最初の挨拶
パンダとジョン

BBC制作、現代版シャーロック・ホームズのドラマ「SHERLOCK」ファンのブログです。
①正典/聖典(原作)と比較しながらドラマを観て、元ネタ探し
②ドラマでまだ出てこない原作の事件は、SHERLOCKだとどんな話になるのかな?と妄想する

…を一人で(主にトイレとかお風呂で)楽しんでいたのですが、
さまざまな方にご意見をいただけたら楽しいだろうなあ、と思って始めました。
ネタバレ満載ですのでお気をつけください!
★原作の文章を引用する際、主に新潮文庫版(延原謙・訳)を参考にさせていただいております。
★全ての記事は、推測やこじつけを基にしており、たまに妄想も入っております。ご了承の上ご利用ください。
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ハドスン夫人の買い物

第4シリーズの放映に向けて、NHKで今までのお話が再放映されていますね。今日は"The Blind Banker"(邦題:死を呼ぶ暗号)。
何度も観たつもりでしたが、時間をおいて観るとまた新たな気づきがあったりします(まあ私の場合、『気づき』ニアリーイコール『こじつけ』なのですが……)

ジョンのガールフレンド候補・サラが(予定外に)221Bにやってきます。
出すものがなくてキッチンを漁りまくるジョンに、飲み物とおつまみを差し入れしてくれる「聖女」ハドスンさん。(この後、彼女はもっと大きな意味で聖女になっていくのですが……)
お酒は果物の入ったパンチ。おつまみはポテトチップスに何かのディップ、といったところでしょうか。置いてあるものでささっと準備してしまうハドスンさん、頼れるベテラン主婦!

感謝するジョンに彼女がささやく台詞が

"If it was Monday, I’d have been to the supermarket! "
「今日が月曜日だったらねえ、スーパーに行ってたのに!」



"the supermarket"とは、たぶん冒頭でジョンがセルフレジと戦ってた"TESCO"ですよね。BBCが公開してたスクリプトにもTESCOと明記されてるし、地理的にも、少なくとも当時はTESCOが一番近かった。(ハドスンさんはもっと大きくてお得なスーパーに行っていたのかもしれませんが)

参考:TESCOの場所について 過去記事『シャーロックの住所

この「本当ならもっとおいしいものを出せたのよ~~、今日はこれでひとつねえ、我慢してちょうだいねえ」と言わんばかりのおばちゃん口調、7年前より俄然共感できるし、それどころか似たようなこと言うようになってる自分に愕然としてるんですが、まあそれは置いといて。
腰が痛いにしても、ハドスンさんは自分でスーパーに買物に行くわけですよね。でも行く日を「月曜」と決めてる。
過去記事のリンクもう死んでるんでこちらに貼り直しますが、近所のTESCOが無休で6時から23時まで営業してるんですよ。
英国の主婦はスーパーに行く曜日を決めているものなのか、それとも何かのついでがあるとかで、ハドスンさんが個人的に「月曜」と決めているのか?または、私がしらないだけで「食料品は月曜に買う」という暗黙の了解があるのでしょうか。
そこらじゅうにスーパーがあっていつでも買い物できる現代の台詞として、ちょっと不自然な気がします。
ただハドスンさんと「買い物」については、原作の解釈に「定説」があり、そこから持ってきた「曜日の話」なら納得が行きます。
その定説は私の大好きな漫画『シャーロッキアン!』でわかりやすくまとめられていたので、そこから引用したいと思います!

『海軍条約事件』は1889年夏の出来事とされている
事件が解決をみたのは8月1日……問題の朝食が出されたのはこの日だ
この日は木曜日だった

当時のイギリスでは各種の支払いは週ぎめで土曜日に金銭のやりとりが行われていた
今もその名残は随所に見られる……たとえばイギリスのサッカー選手の契約賃金は年俸ではなく週給で報道される

さてハドスン夫人も毎週土曜日にホームズから部屋代を受け取っていたと考えられる
となるといきおい食料品や生活必需品の買物も土曜日にすることが多かっただろう

一方木曜日ともなると懐具合もだいぶ淋しくなってくる……
そんな時来客の分も含め3人前の朝食を用意しなければならなかったハドスン夫人は……
頭を悩ませたのではないかな
新たに買物をせずに何か作らなければならない 手持ちの食料品を使って

