最初の挨拶
パンダとジョン
BBC制作、現代版シャーロック・ホームズのドラマ「SHERLOCK」ファンのブログです。
①正典/聖典(原作)と比較しながらドラマを観て、元ネタ探し
②ドラマでまだ出てこない原作の事件は、SHERLOCKだとどんな話になるのかな?と妄想する

…を一人で(主にトイレとかお風呂で)楽しんでいたのですが、
さまざまな方にご意見をいただけたら楽しいだろうなあ、と思って始めました。
※ネタバレ満載ですのでお気をつけください!
※原作の文章を引用する際、主に新潮文庫版(延原謙・訳)を参考にさせていただいております。
※全ての記事は、推測やこじつけを基にしており、たまに妄想も入っております。ご了承の上ご利用ください。
※リンクは、どうぞご自由に。

灰皿と階段

事件の依頼主(正確には、依頼したのは部下ですが)が、喫煙者であることを見抜いたシャーロックと、どうしてわかったのか知りたがるジョン。

「証拠は君の鼻先にあったよ、ジョン。いつものことだが、君は見てるのに観察しない」
「観察?何を?」 
「灰皿だ」(拙訳)


とても有名なセリフですね。これ、ちょうど「ボヘミアの醜聞」からの引用なんですね。

「推論の根拠を聞くと、いつもばかばかしいほど簡単なので、僕にだってできそうな気がするよ。それでいて実際は、説明を聞くまでは、何が何だかわからないのだから情けない。眼だって君より悪くなんかないつもりなんだがねえ」
「それはそうさ」とホームズは巻きタバコに火をつけて、肘掛椅子にどかりと腰をおろしながらいった。
「君はただ眼で見るだけで、観察ということをしない。見るのと観察するのでは大ちがいなんだぜ。たとえば君は、玄関からこの部屋まであがってくる途中の階段は、ずいぶん見ているだろう?」
「ずいぶん見ている」
「どのくらい?」
「何百回となくさ」
「じゃきくが、段は何段あるね?」
「何段?知らないねえ」
「そうだろうさ。心で見ないからだ。眼で見るだけなら、ずいぶん見ているんだがねえ。僕は十七段あると、ちゃんと知っている。それは僕がこの眼で見て、そして心で見ているからだ。(後略・延原謙訳)」


ちょっと説教くさい話になってしまいそうなところを、原作のホームズは「自宅の階段の段数」という誰にとっても身近な例を出すこと、現代版シャーロックはジョンの言っていた冗談に「オチ」をつけてみせることで、楽しく、しかも印象的なエピソードにしています。
こういう作り手の「巧さ」に出会うと、うれしくなってしまいますよね。

バッキンガム宮殿で

全裸でバッキンガム宮殿に通されると言う快挙(?)を成し遂げたシャーロックと、拉致られ歴も極まってついに空にまで進出したジョン。第3シーズンではぜひ海を越えていただきたい。

原作でもホームズは宮殿に招かれています(全裸じゃないですよ!多分!)。
第1シーズン第3話のモチーフの一つにもなった、「ブルース・パティントン設計書」事件の報酬を受け取るためです。

数週間後になって、ホームズがウィンザー宮殿で一日をすごしたことを、私は偶然知った。
帰ったときはすばらしいエメラルドのネクタイ・ピンを飾っていた。買ったのかと聞いたら、ある祝福すべき貴婦人から、幸運にもちょっとしたご用をうまく果したお礼に贈られたのだと答えるだけだった。だが私にはその貴婦人の尊い名は推測できた。このエメラルドのピンが、ブルース・パティントン設計書事件の時のホームズの功績を永遠に表彰するものであることをすこしも疑わないのである。(延原謙訳)


「その貴婦人の尊い名」がピンとこない日本人のために、我らが延原先生、訳注をつけてくださってます。当時英国を統治していたヴィクトリア女王です。
……「宮殿に招かれた」と言っても、片やエメラルドのピンを賜り、片や灰皿を盗んでくるとは、一口に「元ネタ」と言ってしまっていいのか悪いのか。

また、ジョンの方は

「そしてこちらがドクター・ワトスンですね?元、第五ノーザンバーランド・フュージリア連隊(The Fifth Northumberland Fusiliers)の」 (拙訳)


