最後の事件』同様、水のイメージが付きまとうんですね。嵐の夜、海洋小説、河蒸気乗り場、船着き場。それが、"The Great Game"のテムズ河岸やプールの場面に結びつくのかも。まあ他のエピソードにだって河もプールも水族館も出てくるんで、ほんとに妄想なんですけど。

『オレンジの種五つ』が思ってたよりも大きな「元ネタ」だったとすると、もともと『海軍条約文書事件』と『ブルース・パティントン~』が絡み合ってる"The Great Game"はほんとにグレートだ……もう詰め込めるだけ詰め込んだな~!!って感じですね。
さらに"The Abominable Bride"、略して『忌嫁』にも絡んでくるとなると、ほんとに『オレンジの種五つ』は使い勝手がいい原作……SHERLOCKに置けるコストパフォーマンスの高さでは『花婿失踪事件』に次ぐかもしれない。(まず『原作コスパ』って何なんだよ、って話ですが、フィーリングでわかってやってくださいますか……)

(原作からの引用は延原謙訳)

Break up

お久しぶりです。ま、まだ生き物はここにいるんだろうか……
サボり過ぎてFC2の管理画面にすら拒否られ、パスワード思い出すのにだいぶ苦労したナツミです。最低。
記事も更新できてなければ年賀状もできていない体たらくですが、誰にも望まれていないことはきっちりやるという主義だけは守っていきたい。それが筋を通すということではないでしょうか。それが漢の生き様。

偉そうに言ったそばから弱音を吐くのもアレなんですけど、今年は笑えない感じに多忙だったんですよ!年末は体調崩しっぱなしだったし!まあ休みぜんぶ使ってイギリス行ったり、ゴリゴリ遊んでたことも否めないですけど!

そんな一年で得た教訓は、「困ったときは人に頼る」
本当に、周りの人に色々頼ってなんとかしてもらった一年でした。
家族に、友達にありがとう!
上司に、先輩に、同僚に、後輩に、みんなにありがとう!
迷惑ついでにもう一つお願いします!
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「……なに、この封筒」
「何も言わずに一枚取ってください」
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「それ、塗っといてください。できれば12月23日までに」
「だから何、これ」
「まあ、大人の塗り絵だと思っていただければ」

再現
「何なのこれ、仕事?」
「ある意味今年最後の大仕事です」

このブログに来てくださるほどの物……SHERLOCK好きな方はお気づきかと思いますが、元はコレです、コレ。
コメント欄でカミーノさんに教えていただいて、新宿紀伊國屋書店にて購入致しました。
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今回使ったページ以外も面白かったですよ。マイパレ法廷で無数の女性に取り囲まれるシャーロック塗り絵(見開き)とか。
「塗り甲斐」という未知の価値観でシーンを選んでる感じが最高です。
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台紙に貼って……
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並べ直せるように番号をふっておきます。今気づいたけどAの19って何だよ。いい加減だな、我ながら。
線に沿って切り取ったピースをたまたま近くにいた皆さんに配布します。ほんとすみません。

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さて、着々とピースが帰ってきました。
忙しい時期に無理やりやらせといて評価するのも傲慢かとは思いますが、塗り方に個性が出て面白い。

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この人はたぶん北斎的な何かだと思ってる。
正解:おっさんの髪 です

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虹がかかってる!ソシオパスの中に虹を見出す……美しいですね

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お前だけはこの絵が人間だとわかったはずなのに、なぜあえて緑を選ぶ。

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この人は細かいとこまで丁寧に塗ってくれてますね。季節感もある!

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子どもに塗らせたな


なんだかんだで、全部並べた結果がこちらになります





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おお、アート!!



………なのか??