『シャーロッキアン!』4巻 第29話『カレーの問題(後編)』より 



車先生は、『海軍条約事件』でハドスン夫人が朝食にチキンのカレーを出した理由を「古い肉を美味しく食べる工夫だった」と指摘します。
急な来客、手持ちの食料品がない状況、ハドスンさんの機転……この3つからこの場面の元ネタは『海軍条約文書事件』だったかも、と推測できるわけですが、さらに先輩シャーロッキアンに倣って推測を進めると、シャーロックとジョンも週に一度家賃を手渡ししていて、その日は月曜日であると言えるかも。原作同様土曜日に家賃を渡していて、土日の人混みを避けて月曜に買い物している、という考え方もできるかもしれませんね。
ハドスンさんの財源は他にもありそうですし、今時手渡し?と言われてしまうかもしれないんですけどね……(ちなみに私は大家さんに家賃を手渡ししてます。カナダにいた時もそうしてました。日本では銀行引き落としが多いと思うんですが、英国ではどうなのかな)

"The Blind Banker"は終始「おカネの話」でもあるので(参考:過去記事『シャーロックとジョンとお金』)、私にとっては今頃気づいたことでも、自然に連想なさっていた方も多かったのかもしれません。

『シャーロッキアン!』に話を戻すと、前述の車先生の台詞を受けて愛里ちゃんが「冷蔵庫もないし……」と呟くのですが、言われてみれば『SHERLOCK』には冷蔵庫がしょっちゅう出てくるような気がする。これも現代らしさの強調だったんでしょうか。ホームズの時代に冷蔵庫があったらこんなものを入れてたかも、と想像するのは楽しかったでしょうね。

ところでハドスンさんが用意してくれた「ポテトチップスとディップ」ですが、アメリカやイギリスの方のおうちにお邪魔すると、本当によく出てきます。デイップは残念ながら見えなかったのですが、アボカドやアンチョビなどの高級(?)食材(日本では結構高いです……)を使わなくても、キャンベルなどの水や牛乳を足すタイプのスープ缶で美味しく作れるよ!と友人に教えてもらったことがあります。スープ缶(マッシュルームがおススメ)を開けて、サワークリームとかマヨネーズとか、なんかそこら辺にあるもので味を調整するだけ!料理とも言えない料理ですが、本当に常備してあるものだけで作れるし、ポテトチップスだけよりはぐっとおつまみっぽいムードが出る!ような気がする!玉ねぎやセロリ、パセリ、トマトなどの野菜があれば刻んでいれてもよし。
深夜に来客と事件を解決することになった折には、ぜひお試しください!
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ワトスンガイド


荒れている探偵を前に途方に暮れているお友達へ

私たちもおんなじでした。
あなただけではないんです。

探偵は、思う通りにはいきませんね。
でも、だからこそ楽しいこともあるんですよ。

探偵とワトスン役の幸せの道しるべになればと、思いをこめてこのガイドを贈ります。

ジョン・H・ワトスン




【解説】S4終了済み、日本での放映は未定という微妙な時期のエイプリルフール。
当日のブログ名は「わとすんさん」。元ネタは当日最終回を迎えたのNHK朝の連続テレビ小説「べっぴんさん」でした。
「べっぴんさん」の主人公のモデルはこども服店「ファミリア」の創業者です。
「泣いている赤ちゃんを前に途方に暮れているお母さんへ」という書き出しで始まる子育てハウツー冊子「キアリスガイド」の序文を、探偵も赤ちゃんもそんなに変わんねえ、という大雑把な把握で拝借致しました。

後日、相談者の答え合わせがTwitterで細々と行われたのですが、皆さん文章が上手過ぎて、本当に誰が誰だかわからなかった……!


大いなるオレンジの種

トランプ氏が新大統領になってアメリカの話題が気になる今日この頃、「正典」を読んでいても、アメリカ絡みのお話を目で追ってしまいます。
『オレンジの種五つ』は南北戦争の後遺症や当時の船舶、郵便事情がわかって興味深いお話なのですが、唐突に第1シリーズ3話(The Great Game)との関連に気づきました(たぶん皆気づいてた)。