と聞かれていますが、この連隊は第一作「緋色の研究」のまさに冒頭に出てきますね。

一八七八年にロンドン大学で医学博士の学位をとった私は 軍医としての必須科目をおさめるため、ひきつづきネットリの陸軍病院へと進んだ。そしてそこで修行を終了してから、順調に第五ノーサンバランド・フュージリア連隊付の軍医補に任命されたのである。(延原謙訳)


「ロイヤル・フュージリア連隊」の公式サイトはこちら。日本語wikiはこちら
私のように軍事関係の知識に疎い者にもわかりやすく書かれています。
それにしても、原作の時代から現代までずーっと続いているんですよね。全く同じ隊名が通用してしまうということに、なんだか圧倒されてしまいます。

冷蔵庫に親指

1期第3話のジョン(冷蔵庫に生首発見)に続き、親指を見つけてしまったかわいそうなハドソン夫人。

ホームズで親指といえば、「技師の親指」。
この事件は、まずワトスンのところに持ち込まれたという珍しい事件です。

シャーロック・ホームズとの短からぬ親交のあいだに、彼が解決を託された事件のうちで、この私からの紹介によるものが二つだけある。ハザリー氏の親指事件とウォーバトン大佐の発狂事件である。(『技師の親指』延原謙訳)


結婚して221Bを出たワトスンは、パディントン駅の近くに医院を開業します。
駅の近くということで何人かの駅員を患者に持つことになり、その中でも特にワトスンに感謝したある車掌は「忠実な篤志客引き」となり、駅で患者がでると必ずワトスンの医院に連れて来るようになります(いかにもワトスンらしいエピソードですね)。
タイトルになっている水力技師(原文ではhydraulic engineer、水力学とは何か、にこだわると長~い話になってしまうんですが、興味がある方はwikiをごらんください)はある事件に巻き込まれ、親指を切断されてしまいます。
件の「篤志客引き」にワトスンの医院に連れてこられた彼は、ワトスンに事情を話し、ワトスンは彼を221Bに連れてゆきます。

もう一件、ワトスンがホームズに持ち込んだという「ウォーバトン大佐の発狂事件」は、タイトルから言って軍隊時代の知り合いの話でしょうか?グラナダ版では「背の曲がった男」も、軍隊からワトスンを通してホームズへの依頼があった、という設定になっていたと思います。
ジョンの軍隊時代を知る人も、今後出てくるんでしょうか。ブログには、負傷したワトスンを助けた看護兵のマーレイ君と思われる人物がコメントしていますが、本編にも出てきて欲しいですね~。

六つのサッチャー像

「アルミの松葉杖事件」はシャーロック1人で解決しましたが、この事件ではジョンが大活躍!
元ネタは、言わずとしれた「六つのナポレオン」。

クリスマスのすこし前の事件です。そういえば、この記事が公開された時期は、映画"The Iron Lady"(邦題は『マーガレット・サッチャー~鉄の女の涙』)の封切と重なっていたような。わざとぶつけたんでしょうか。

冒頭に、クリスマスの買い物にシャーロックを連れて行って、彼が街頭のサンタクロースに「面白い殺人事件をよこせ!」と怒鳴ると言うエピソードがついてます。ジョン、大変だな……

事件の話が始まるのは、「警官にエスコートされて」彼らが帰宅した後。
221Bではサリー・バーニコットという大学生が待っていました。

彼女の親友である、美術科の学生・ピエトロ・ヴェヌチが、陶芸室で刺殺体で発見されます。第一発見者は彼のボーイフレンド、ベッポ・ロビート。

この二つのイタリア系の名前は、「六つのナポレオン」からの引用ですね(原作ではベッポの姓は不明ですが)。
原作では、二人とも「社員が命令に違反するとすぐ殺してしまうという例の政治的秘密結社マフィアの一員(延原謙訳)」。共謀して、イタリアの貴族・コロナ公爵の持っている「ボルジア家の黒真珠」を盗み出します。
また、サリーの苗字は、買ったナポレオン像を壊されてしまった開業医・バーニカット博士からとられています。

さて、同じ頃、ピエトロの友人や周りの学生、講師の家に強盗が侵入するという事件が頻発。
シャーロックは調査に乗り出します。ジョンに頼んで(ジョン曰く『命令して』)、シーズン1の3話に登場したモダンアートのギャラリー「ヒックマンズ」の学芸員と偽り、大学に潜入させます(ここ実写で見たかった!)