毎年ビミョーな出来のクリスマス工作ですが、人に頼ってもやっぱりビミョーでした。(一ピースずつはかなり凝ってるので、プロデューサーが悪いんですけど)
とりあえず、華やかではあるかもしれない……

あと、よく見ると左下あたりに塗ってない部分があるんですけど、そこらへんが私の管理能力の限界ということです。(もはや、配り忘れたのか忘れられたのかすらわからない)
……来年は、もう少し何とかしたいです、色々と。
リアル友人・同僚の皆様、本当にお世話になりました。巻き込んでごめん……
それからもちろん、こんなザマだというのに見に来てくださって、最後まで読んでくださったあなた様にジャンピング土下座でございます……

【過去のクリスマス工作】
お菓子の家
スノードーム
痛チョコ

ベストマンと『白面の兵士』

先日Twitterでことりさんと『白面の兵士』についてお話していてふと思ったのですが、『白面の兵士』事件には、ワトスンを連想させるキーワードが含まれています。

・依頼人のドッドは帰還兵。ホームズは"From South Africa, sir, I perceive."(南アフリカからお出でになりましたね)と口火を切る
・ドッドは「最も親しい友人」ゴドフリー・エムズオースを救おうとする
・ホームズは、「友人で絶対に信頼できる医師」サー・ジェームズ・サンダーズを同行する

このお話には、二重の意味でワトスンが不在です。
まず、語り手がいつものワトスンではなく、ホームズ。
ワトスンの記録に「浅薄」「厳正なる事実の記録に止めないで、大衆の興味に阿るもの」と文句を言い続けてきたホームズは、「じゃ自分で書いてみたまえ、ホームズ君」と反撃されてしまい、ペンを執る羽目になります。
書きながらも「書くとなるとやはりできるだけ読者に興味を与えるようにしなきゃならないということに、いまさら気のついたことを告白せざるを得ない」とか「ワトスンがすでに言ったかもと思うが」とか「いや、自分で話すとなると、うっかり手のうちを見せてしまうところだった。ワトスンがいつもフィナーレの俗受けで成功するのは、鎖の中のこういう一環を伏せておくからなのだ」とかワトスンワトスンうるさいんですが、「ワトスンがホームズの話を書く」ように、ホームズの語るお話にもワトスンの影を強く感じるのは面白い。
ちなみに後年、引退後のホームズによって綴られる『ライオンのたてがみ』では、ワトスンの影はずっと薄いと思います。

『白面の兵士』では、作中にもワトスンは出てきません。その理由は、ホームズの手で

当時、ワトスンは私を置きざりに結婚していたが、知りあってから後にもさきにも、これがただ一度の自分本位な行動であった。私は一人ぼっちだったのである。

と書かれています。

ホームズが初めて自分の手で書いた「事件簿」は、ワトスンのいない、しかし、だからこそワトスンを強く感じられるもの。
この事件を通し、ホームズは述懐します。

こうなってくるとワトスンのいないのが悔まれる。彼がいてくれたら、急所の質問をしたり嘆声を発したりして、常識を組織化したにすぎない私の簡単な技巧を、一大不思議にまで高揚してくれるところだ。



普通に読めばすごい皮肉なんですが……裏を返せば、ホームズにとっては理論の証明に他ならない捜査でも、そこにワトスンがいるだけで、血湧き肉躍る冒険に昇華される、とも言えます。
それは、『緋色の研究』で描かれた、二人の最初の事件からずっと変わらないことです。
『白面の兵士』には、ホームズの「一人ぼっち」になったからこその気付きが記されているのだと思います。

ワトスンの話が出たから、この機会に述べておくが、私が今日まで多くのつまらない事件にこの古い友人であり伝記作者でもある男と行動をともにしてきたのは、感傷や気まぐれからではない。ワトスンにはワトスンなりに著しい美点があるからであって、彼は謙譲な性格から、私の実績を誇張して評価するのあまり、自分のことにはあまり思い至らないのである。
自分で結論を出したり、これからの行動を予見したりするような男と行動をともにするのは、つねに危険であるが、事件の展開するごとに眼をみはるような男、さきのことは何一つわからないような男こそは、じつに理想的な協力者というべきである。