『オレンジの種五つ』は、この話でシャーロックに送られてきた携帯電話の「五つの警告音」の元ネタでもありますが(過去記事『五つの警告音』、それだけではないようです。

1.シャーロック(ホームズ)の失敗

今思うと、第1・第2シリーズは主にジョンの目を通してシャーロックを描いていて、シャーロック視点を中心に描かれる第3・第4シリーズと対になっているような気がします。
"The Great Game"では、[シャーロックはゲームに夢中になるあまり人命を軽んじているのではないか」というジョンの疑念がストーリーの柱のひとつになっています。実際、シャーロックは「勝ちにこだわるあまり被害者の一人を助けられなかった」格好になってしまいますが、『オレンジの種五つ』には「ホームズが完全に解決できなかった事件ではあるけれど、ぜひ紹介したい」というワトスンの前置きがあります。
ホームズやシャーロックの予想よりも事態は逼迫していたのに出足が遅れ、結果として彼らを頼ってきた人を死なせてしまう、という展開が似ています。

待っているあいだにと、卓上に置いたままの新聞を手にとって、ひろげてみた私は、ふと目についた見出しにたちまち心がひやりとした。
「おいホームズ君、もう間にあわないぜ!」
「えッ!」ホームズは静かにコーヒー茶碗をおいて、「そんなことではないかと思っていたんだ。どんなふうにやられている?」と言葉はおちついているが、内心はかなり動揺しているらしい。
「オープンショウという名と『ウォータールー橋の惨劇』という見出しが目についたばかりだが、ひとつ記事を読んでみよう」


2、小道具と地名

シャーロックの言動に傷ついたジョンは、それでも彼の指示通り新聞を調べだしますが、いち早く「ウエスト青年の事故死」を見つけます。これは、ワトスンが朝食の席で何気なく手に取った新聞でオープンショウ青年の死を見つける場面に通じていたのかもしれません。
オープンショウはウォータールー駅付近で誤ってテムズ河に転落したと見なされます。(ジョンが見つけた記事" Archway suicide"はつながってる?)
アレックス・ウッドブリッジの死体が見つかったのはテムズ側南岸、サウスワーク橋とウォータールー橋の間。ほぼ一致してますね。

昨夜九時から十時までのあいだに、H署のクック巡査はウォータールー橋付近で服務中、救いを求める悲鳴と水音を耳にしたが、何しろ真の暗夜のうえあの嵐のなかとて、ニ、三通行人の協力もあったけれど救助はとうてい不可能なので、ただちに警報を発し水上署の助力を得て結局死体は発見した。ポケットから出た封筒によりホーシャム付近のジョン・オープンショウという青年紳士と判明したが、たぶんウォータールー駅発終列車に乗るつもりで急ぐうち、あまりの暗さに道にまよい、河蒸気乗り場から墜落したものと推定される。死体になんら膀胱の痕跡が残っていないところからみて、過失死であるのは間違いないであろうが、それにつけてもこのような危険な乗船場の存在することに関して当局の一考をうながさざるをえない。



3、ジョン(ワトスン)によるシャーロック(ホームズ)像の見直し

「(前略)僕の記憶に誤りがなければ、君はいつか、僕たちの知り合った当初だったか、僕の知識の限界をうまくいい現わしたことがあるね」
「そうそう、あれは珍記録だったっけ」私は笑って答えた。
「たしか哲学、天文学、政治の知識は皆無で、植物学は不定、地質学はロンドンを中心として五十マイル以内の土地ならば、服についたどろを見てその地域を指摘しうるほど該博、化学は偏倚、解剖学は系統的でなく、扇情文学と犯罪記録には特異の知識を有し、ヴァイオリンに巧みで拳闘をよくし、剣客にして法律に通じ、コカインとタバコの中毒者というのがだいたいの内容だったと思う」


二人はワトスンの処女作『緋色の研究』について話しています。冒頭でシャーロックとジョンも、ジョンのブログ中のシャーロックの描写について喧嘩していましたよね。
ここでワトスンは、ホームズに対する認識に誤りがあったと認めているわけですが、ジョンも"The Great Game"事件を通してシャーロックをより深く理解することになります(過去記事:『The Great Gameの構造』)。

あと、根拠のない妄想として読んでいただくとして、個人的に『オレンジの種五つ』には『最後の事件』同様、水のイメージが付きまとうんですね。嵐の夜、海洋小説、河蒸気乗り場、船着き場。それが、"The Great Game"のテムズ河岸やプールの場面に結びつくのかも。まあ他のエピソードにだって河もプールも水族館も出てくるんで、ほんとに妄想なんですけど。