ジョンの対応をするのは講師のホレス・ハーカー。
原作での役どころは、ナポレオン像を買ったばかりに殺人事件に巻き込まれてしまう新聞記者なんですが、ちょっと面白いキャラクターなんです。


「なんとかこいつを物にしておかなければ。むろん夕刊の第一版はもう詳報をのせて発行されているに違いないけれど…ああ、私ゃいつだってこれなんだ!ドンカスターで観覧台がおちたのを覚えていますか?あのとき私はスタンドにいた唯一の新聞記者だったんです。しかも私ンとこの新聞が、その記事を出さなかった唯一の新聞なんです。私があんまり驚いたんで、記事を書いてなんかいられなかったんですよ。こんどだって自分の家の玄関さきで行われた殺人事件に、おくれを取りそうなんですからなあ」(延原謙訳)



と、調査にきたレストレードやホームズたちがまだいるのに記事を書き始めてしまうという、いわばホームズといい勝負の「仕事バカ」。
この熱心な記者をうまく利用して、ホームズは犯人をおびきだす仕掛けをします。それがシーズン2第3話の大きな「元ネタ」となっていますので、ハーカー氏にはそちらでまた触れることになると思います。
それにしても、取材したい大事件の「当事者」に二度もなってしまうなんて、記者として運がいいのか悪いのか…

さて、ジョンのブログに戻ります。
ハーカーから、ピエトロが6つのサッチャー像を作ったと聞き出すジョン。
かねてシャーロックは予想していましたが、強盗が入ったのは、いずれもこのサッチャー像を買った人の家。
この時点で、残った像は二つ。シャーロックとジョンは、それぞれの住所で犯人を待ち伏せることに。
ジョンのほうに犯人が現れます。携帯で連絡をとったシャーロックと合流して、見事犯人をとり押さえます。

犯人はベッポで、サッチャー像の中には凶器のナイフを隠していました。
原作の彼がナポレオン像に隠したのは、「ボルジア家の黒真珠」。
証拠品と盗品。追い詰められた状況で犯人が「隠したいもの」の違いは、時代を反映しているのかもしれません。
というのも、「六つのナポレオン」でもベッポはピエトロを刺しますが、現場にナイフが落ちているんですね。結局これはピエトロ本人のものだったようですが、警察は犯人が遺棄したものである可能性も一応考えています。現場に凶器を遺棄なんて、DNA鑑定などがなかった時代ならではの無防備さ、ではないでしょうか。
(もっとも現代版ではベッポはナイフにイニシャルを書いていますし、刃傷沙汰に慣れたマフィアではなく学生、という違いもありますけど)

探偵側も、今は携帯があるから2箇所で同時に待ち伏せ、有事の場合すぐに合流、ということができますが、原作では同じ場所にホームズ、ワトスン、レストレードの3人が張り込んでいました。
こうして見ると、捜査の効率もずいぶんよくなったものですよね(まあ犯罪もですけど)。
人数が少なくてよくなった分、原作ではずいぶん活躍していたはずのレストレードが登場しなくて寂しいです。
グラナダ版では3人での張り込み、妙に楽しげだったんですよね。ワトスンがレストレードに飴を勧めて、ホームズに「ピクニックじゃないんだよ!」と怒られたりして。

もうひとつ残念なのは、現代版ではベッポが自ら像を壊してしまったので、ホームズが鞭をふるって像を破壊し、
紳士諸君!ボルジア家の有名なる黒真珠をご紹介申しあげます!」(延原謙訳)と高らかに宣言する名場面がなくなってしまったこと!せっかく初登場の時にあれだけ楽しそうに打ちまくってた鞭、ぜひ活用して欲しかった!シーズン2にはもう1人鞭の達人が出てくるので、キャラがかぶるからでしょうか…

もっとも、シャーロックは「乗馬鞭」と言ってましたね。ホームズが像を壊すのに使ったのは「鉛の入った、お気に入りの狩猟鞭」でした。原作では「赤髪連盟」「白銀号事件」などの危険な状況で「狩猟鞭」が武器として使われているのですが、乗馬鞭より大きくて重そう。石膏像を壊すのに向いているかもしれません。