冒頭のこの部分だけ読むと、ワトスンは苦笑してしまうかもしれない。でも、読み進めていくと、ホームズが依頼人や事件のそこかしこにワトスンの面影を見出しているように見えなくもない、と思います。
また、医師の協力者、退役軍人の友人や親子の描写は、「ワトスンがいなくても同じような人は山ほどいる。問題はないんだ」と見せつける一方で、「いてくれたら君に意見を聞けたのに」という思いが見え隠れするように思えてくるのは、私の考えすぎでしょうか。

ホームズは、書こうと思えば他の事件も書けたはずなんですよね。この頃だけでもアベイ学校事件(グレイミンスター公爵にふかい関係のある事件)やらトルコ皇帝から委託された事件やら、何だかすごそうな事件に関わってるし。まあこの二つは偉い人のプライバシーに関わるアレコレで難しいにしても、面白い事件が山とある中で、あえて『白面の兵士事件』を選んで筆にしたのには、理由があるはず。
そんなこんなで、『白面の兵士』という作品には、「君がいてくれたらいいのに」という、ホームズからワトスンへの不器用なメッセージが隠されている、という読み方もできるのではないでしょうか。

さて、シャーロックのスピーチですが、これもメアリと一緒になって221Bを離れたジョンに向けたもの。
このスピーチにも、『白面の兵士』からの引用があります。

過去記事『引き立て役の真実
救うということ
(事件の重要なネタバレ)殺人リハーサル

『SHERLOCK』の共同制作者の一人で脚本家でもあるスティーブン・モファット氏は、こちらのインタビューでこう語っています。

“I remember being a 12-year-old kid thinking, Oh, why didn’t we see Sherlock be the best man? Please, can we see that? That would be the best story in the whole world, and I don’t care if there’s a crime in it or not, because it must have been the best and worst speech of all time!” he says.

「12歳の頃思ったんだ。ああ、どうしてベストマン姿のシャーロックを書いてくれなかったんだろう?本当に観たかったよ。世界一いい話だったはずだよ。この際犯罪なんて起きなくても構わないさ。人類史上最高で最低のスピーチだったろうに!(拙訳)」


Vulture.com
Steven Moffat Explains the Origins of Sherlock’s Best-Man Speech By Denise Martin より

そして数十年後、彼はその夢を形にしたことになります。

"John, I am a ridiculous man. Redeemed only by the warmth and constancy of your friendship.
.But, as I am apparently your best friend, I cannot congratulate you on your choice of companion.
Actually, now I can."
"Mary, when I say you deserve this man, it is the highest compliment of which I am capable.
John, you have endured war, and injury, and tragic loss — so sorry again about that last one. So know this, Today, you sit between the woman you have made your wife and the man you have saved.
In short, the two people who love you most in all this world. And I know I speak for Mary as well when I say we will never let you down, and we have a lifetime ahead to prove that."

「ジョン、僕はちっぽけな男だ。君の優しさや友情のおかげで、やっていけてるようなものだ。
君は僕を親友と思ってくれているようだが、だとしたら僕は、君の相棒を選ぶ眼は祝福できない。
でも、相手が彼女ならできる。」
「メアリ、君はこの男に相応しいひとだ。これは、僕としては最高の賛辞だよ。
ジョン、君は戦争や怪我や別れに苦しんできた……最後のヤツについては、本当にすまなかったと思ってる。
だから、わかってほしい。君の隣に座っているのは、君の生涯の伴侶。反対側にいるのは、君に人生をもらった男。
つまり君は今、世界で一番君を愛している二人に挟まれているんだ。
だから僕は……僕たちは、絶対に君を失望させたりしない。一生かけて、それを証明するよ。(拙訳)」



モファットさん、このスピーチを書きながらボロボロ泣いちゃったそうです。私も訳しながら泣きそうなんですけど、原作のホームズはこんなにストレートな言葉を使わなかったんじゃないかしら、と考えてしまうのは、私が「秘すれば花」の文化を持つ国の人だからなのか、モファットさんが挙式経験2回あるのに対し、私はゼロ回だからなのか……(ひ、ひがんでなんかいませんよ!?)