『オレンジの種五つ』が思ってたよりも大きな「元ネタ」だったとすると、もともと『海軍条約文書事件』と『ブルース・パティントン~』が絡み合ってる"The Great Game"はほんとにグレートだ……もう詰め込めるだけ詰め込んだな~!!って感じですね。
さらに"The Abominable Bride"、略して『忌嫁』にも絡んでくるとなると、ほんとに『オレンジの種五つ』は使い勝手がいい原作……SHERLOCKに置けるコストパフォーマンスの高さでは『花婿失踪事件』に次ぐかもしれない。(まず『原作コスパ』って何なんだよ、って話ですが、フィーリングでわかってやってくださいますか……)

(原作からの引用は延原謙訳)

Break up

お久しぶりです。ま、まだ生き物はここにいるんだろうか……
サボり過ぎてFC2の管理画面にすら拒否られ、パスワード思い出すのにだいぶ苦労したナツミです。最低。
記事も更新できてなければ年賀状もできていない体たらくですが、誰にも望まれていないことはきっちりやるという主義だけは守っていきたい。それが筋を通すということではないでしょうか。それが漢の生き様。

偉そうに言ったそばから弱音を吐くのもアレなんですけど、今年は笑えない感じに多忙だったんですよ!年末は体調崩しっぱなしだったし!まあ休みぜんぶ使ってイギリス行ったり、ゴリゴリ遊んでたことも否めないですけど!

そんな一年で得た教訓は、「困ったときは人に頼る」
本当に、周りの人に色々頼ってなんとかしてもらった一年でした。
家族に、友達にありがとう!
上司に、先輩に、同僚に、後輩に、みんなにありがとう!
迷惑ついでにもう一つお願いします!
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「……なに、この封筒」
「何も言わずに一枚取ってください」
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「それ、塗っといてください。できれば12月23日までに」
「だから何、これ」
「まあ、大人の塗り絵だと思っていただければ」

再現
「何なのこれ、仕事?」
「ある意味今年最後の大仕事です」

このブログに来てくださるほどの物……SHERLOCK好きな方はお気づきかと思いますが、元はコレです、コレ。
コメント欄でカミーノさんに教えていただいて、新宿紀伊國屋書店にて購入致しました。
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今回使ったページ以外も面白かったですよ。マイパレ法廷で無数の女性に取り囲まれるシャーロック塗り絵(見開き)とか。
「塗り甲斐」という未知の価値観でシーンを選んでる感じが最高です。
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台紙に貼って……
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並べ直せるように番号をふっておきます。今気づいたけどAの19って何だよ。いい加減だな、我ながら。
線に沿って切り取ったピースをたまたま近くにいた皆さんに配布します。ほんとすみません。

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さて、着々とピースが帰ってきました。
忙しい時期に無理やりやらせといて評価するのも傲慢かとは思いますが、塗り方に個性が出て面白い。

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この人はたぶん北斎的な何かだと思ってる。
正解:おっさんの髪 です

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虹がかかってる!ソシオパスの中に虹を見出す……美しいですね

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お前だけはこの絵が人間だとわかったはずなのに、なぜあえて緑を選ぶ。

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この人は細かいとこまで丁寧に塗ってくれてますね。季節感もある!

gazou6.jpg
子どもに塗らせたな


なんだかんだで、全部並べた結果がこちらになります





kansei.jpg

おお、アート!!



………なのか??

毎年ビミョーな出来のクリスマス工作ですが、人に頼ってもやっぱりビミョーでした。(一ピースずつはかなり凝ってるので、プロデューサーが悪いんですけど)
とりあえず、華やかではあるかもしれない……

あと、よく見ると左下あたりに塗ってない部分があるんですけど、そこらへんが私の管理能力の限界ということです。(もはや、配り忘れたのか忘れられたのかすらわからない)
……来年は、もう少し何とかしたいです、色々と。
リアル友人・同僚の皆様、本当にお世話になりました。巻き込んでごめん……
それからもちろん、こんなザマだというのに見に来てくださって、最後まで読んでくださったあなた様にジャンピング土下座でございます……