狩猟鞭の画像検索結果(Google)

乗馬鞭の画像検索結果(Google)


アルミの松葉杖事件

待望の「語られざる事件」からのラインナップですね!
「マスグレーヴ家の儀式」に、事件名だけちょこっと出てきます。

ワトスンに部屋の整頓をしようと言われたホームズ、しぶしぶ寝室に入っていきますが、逆に青年時代の記録をひっぱり出してきます。

「このなかには事件がうんとあるんだぜ」彼はいたずらっ児の目で私を見ながら言った。
(中略)
「みんな成功した事件ばかりというわけじゃないよ。しかし中にはちょっと面白いものもある。こいつはタルトン殺人事件の記録、それからヴァンペリという酒屋の事件、ロシアの老婆事件、アルミニウムの松葉杖事件、それから蟹足のリコレッティとその憎むべき事件とね。(後略・延原謙訳)」


さて、ジョンのブログに戻りましょう。
ストランド街(劇場がたくさんあることで有名らしい)で観劇することになったシャーロック。

って、「名探偵コナン」を思わせる(唐突な)始まり方ですが、そもそもどうして行くことになったんでしょう…
コナン流を通すなら、劇場に向かいながらジョンが「雑誌の懸賞に当たるなんて僕もついてるよなあ」とチケットを眺めるオープニングがいいんじゃないかと思いますが(余計なお世話)、そのジョンはデート中につき不在(ちなみにうまくいったそうです)。この事件は、シャーロックからジョンへのボイスメールという形で綴られます。

ホームズの一人称で語られる事件、といえば「白面の兵士」と「ライオンのたてがみ」。
現代版では、シャーロックのウェブサイトで「緑のはしご事件」が読めますね。
緑のはしご事件はいかにもシャーロックらしく、物語というより「記録」という印象でしたが、今回はジョンに向かって話していますので、ちょっと趣が違います。

原作では、この事件は二人が出会う前に起こっていますので、ワトスン=ジョンがいないのは原作に沿っているといえます。
「マスグレーヴ家の儀式」や「グロリア・スコット号」も、ホームズが昔の話をワトスンに語って聞かせる、というスタイルですが、「バスカヴィル家の犬」でワトスンがホームズに書き送った、事件の経過を報告する手紙にも似ています。そういえば、「バスカヴィル~」はモーティマー医師の「杖」をめぐるホームズ&ワトスンの推理合戦で始まりますよね。
(もっともこちらは『松葉杖(crutch)』ではなく『ステッキ(stick)』ですが)

シャーロックが見た劇のタイトルは"Terror by Night"。「夜の恐怖」という感じでしょうか?
ミステリ劇らしいですが、この舞台上で実際に殺人が起こります。
内容をあまり詳しく述べると役名と実名が入り混じってややこしいので、手っ取り早く関係図をごらんください。
名前をクリックすると、青山剛昌先生の挿絵が見えるかもしれません(←うそです)。
人物相関図
…ここで告白します。私はホームズ好きではありますが、ミステリ全般に詳しいわけでは全然ないので、このブログの本分である「元ネタ検索」にはたと行き詰ってしまいました。

この事件、「元ネタ」があるとしたら、おそらく「キャラクター名」です。
シドニー・パジェットはいいんですよ、ホームズ関係だから!
しかし、正直言って他が全っ然わかりません。唯一、「ヘイスティングス」はポアロかな、と思いましたが…(それと、chapletteという姓で『四つの署名』のアグラの大秘宝にあった "chaplet"を思い出しましたが、たぶん関係ないですよね)

この事件や登場キャラクター名の由来がお分かりになる方がいらっしゃったら、コメント欄などでご教示いただければありがたいです。真実はいつもひとつ!

追記(2012/5/9)
劇中劇のタイトルについて、RM様がかなり有力と思われる情報をくださっています!
コメント欄をごらんください。


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プロフィール

Author:ナツミ
シャーロック・ホームズが好きです。どちらかというとワトスン君がより好きです。

出入りの業者さんが大金を机の上に忘れていったので、びっくりしてその人に電話してみた。開口一番「Oさん、ワイルドだぜぇ~?」と言ってみたら、彼は既に帰宅していて出たのは奥さんだったのに、全くの平常心で「ワイルドだろぉ~?」と返された。
来世では私と結婚してください。

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