ワトスンとメアリの結婚式にホームズが出席して、シャーロックがジョンに贈ったような、温かな言葉をかけたと想像するのも楽しいのですが、ホームズの友を慕う気持ちが、誰にもわからない暗号のようにひっそり残っている、と妄想するのも、また楽しいのです。

蛇足ですが、シャーロックがジョンに「君を絶対に失望させない」と誓うのは、『瀕死の探偵』や『マザリンの宝石』でホームズがワトスンを評して「君が僕を失望させたことは一度もなかった(You never did fail me/you have never failed to play the game)と言っていることの、ちょうど裏返しですね。ジューン・トムスンによれば、これは当時のイギリスにおける最高の賛辞だそうです。(『ホームズとワトスン~友情の研究』ジューン・トムスン 押田由起訳)

(原作からの引用はすべて延原謙訳)

ジム・モリアーティーとジョン・クレー

『忌まわしき~』どころか"His Last Vow"も1周めが終わってないのに、何で今さら第2シリーズ!?って話ですよね、ホントすみません!
でもたぶん第1シリーズにも戻ると思う……ザルもいいとこの元ネタ探しブログ・21世紀探偵です。
別件で原作を読み返していて、あれ、これ書いてたっけ?書いてなかったっけ?と思って一応このカテゴリを見直したらなかったので……(どこかの記事に書いてたらすみません!ジムはまだ『キャラクター』カテゴリでも記事がないので、たぶん書いてないと思うですが!)

ロンドン塔で、ジムが展示されているクラウン・ジュエルを身に着けて、玉座に座っている場面。
この後逮捕されるわけですが、この「高貴な罪人」ぶり、赤髪組合のこの場面を思い出しませんでしたか?

「そんなけがれた手でさわるのはよしてもらいたいね」ジョン・クレーは手錠をはめられながらいった。「君は知るまいが、僕はこれで王室の血をうけている身だからね。僕に何かいうときは、『あなた』とか『どうぞ』とかいうきれいな言葉を使うようにしてもらいたい」
「よろしい」ジョーンズが眼を丸くし、苦笑をうかべていった。「では、恐れいりますが、どうぞ上へおあがりください。馬車を求めて、殿下を警察へご案内申しあげたいと存じます」
「それならよかろう」ジョン・クレーは静かにそういって、われわれ三人に頭をさげておき、ジョーンズに護られてしずしずと歩みさった。



"No rush."(急ぐことはない)と落ち着き払って逮捕されるジムと、よく似てる気がします。

この時ジムはロンドン塔だけでなく、イングランド銀行、ペントンヴィル刑務所のセキュリティも破っています。
現代ではコンピューター管理なのでハッキングという形ですが、銀行破りを開始するための携帯のアイコンに、ジムは「豚さん貯金箱」の絵を使っています(貯金箱が豚さんって、どこの国由来なんだろ)。タップすると金貨が溢れ出すのですが、これはきっと、シティ・エンド・サバーバン銀行の地下にあった3万枚のナポレオン金貨。
それにしてもこの場面、皆が皆お茶してるのが可笑しくてたまらない私。お茶の時間律儀に守りすぎだよ、英国人!
クレーは逃亡の時間を稼ぐために、銀行が休みの週末を狙うのですが、ジムも「泥棒カササギ」ぴったりの時間で犯行を終えるために、ちょっと皆の初動が遅れる時間を狙ったのだったりして。

また、ジムはさまざまな機関に内通者を作っていましたが、『赤髪組合』では依頼人の質屋さんに入り込んだ店員が、地下道を掘っていたわけです。銀行の情報が漏れていることから、銀行上層部にも内通者がいたと考えられます。
前代未聞の大胆な手口で「金庫破り」をやってのけたジョン・クレーとジム、似てないでしょうか。