【過去のクリスマス工作】
お菓子の家
スノードーム
痛チョコ

ベストマンと『白面の兵士』

先日Twitterでことりさんと『白面の兵士』についてお話していてふと思ったのですが、『白面の兵士』事件には、ワトスンを連想させるキーワードが含まれています。

・依頼人のドッドは帰還兵。ホームズは"From South Africa, sir, I perceive."(南アフリカからお出でになりましたね)と口火を切る
・ドッドは「最も親しい友人」ゴドフリー・エムズオースを救おうとする
・ホームズは、「友人で絶対に信頼できる医師」サー・ジェームズ・サンダーズを同行する

このお話には、二重の意味でワトスンが不在です。
まず、語り手がいつものワトスンではなく、ホームズ。
ワトスンの記録に「浅薄」「厳正なる事実の記録に止めないで、大衆の興味に阿るもの」と文句を言い続けてきたホームズは、「じゃ自分で書いてみたまえ、ホームズ君」と反撃されてしまい、ペンを執る羽目になります。
書きながらも「書くとなるとやはりできるだけ読者に興味を与えるようにしなきゃならないということに、いまさら気のついたことを告白せざるを得ない」とか「ワトスンがすでに言ったかもと思うが」とか「いや、自分で話すとなると、うっかり手のうちを見せてしまうところだった。ワトスンがいつもフィナーレの俗受けで成功するのは、鎖の中のこういう一環を伏せておくからなのだ」とかワトスンワトスンうるさいんですが、「ワトスンがホームズの話を書く」ように、ホームズの語るお話にもワトスンの影を強く感じるのは面白い。
ちなみに後年、引退後のホームズによって綴られる『ライオンのたてがみ』では、ワトスンの影はずっと薄いと思います。

『白面の兵士』では、作中にもワトスンは出てきません。その理由は、ホームズの手で

当時、ワトスンは私を置きざりに結婚していたが、知りあってから後にもさきにも、これがただ一度の自分本位な行動であった。私は一人ぼっちだったのである。

と書かれています。

ホームズが初めて自分の手で書いた「事件簿」は、ワトスンのいない、しかし、だからこそワトスンを強く感じられるもの。
この事件を通し、ホームズは述懐します。

こうなってくるとワトスンのいないのが悔まれる。彼がいてくれたら、急所の質問をしたり嘆声を発したりして、常識を組織化したにすぎない私の簡単な技巧を、一大不思議にまで高揚してくれるところだ。



普通に読めばすごい皮肉なんですが……裏を返せば、ホームズにとっては理論の証明に他ならない捜査でも、そこにワトスンがいるだけで、血湧き肉躍る冒険に昇華される、とも言えます。
それは、『緋色の研究』で描かれた、二人の最初の事件からずっと変わらないことです。
『白面の兵士』には、ホームズの「一人ぼっち」になったからこその気付きが記されているのだと思います。

ワトスンの話が出たから、この機会に述べておくが、私が今日まで多くのつまらない事件にこの古い友人であり伝記作者でもある男と行動をともにしてきたのは、感傷や気まぐれからではない。ワトスンにはワトスンなりに著しい美点があるからであって、彼は謙譲な性格から、私の実績を誇張して評価するのあまり、自分のことにはあまり思い至らないのである。
自分で結論を出したり、これからの行動を予見したりするような男と行動をともにするのは、つねに危険であるが、事件の展開するごとに眼をみはるような男、さきのことは何一つわからないような男こそは、じつに理想的な協力者というべきである。


冒頭のこの部分だけ読むと、ワトスンは苦笑してしまうかもしれない。でも、読み進めていくと、ホームズが依頼人や事件のそこかしこにワトスンの面影を見出しているように見えなくもない、と思います。
また、医師の協力者、退役軍人の友人や親子の描写は、「ワトスンがいなくても同じような人は山ほどいる。問題はないんだ」と見せつける一方で、「いてくれたら君に意見を聞けたのに」という思いが見え隠れするように思えてくるのは、私の考えすぎでしょうか。

ホームズは、書こうと思えば他の事件も書けたはずなんですよね。この頃だけでもアベイ学校事件(グレイミンスター公爵にふかい関係のある事件)やらトルコ皇帝から委託された事件やら、何だかすごそうな事件に関わってるし。まあこの二つは偉い人のプライバシーに関わるアレコレで難しいにしても、面白い事件が山とある中で、あえて『白面の兵士事件』を選んで筆にしたのには、理由があるはず。
そんなこんなで、『白面の兵士』という作品には、「君がいてくれたらいいのに」という、ホームズからワトスンへの不器用なメッセージが隠されている、という読み方もできるのではないでしょうか。