私は、モリアーティにはどうしても「教授」のイメージがあります。『恐怖の谷』で若いマクドナルド警部が「息子を見守る父親」になぞらえたように、ホームズよりだいぶ歳上な印象。
現代版ジムは、どちらかというとこのジョン・クレーに似ている気がずっとしてたんですが、この場面で決定的になりました。
「小柄ですが肉付きがよくて、万事に抜け目のない」「もう三十はすぎていますのに、髭というものが一本もありません」「つるつる顔」「クッキリした子供っぽい顔」「女のような白い手」を持っているというクレーの容姿もジムっぽい。耳にピアスホールがあるのもクレーの特徴なんですが、ジムはどうだったかしら。

ホームズによると、犯罪者としてのクレーの人物像はこんな感じ。

「ジョン・クレーは殺人犯で窃盗犯で、偽金使いでかつ偽造犯人ですよ、メリーウェザーさん。まだ若い男ですが、悪事にかけては怖るべき腕をもったやつです。ロンドンに悪人は多いですが、たとえ他のやつは全部取り逃がしても、あいつだけはぜひ押えてやりたいと思っているくらいなんです。それほどこのジョン・クレーというやつは若くてすごいのです。
祖父は王族公爵で、彼自身もイートンの貴族学校やオックスフォード大学に学んだ男です。手先もよく動けば、頭も鋭くて、いたるところで痕跡は見うけるけれど、なかなか所在を知らせません。たとえば、今週スコットランドでどろぼうを働いたと思うと、来週はもうコーンウォールに現われて、孤児院建設をたねに金を集めているというやつです。私は多年、どうかしてこの男を捕えてやりたいとねらってきましたが、まだその正体を見たこともないという有様なのです」


大絶賛じゃないですか!……と言ったら語弊がありますが、ホームズにここまで言わせる犯罪者もなかなかいないんじゃないでしょうか。
あと、ジムにしてはちょっとフットワーク良すぎか。ジムが自ら動いたのって、この時が初めてですもんね。モリアーティが犯罪界のナポレオンなら、この人は犯罪のデパートっていう感じ。

『赤髪組合』でホームズは見事にクレーを捕らえますが、その前に「二、三回小ぜりあいをやったことがある」らしい。礼を言うメリーウェザー頭取に「私はこのジョン・クレーには、返してやらなければならないちょっとした借りがあったのです。きょうこそその借りをかえしてやったわけです。(後略)」と答えています。これは、ジムがシャーロックに対して繰り返す"I owe you"(君には借りがある)という台詞に呼応しているのではないでしょうか。

それにしてもジョン・クレーがこれっきり出てこないの、もったいないですよね。いいキャラなのに。
どうにか刑務所から出て、暗躍してたりしたら面白いんですが。
クレーがトンネルを掘る肉体労働なんてやらなそうなこと、赤髪組合のトリックには協力者が必要なことから、この事件は組織的な犯罪だと見る研究者もいるそうです(Wiki『赤毛組合』
逮捕されたクレイが余裕綽々なのにも、何か裏がありそうですよね。
グラナダ版ではこの事件、モリアーティーが裏で糸を引いてたことになってました。やっぱり『赤髪組合』は、犯罪王にふさわしいお話なんだと思います。

(原作からの引用はすべて延原謙訳)
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プロフィール

Author:ナツミ
シャーロック・ホームズが好きです。どちらかというとワトスンがより好きです。

2017年エイプリル・フールお片付けしました。お付き合いありがとうございました!片付けきれてないところがあったらお知らせいただければありがたいです。

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このブログで考察した「元ネタ」を、ドラマの時系列に沿って探すための索引サイトです。 順次更新致します。 「21世紀探偵・ブリキの文書箱」
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