さて、シャーロックのスピーチですが、これもメアリと一緒になって221Bを離れたジョンに向けたもの。
このスピーチにも、『白面の兵士』からの引用があります。

過去記事『引き立て役の真実
救うということ
(事件の重要なネタバレ)殺人リハーサル

『SHERLOCK』の共同制作者の一人で脚本家でもあるスティーブン・モファット氏は、こちらのインタビューでこう語っています。

“I remember being a 12-year-old kid thinking, Oh, why didn’t we see Sherlock be the best man? Please, can we see that? That would be the best story in the whole world, and I don’t care if there’s a crime in it or not, because it must have been the best and worst speech of all time!” he says.

「12歳の頃思ったんだ。ああ、どうしてベストマン姿のシャーロックを書いてくれなかったんだろう?本当に観たかったよ。世界一いい話だったはずだよ。この際犯罪なんて起きなくても構わないさ。人類史上最高で最低のスピーチだったろうに!(拙訳)」


Vulture.com
Steven Moffat Explains the Origins of Sherlock’s Best-Man Speech By Denise Martin より

そして数十年後、彼はその夢を形にしたことになります。

"John, I am a ridiculous man. Redeemed only by the warmth and constancy of your friendship.
.But, as I am apparently your best friend, I cannot congratulate you on your choice of companion.
Actually, now I can."
"Mary, when I say you deserve this man, it is the highest compliment of which I am capable.
John, you have endured war, and injury, and tragic loss — so sorry again about that last one. So know this, Today, you sit between the woman you have made your wife and the man you have saved.
In short, the two people who love you most in all this world. And I know I speak for Mary as well when I say we will never let you down, and we have a lifetime ahead to prove that."

「ジョン、僕はちっぽけな男だ。君の優しさや友情のおかげで、やっていけてるようなものだ。
君は僕を親友と思ってくれているようだが、だとしたら僕は、君の相棒を選ぶ眼は祝福できない。
でも、相手が彼女ならできる。」
「メアリ、君はこの男に相応しいひとだ。これは、僕としては最高の賛辞だよ。
ジョン、君は戦争や怪我や別れに苦しんできた……最後のヤツについては、本当にすまなかったと思ってる。
だから、わかってほしい。君の隣に座っているのは、君の生涯の伴侶。反対側にいるのは、君に人生をもらった男。
つまり君は今、世界で一番君を愛している二人に挟まれているんだ。
だから僕は……僕たちは、絶対に君を失望させたりしない。一生かけて、それを証明するよ。(拙訳)」



モファットさん、このスピーチを書きながらボロボロ泣いちゃったそうです。私も訳しながら泣きそうなんですけど、原作のホームズはこんなにストレートな言葉を使わなかったんじゃないかしら、と考えてしまうのは、私が「秘すれば花」の文化を持つ国の人だからなのか、モファットさんが挙式経験2回あるのに対し、私はゼロ回だからなのか……(ひ、ひがんでなんかいませんよ!?)

ワトスンとメアリの結婚式にホームズが出席して、シャーロックがジョンに贈ったような、温かな言葉をかけたと想像するのも楽しいのですが、ホームズの友を慕う気持ちが、誰にもわからない暗号のようにひっそり残っている、と妄想するのも、また楽しいのです。

蛇足ですが、シャーロックがジョンに「君を絶対に失望させない」と誓うのは、『瀕死の探偵』や『マザリンの宝石』でホームズがワトスンを評して「君が僕を失望させたことは一度もなかった(You never did fail me/you have never failed to play the game)と言っていることの、ちょうど裏返しですね。ジューン・トムスンによれば、これは当時のイギリスにおける最高の賛辞だそうです。(『ホームズとワトスン~友情の研究』ジューン・トムスン 押田由起訳)

(原作からの引用はすべて延原謙訳)
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プロフィール

Author:ナツミ
シャーロック・ホームズが好きです。どちらかというとワトスンがより好きです。

2017年エイプリル・フールお片付けしました。お付き合いありがとうございました!片付けきれてないところがあったらお知らせいただければありがたいです。

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このブログで考察した「元ネタ」を、ドラマの時系列に沿って探すための索引サイトです。 順次更新致します。 「21世紀探偵・ブリキの文書箱」
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